ただ、これはSamsungも折り込み済みの話だ。そのため、同社はGalaxy Foldと同時に、Galaxy S10シリーズも発表している。むしろ、数を稼ぐ“本命”はこちらといえる。超広角対応のトリプルカメラや、超音波方式の指紋センサー、インカメラの周りに穴をあけたパンチホール型のディスプレイなど、Galaxy S10シリーズは技術的に注目すべき点も多い。10年間の集大成と呼ぶにふさわしいモデルといえる。
筆者にとって、それ以上に興味深かったのは、ラインアップが3モデルに拡大したことだ。Galaxy S10には、通常版に加え、大画面版の「Galaxy S10+」と、プレミアムコンパクトをうたう「Galaxy S10e」の2つが兄弟機として用意されている。「Galaxy S8」以降、同シリーズは同時に大小2モデルを発売していたが、ここにGalaxy S10eが新たに加わった格好だ。
Galaxy S10eは、上位モデルのGalaxy S10やS10+とベースの仕様は共通している。プロセッサはQualcomm製の「Snapdragon 855」か、Samsung製の「Exynos 9820」を採用。背面のカメラも基本は同じで、F2.4とF1.5を自動で切り替える「デュアルアパチャー」にも対応し、超広角カメラも利用できるが、Galaxy S10、S10+に搭載された望遠カメラは省かれている。指紋センサーも画面内に埋め込まれておらず、側面上部に電源キーと一体のものが搭載された。
ディスプレイも有機ELだが、左右がカーブしていないフラットな形状で、上位モデルと比べるとベゼルも目立つ。解像度もフルHD+で、Quad HD+のGalaxy S10、S10+よりは低い。ハイエンドモデルとしての基本性能を維持したまま、人によっては“無駄”に感じてしまう機能をそぎ落としたのがGalaxy S10eといえる。iPhoneシリーズでいえば、iPhone XS、XS Maxに対するiPhone XRに近い位置付けで、Galaxyシリーズの主力になる可能性もある。
サムスン電子のIT&モバイル部門CEO、DJコー氏は「初代Galaxyを発売したときに掲げていたビジョンは、スマートフォンを民主化するというものだった」と語っていたが、Galaxy S10eは、その原点に回帰した端末だ。無駄をそぎ落とした分、価格も749ドル(約8万3000円)で、Galaxy S10の899ドル(約10万円)、Galaxy S10+の999ドル(約11万円)よりも手に取りやすい。
10万円を超えた価格で最上位モデルを買うのはさすがにためらうが、ミドルレンジまで落とすとスペック面での不満を感じる――Galaxy S10eは、そんなユーザー層に向けた端末だ。Appleに続き、Samsungもフラグシップモデルを3つのバリエーションに分けてきたが、この流れは他のメーカーにも波及するかもしれない。成熟期に入ってニーズが細分化し、ハイエンドモデル1台では、全ての需要を満たしきれなくなっていることがうかがえる。
日本では、2017年ごろから徐々に端末価格と通信料金が分かれた「分離プラン」が導入されてきた。2019年度はドコモもこれを導入する予定で、端末価格に対するユーザーの目が今まで以上にシビアになりつつある。日本での発売は現時点で未定だが、Galaxy S10eのような端末が求められる機運は高まっているといえるだろう。今後の動向にも、注目しておきたい。
(取材協力:サムスン電子ジャパン)
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