通信料金と端末代金との「完全分離」、端末代金の5G(第5世代移動体通信システム)のプレサービスの開始、楽天モバイルネットワーク(RMN)の新規参入など、2019年はモバイル通信業界において大きな動きが多数待ち構えている。
そんな中、米国のシンクタンク「Progressive Policy Institute(PPI)」が3月6日、公開シンポジウム「モバイル通信政策〜5G 時代のイノベーションに向けて〜」を開催。同社のチーフ・エコノミック・ストラテジストであるマイケル・マンデル氏が過度な規制が5G時代に向けたイノベーションを阻害するという立場でプレゼンテーションを行った。
この記事では、このプレゼンテージョンの重要な4つの論点をかいつまんでご紹介する。
新世代の通信技術に対応するモバイル通信端末は比較的高価になる。これは5Gであってもご多分に漏れないものと思われる。
諸外国と比べて携帯電話料金が高止まり傾向にあるという指摘があることから(参考記事)、日本では「通信料金を下げる」という文脈から通信料金と端末代金を完全分離して、端末購入を契機とする通信料金の値下げを禁止しようとしている。
端末購入補助について、マンデル氏は「イノベーションを加速するために経済的に効率の良いアプローチである」として、完全廃止には否定的な立場を取る。
5G普及初期はキャリアはもちろんだが、端末を購入する消費者にとっても「投資」が必要となる。投資をしても、初期段階では5Gを使えるエリアは狭く、5Gを生かせるサービスも少ないことが予想される。
技術的・資金的な「リスク」を消費者からキャリアに“移転”する手段として、マンデル氏は端末購入補助が「経済的に効率の良い方法」だと語る。簡単にいえば、5G端末を値下げ販売すれば、5G端末への移行が早まり、結果として5Gのエリア展開や5Gを活用したサービスの開発も加速するという立場だ。
なお、総務省では端末代金を割り引くこと自体は否定していない。5G普及に向けて、料金プランにかかわらず一律に5G端末を割り引き販売するシナリオは考えられるだろう。
日本における分離プランの話は「料金プランが分かりづらい」という文脈で始まった部分もある。マンデル氏によると、こういう意見は万国共通で、特に通信に関する規制当局(日本なら総務省)はそういう考えになる傾向にあるという。
通信と端末を分離して料金を分かりやすくするというアプローチについて、マンデル氏は「技術革新の遅い時期ならおおむね妥当」とする。選択において消費者が抱えるリスクは低く、コストの内訳さえしっかり示せれば料金比較もしやすいからだ。
しかし、現在は新しい通信規格である5Gの商用展開を控えている上、さまざまなプレーヤーがIoTデバイスをさまざまな形で提供しようとしている。ある意味で技術の進歩が再び加速する頃合いでもある。
そういう時期だからこそ、マンデル氏は「消費者にとって一番受け入れやすいのは通信と端末のセットプランである」とする。
セット販売(セットプラン)は、料金が分かりづらくなるというデメリットはあるものの、新しい通信規格や新たなサービスの普及を加速した面も否定はできない。マンデル氏はデバイスと一体提供する前提に立ったIoTサービスが少なくないことも鑑みて、分離プランの強制が新技術への接触・移行機会を減らし、5G普及の妨げとなることに懸念を抱いているものと思われる。
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