「FREETEL」ブランドでMVNOサービスやSIMロックフリー端末事業を展開していた、元プラスワン・マーケティングの増田薫氏が、新会社「TAKUMI JAPAN(タクミジャパン)」を立ち上げ、モバイル業界に帰ってきた。
増田氏は2012年にプラスワン・マーケティングを起業し、「FREETEL」ブランドでSIMロックフリー事業とMVNOサービスを展開していた。しかし経営破綻から民事再生する事態となり、MVNOサービスは楽天に、端末事業はMAYA SYSTEMに譲渡した。それ以降、表舞台からは姿を消していたが、1月17日の発表会で久々に姿を見せた。
TAKUMI JAPAN製品のブランドとして名付けたのが「KAZUNA」。その第1弾製品として、モバイル通信機能搭載の翻訳デバイス「eTalk 5」を2018年12月に発売した。
eTalk5は、72の言語に対応したモバイル翻訳機。音声で話した内容や、案内・メニューなどを撮影した内容を翻訳できる。離れた場所のいる人にテキストや音声で翻訳内容を伝えることもできる。通信機能はLTEを内蔵しており、最大6台までのデバイスで使えるテザリングにも対応している。言語に応じた翻訳エンジンを活用しており、基本的にはクラウド上のエンジンを使うが、オフラインでも翻訳は可能。3.5型ディスプレイはタッチパネル操作に対応している。
本体価格は2万4800円(税別、以下同)で、ヨドバシカメラ、ビックカメラ、ヤマダ電機、ノジマといった量販店の他、Amazon.co.jpで購入できる。
増田氏は、各国のLTEをはじめとした多様な周波数帯をカバーしていることもeTalk5の特徴に挙げ、「2年間、143カ国ですぐに使える理想の翻訳機」だとアピールする。
このeTalk5の新ラインアップとして、新色「シャンパンゴールド」と、2年間世界各国で通信できるSIMカードをセットにした商品を、1月25日に発売する。価格は2万9880円。SIMカードは1枚で世界143カ国(うちLTEは75カ国)で使えるもので、増田氏は「グローバルSIM」と呼ぶ。SIMは設定済みで、起動すればすぐに利用開始できる。起動してから2年間は、約10万秒の音声翻訳が可能。テザリングを利用する場合は別途データ通信をチャージする必要がある。
さらに、eTalk5にバンドルするSIMカード単体での販売も予定している。詳細は1月末にオープンする予定のWebサイトで案内する。
eTalk5を発売してから大きな反響があり、法人用途で多数の企業から問い合わせが来たという。特にニーズが大きかったのはインバウンド関連で、「(飲食店が)外国語のメニューをどう作ったらいいか分からない」といった声が多かったそうだ。将来的には、会議室に翻訳機を置くだけで、各国の参加者が話した言葉をリアルタイムでPC上で表示すといった機能の提供も視野に入れる。
ソフトウェアアップデートも積極的に行う。1月には翻訳結果をCSV形式でエクスポート可能にする予定。また2019年上半期には、最大8言語の同時翻訳機能を追加する予定だ。
増田氏は、スマートフォンやケータイの開発も進めていることを明かし、既に欧米の携帯キャリアと話が進んでいるという。「今は詳しい情報は出せないが、今後も毎月のように記者発表をしたい。2020年に向けて日本の美しいものを組み込んでいきたい」と意気込む。スマートフォンは簡単な外観写真を公開し、オーソドックスな形状であることがうかがえる。
ケータイはAndroidベースの折りたたみ型になる予定。2.8型ディスプレイやSnapdragon 210、メモリ512GB、ストレージ4GBなどのスペックが明かされた。Wi-Fi経由で通話ができるWi-Fiコーリングにも対応する。FREETEL時代には「Simple」というストレートケータイを発売した。今回のケータイも「Simpleという名前になるかは分からないが」(増田氏)、海外キャリアと発売に向けて動いており、2〜3月に詳細を発表する予定。
増田氏はプラスワンの民事再生に伴い、自己破産を経験。2018年は所持金が1万4000円のみだった時期もあり、「2018年前半は親族から金を借りて生きていた」「もやしやカレーを食べていた」という。一方、「自己破産で学んだ面も大きい」と話す。「前の会社(プラスワン)ではでかいことばかり言っていた。言った通りになった部分もあったが、ダメな部分もあった。経営力のなさが破綻を招いた」と振り返る。
それでも「ハードウェアを出す会社としてしっかりやっていきたいという思いが変わらなかった」ことが復活につながった。「支援に回ってくれる方も現れた。逃げずに付き合ってくれる仲間もいる。家電量販や海外のお客さんから『頑張ろうよ』と声をかけてくれるようになって、気持ちが上がった。それまでは地獄だったが……」(増田氏)
「ハードと通信の両方をやった会社が少ない」ことから、2018年夏頃からはコンサルティングの依頼が増加。これで「カレー以外も食べられる生活ができるようになった」という。「海外の買いたいという人と、作りたいという人たちのニーズを合わせたらキャッシュフローがよくなった」ことで、eTalk5はほぼ融資ゼロで開発でき、TAKUMI JAPANの資本金970万円も自前で用意した。
FREETEL時代は大々的に発表会を開催し、芸能人を起用したCMも展開。ギラついた言動も含め、とにかく「派手」な印象が強かった増田氏。しかし発表会で久しぶりに見た同氏の印象は「謙虚」。記者に向けて発した第一声が「お手製感あふれる発表会ですが……」だった。
会社は変わっても「ハードウェアが好き」という思いは変わらない。TAKUMI JAPANでも「ハードウェアに特化する」という。「力も足りないし、匠(たくみ)なんて言うのはおこがましいが、思いはそこにある」(増田氏)
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