一方、2019年2月に北海道のくしろバスと阿寒バスでスタートしたサービスでは、電子マネー「WAON」をバス乗車にそのまま利用できる。“後ろ乗り”のときに読み取り機にカードをタッチして“前降り”のときに再び読み取り機にタッチするだけで出発地と目的地を自動的に判定し、指定区間の料金をWAON残高から差し引く仕組みを採用している。
イオン北海道執行役員エリア推進部長の佐々木晃一氏と、システムを開発したモバイルクリエイトのマーケティン部主任の首藤康平氏によれば、「電子マネーを使った区間料金徴収サービスは全国初」だという。
WAON内部の記憶領域を使って出発地の情報を記録しておき、降車時にその差分を計算してWAONの電子マネー決済を携帯ネットワーク経由で行う。システムのポイントは「カードがタッチされたのがどの停留所かを把握する」点にあり、これを「通常の交通系ICと遜色ない処理速度」(首藤氏)で実現した。システム自体も非常に安価で、サイバネ準拠の他のシステムと比較しても導入しやすいのも大きかったようだ。
なぜWAONが選ばれたのか? 釧路市内を走るくしろバスと阿寒バスのルートを調べると分かるが、その多くがイオン釧路店とイオンモール釧路昭和という2つのイオン店舗を経由するように走っており、バス利用者とイオン利用者が重なっているという事情がある。
そのため、地域交通へのICカード導入という段階で自治体との協議でWAON採用案が浮上し、その開発を前述OKICAやお台場レインボーバスなどで導入実績を持つモバイルクリエイトに委託したという流れだ。
意外に思うかもしれないが、イオンで電子マネー推進チームのチームリーダーを務める北澤清氏とイオン北海道の佐々木氏によれば「地方ほどキャッシュレス率が高い」という。例えばイオン北海道では「WAON利用率が7割近くに達する」そうで、その原動力になっているのは高齢者だ。
現金を使ってチャージするため完全なキャッシュレスではないが、「高齢者ほど小銭を出すのに時間がかかって列の後ろに迷惑を掛けるのを嫌う」という理由でWAON決済を積極的に利用する。
つまりイオン経済圏ではWAONが一種の地域通貨として機能しており、周辺のイオンではない商店街でも利用が進んでいる。イオンは100種類以上のご当地WAONを発行しているが、こうした地域通貨としての活用が進む中で、地域交通にも採用されるのは納得がいく。
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