先日、米ニューヨーク市で開催されていた全米小売協会(Naitonal Retail Federation:NRF)の年次イベント「NRF 2019 Retail's Big Show」を取材したのだが、その中で面白い講演があった。講演の登壇者の1人、米Deloitteのリテール担当共同会長のRod Sides氏は普段は米国の小売店舗やオンラインリテールの最新事情を紹介しているのだが、今回のNRFではテーマを中国に絞り、いかに中国とそれ以外の国とで小売でのユーザー体験が異なるかを解説している。
中国でのAlipayやWeChatPayの爆発的普及は、インフラが未整備のところに規制緩和とスマホの普及時期が重なったことが大きかったといわれる。特に両社のし烈な競争がものの1〜2年で中国全土の都市部を中心とした場所にインフラを整備する原動力となり、これが決定的なサービスとなった背景がある。
だがSides氏によれば、それだけではないという。中国ではもともと国土の広大さもあってオンライン通販事業が非常に強い勢力を持っており、このサービスをスマホを通じて利用するという仕組みが他のどの国よりも進んでいる。同氏によれば、こうした新興サービスを盛り上げて消費を押し上げているのはミレニアル(Millennial)と呼ばれる比較的若いデジタルネイティブ世代で、スマホ保有率やWeChat PayといったSNSサービスの利用率などで他国を圧倒しているという。
同氏が特に注目しているのがWeChat Payの仕組みで、WeChatアプリ(決済を含むサービス全体)に1日あたり1時間以上の時間を費やす層の割合だけで4分の3に達する。また、コミュニケーションから商品の発見、そして実際の購入まで、スマホアプリ上の体験が多くの国でサービスごとに分離しているのに対し、WeChatでは全ての体験が同一アプリ上で行え、シームレスに体験できる。
WeChatでは「ミニプログラム」と呼ばれる「アプリ内アプリ」のような仕組みがある。例えば店舗でのロイヤリティーカードや自販機の連携サービスなど、全て店頭で掲示されているQRコードをWeChatアプリで読ませることで自動的に当該のミニプログラムが呼び込まれ、WeChatを通じてより付加価値のあるサービスが利用できる。WeChatは単なるチャットアプリや決済アプリの枠を飛び越え、1日の生活の多くをWeChatアプリのみで過ごせるようになる。
結果として、スマホアプリ1つで多くのことをこなせるようになり、サービス事業者がモバイル市場を攻略するにあたって最初の壁となる「スマホアプリをユーザーにどう導入してもらうか」という課題を、ミニプログラムで簡単にクリアしている。
ユーザーがミニプログラムを通じてWeChatの機能を拡張していくことにためらいがなく、新しいサービスを次々と受け入れている。現在、中国では上海などで自動運営の(名目上の)無人店舗の実験が進められているが、これを利用するのもミニプログラム経由だ。
例えば、米国のレジなし店舗である「Amazon Go」を利用するには専用のアプリをダウンロードしてAmazon.comアカウントを追加する必要があるが、WeChatであれば店舗入り口にあるQRコードを読み取り、後は中国国内の電話番号を入れてSMS認証を行うだけですぐにサービスが利用できる。退店時に利用される会計情報はWeChat Payで自動処理されることになる。
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