店舗を変えるモバイル決済

そのキャッシュレス、本当にスマホやQRが必要ですか?鈴木淳也のモバイル決済業界地図(1/3 ページ)

» 2019年03月09日 06時00分 公開

 2018年以降、QRコード(バーコード)を用いたモバイル決済サービスが多数登場した。スタートアップから大手までプレーヤーの種類はさまざまだが、皆一様に「導入ハードルの低いQRコード方式でキャッシュレス対応店舗を増やす」ことを目標に掲げている。一方で、店舗にとっての導入ハードルの低さは「サービス提供者側にとっての参入ハードルの低さ」とイコールであり、それが決済サービスの乱立につながっている。

 サービス同士の競争は中国での「Alipay」や「WeChat Pay」におけるキャンペーン合戦や急速なインフラ整備にみられるように、ユーザーにメリットをもたらす一方、初期のサービス乱立状態やそれに伴う利用者の混乱を巻き起こす弊害がある。また、サービス乱立状態が長続きしないことも、中国で規制緩和直後のQRコード決済乱立による混乱が比較的早期に収束したことを考えれば明白だ。

 移行期間特有の現象ではあるものの、このあたりのQRコード/バーコード決済(筆者はスマートフォン内のアプリを使って決済を行うサービスを総称して「アプリ決済」と呼んでいる)の最新状況を鑑みつつ、本当に利用者にメリットのあるユーザー体験とはどのようなものかを考えてみたい。

コード決済 かたくなに現金主義を貫く外食チェーンがある一方、カードやアプリ決済できる店舗は増え続けている

QRコード決済サービスの数は増えたけれど……

 これまでは専用の決済端末やセンター接続のためのサービス契約など、参入ハードルの高かった決済サービスだが、コード決済によって参入障壁が下がり、過当競争に陥るというのは想像できたシナリオだ。既存事業者がこれを機会にビジネスの幅を広げたり、専業のスタートアップ企業が誕生したりと、このチャンスを逃すべからずとばかりにサービスが乱立する状態になった。「他がやっているから自分たちもやらないと……」という消極的な理由で参入する事業者も少なからずあるようだが、一番の不幸なのは大勢が判明するまでその乱立競争に付き合わされるユーザーや加盟店だ。

 LINE Pay取締役COOの長福久弘氏によれば、2018年後半以降にLINE Payの認知度が向上し、店舗からの問い合わせが急増しているという。サービスの認知こそ上昇したものの、2019年時点で20近いサービスが乱立する状況で、ユーザーがどのサービスをよく利用し、実際に店舗がどの決済を導入するのかを選ぶのは非常に難しい。

 AlipayやWeChat Payを含め、コンビニやドラッグストアでは既に6〜7種類のアプリ決済サービスに対応しているところも少なくないが、中小の加盟店にとって個々のサービスを順次契約していくのは非常に面倒だ。「Airペイ」のように、LINE Pay、d払い、Alipay、WeChat Payの4つのサービスに一括契約を申し込めるタイプの決済サービスもあるが、数をそろえるのは大手でないと難しいだろう。

 また、ユーザーが頻繁に利用するサービスが収束し、大勢が判明して乱立状態がある程度解消されるまで1〜2年程度の期間しか要さないことも推察される。個々のサービスを契約しても、使わなければ利用料は取られないため、そのまま放置しておくという手もある。だが焦って数をそろえたところで売り上げが一気に増加するものでもないため、2019年10月1日以降の消費税増税や軽減税率導入を見据えつつ、情勢を見極めていくといいだろう。

コード決済 複数のキャッシュレス決済手段を取り扱えるサービスの1つ「Airペイ」

 こうした中、最近盛り上がりつつあるのが「統一QR」の取り組みだ。前述のように、サービスごとにQRコードやバーコードの表示方式が異なっている他、店舗側のオペレーションも「POSの画面上に大量に並んだボタンから買い物客が利用したい決済サービスを選ぶ」必要があったり、赤外線スキャナーの代わりにスマホやタブレット端末を利用している店舗では、いちいち端末をスタンドから取り外して利用者のスマホに表示されたQRコードを読み取る必要があったりと、現金よりもかえって時間がかかる場合もある。

 キャッシュレスのメリットの1つといわれる会計のスムーズさが失われることは本末転倒だ。こうしたサービス乱立にまつわる不自由を少しでも解消すべく、経済産業省を中心に業界各社が参画するキャッシュレス推進協議会でコード決済の標準規格を策定している。これにより、決済に使うQRコードやバーコードのフォーマットが統一され、さらに認識番号の埋め込みにより店舗のレジ側でQRコードやバーコードさえ読めばどの決済サービスかを自動判断することが可能になり、買い物客にいちいちサービスの種類を聞いて画面に表示されたボタンを店員が押す必要もなくなる。

 先日JCBが発表したコード決済スキーム「Smart Code」は、この統一QRの利用を想定しつつ、個々のサービスで必要な加盟店契約を一本化しようという試みの1つだ。発表同日にはメルペイがSmart Codeへの参画を発表した。今後Smart Codeに賛同するサービス事業者が増えれば、加盟店側でのサービス自動判別が可能になり、かつサービス契約も包括で行う形でJCBが代行する。

 JCBはクレジットカードのアクワイアリング事業でJCB以外のカードブランドや電子マネーなども受け付けているが、これをコード決済に拡大したのがSmart Codeということになる。現在ではまだ経済産業省のいう統一QRの仕様にはなっていないが、2019年4月のローンチ以降、統一QR仕様が固まり次第、そちらに仕様を寄せていくという。

 JCBは、Smart Codeの仕組み自体のアクワイアリング業務を他社にも開放していく方針があると説明する。また、統一QR登場を機に、楽天ペイとau PAYで採用するような後発組によるサービスの相互乗り入れも増えてくるとみられ、「サービスの数だけ加盟店契約がある」という負担は幾分か軽減されると予想している。

コード決済 JCBが提案するQR・バーコード決済スキーム「Smart Code」
コード決済 Smart Codeに参加する複数の○○Payを同時に取り扱うことが可能で、店舗側も消費者側もサービスの違いを意識する必要がない
コード決済 加盟店のニーズによってカード決済の信用照会端末であるCCTにバーコードリーダーを直接つなげて処理できる他、POS向けのアプリケーション、一体型端末の提供など、複数の利用手段が用意される

 とはいえ、加盟店開拓で先行するLINE Payなどに対し、人海戦術でキャッチアップを進めるPayPayなどに比べ、今後2019年以降に参入する事業者が横にアライアンスを組んだところで、同じレベルで普及させるには、まだまだ時間がかかるだろう。LINE PayやPayPayなどの事業者も、先行者としてリードしているにもかかわらず、統一QRの仕組みを通じてインフラの相互開放をすぐに行うとは思えない。

 タイミングの問題ではあるが、この1〜2年が勝負と考えていればこそ、譲れない線はあるだろう。その意味で、Smart Codeのような仕組みがどこまで受け入れられるのかは難しい面もあるが、現在の乱立状況が今後何年も続くとも考えていない。

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