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QRかICカードか? 交通系チケットシステムを巡る世界の最新事情:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(5/5 ページ)

» 2019年05月24日 06時00分 公開
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抜本的な対策はない「世界共通交通チケット」、当面はモバイルウォレットに期待

 インバウンド対策という面ではオープンループだけでなく、都市ごとに最適な交通チケットが利用できるのがベストだ。ユーザーが意識することなく、初めて訪問した都市でも手持ちのスマートフォンやモバイル機器を改札にタッチするだけで支払いができるような仕組みが望ましい。

 ただ、日本で一般的な支払方式(Pay As You Go:PAYGなどとも呼ばれる)ではなく、「1日券」「1週間券」「1カ月券」「イベントで特定区間と期間のみ有効券」といった具合に、特に欧州では「シーズンチケット」が頻繁に利用されている経緯から、世界統一的なチケットシステム導入が非常に難しいという指摘がある。大都市のパリでさえ、いまだにPAYGな交通系ICカードが存在しないことからも、その複雑な事情の一端が見えるだろう。

 そのため、当面の間はApple Payのように「モバイル端末側に複数の交通チケットを搭載する」方法を取りつつ、沖縄のゆいレールのように「国内外の複数の支払い手段を改札で受け付けられる仕組み」を導入することが対策となる。もし日本がインバウンド需要を見据えた観光立国を目指すなら、前述のようにSuicaを広げるだけでなく、QRコード採用も1つの手段となり得る。

 一方で、Apple PayでのSuica対応や[Google Pixel端末でのFeliCa対応が進んでおり、香港の八達通(Octopus)はSamsung Payに搭載されることでモバイル対応を果たしたように、FeliCaという規格が必ずしも国内外の交通系ICカードの相互利用の障害になっているわけではない。

 シンガポールや中国本土ではFeliCaからType-A/B(Mifare含む)への交通系ICカードの置き換えが進み、現状で稼働するのは日本と香港のみといわれていたFeliCaの仕組みだが、近年また広がりを見せつつある。現在、日本の支援でインドネシアのジャカルタ、ベトナムのハノイとホーチミン市で地下鉄導入が進んでいるが、このうちハノイについてはBRTで既にFeliCaベースのICカードが採用されている。

 ただ、都市交通では共通の料金徴収システムを導入することが一般的で、現状で人力による検札や乗車券販売が行われているこれら都市において、交通網整備のタイミングと合わせてバスや地下鉄で共通の交通系ICカード導入する流れになると予想される。FeliCaを推進するソニーに質問したところ、「現時点で進捗(しんちょく)中の案件につきコメントできない」との回答だったが、その詳細は各市で地下鉄運行がスタートする2019年後半から2020年にかけて順次明らかになっていくはずだ。

交通系ICカード ベトナムのホーチミン市で現在建設中の地下鉄工事の様子

【訂正:2019年6月11日11時6分 初出時に、「ベトナムの首都ホーチミン市」としていましたが、首都はハノイ市のため、「首都」を削除致しました。おわびして訂正致します】

 まとめると、「都市交通とモバイル対応」という視点でロンドンやシンガポールのような成功事例がある一方で、各都市ではそれぞれの事情を抱えつつ次の方向性を模索している。少なくとも、今後10年単位で問題を抜本的に解決するような方法はなく、当面はApple Payのように端末側に複数のICチケットを内包する手段が多くの利用者にとって利便性の高い方法になると考える。

 一部報道では、Appleが2019年6月に開催される開発者会議「WWDC」でNFC機能のさらなる部分開放を発表し、より多くの交通系システムやサービス事業者がApple Payを利用しやすくなるといわれている。実際、筆者もここ数年Appleがサンフランシスコ周辺で利用されている「Clipper」システムのApple Payへの導入実験を進めている話を何度か聞いている(ちなみにClipperの開発を行っているのはOysterと同じCubic)。表には出ていないだけで水面下でさまざまなプロジェクトが進んでいると予想する。

 直近での興味深い話題としては、日本ではSuicaのみが選択可能だったエクスプレス交通カードの設定が通常のクレジットカード(EMV)も設定可能となり、端末認証なしで一部交通機関(ポートランドのTriMet)の改札をタッチ動作のみでオープンループによる通過が可能になったという報告もある。

 この動作が確認されたiOS 12.3では、それまでβ版扱いだった中国の北京と上海の交通系ICカードが正式運用に移行しているなど、何らかの大きな変化が感じられる内容になっている。その後、このEMVオープンループの機能がいったん外されたという報告も出ていたが、これは近々Apple Payに大きく手が加えられる兆候なのだと筆者は考える。

 WWDCで実際にどのような発表が行われるのか、6月を楽しみに待ちたい。

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