コラム
» 2019年06月24日 18時00分 公開

「日本は5Gで遅れている」という指摘 実際はどう? IDCの予測から考える (1/2)

日本における5Gは、主要な国・地域と比べて遅れているという指摘を少なからず耳にする。それは果たしてどこまで真実なのだろうか。海外に広いネットワークを持つ調査会社の調査レポートを交えつつ解説する。

[井上翔,ITmedia]

 次世代モバイル通信規格の「5G」の商用化が進んでいる。4月の米国と韓国を皮切りに、5月にはイギリスやオーストラリアでも一般ユーザー向けのサービスが始まった。

 一方、日本では大手キャリアや楽天モバイルが9月にプレサービスあるいは大規模実証実験を実施する予定。商用サービスの開始は2020年の春から夏となる見通しだ。

 現状の客観的な状況を見る限り、日本における5Gに関する動きは鈍い。「日本は5Gにおいて遅れを取っているのでは?」という意見を耳にすることも少なくない。5G関連における海外の展示会における日本企業の存在感が薄いことは事実で、見方次第では正しいともいえる。

 一方で「早く始めればそれで良いのか?」という疑問の声もある。3G(第3世代移動体通信システム)ではNTTドコモが世界に先駆けて商用サービスを始めたが、その後のハーモナイゼーション(国際規格との差分の修正)で苦労した経緯がある。それを踏まえると、早期のサービスインを目指すことが「正義」とは言いきれない。

 果たして、日本の5Gは遅れているのか、そうでもないのか。米国に本拠地を構える調査会社「International Data Corporation(IDC)」の日本法人であるIDC Japanが作成した「国内5G市場予測」から考えていく。

小野陽子氏と菅原啓氏 調査内容の説明を担当したIDC Japanの小野陽子氏(コミュニケーションズ リサーチマネージャー)と菅原啓氏(PC、携帯端末&クライアントソリューション シニアマーケットアナリスト)

5Gはゆっくり普及

小野氏 5G全般に関する予測データを説明する小野氏

 移動体(モバイル)通信システムは、おおむね10年おきに新しい世代に交代している。

 現行規格である「LTE-Advanced」が2013年6月に商用サービス化されたことを踏まえると「ちょっと早いのでは?」と思うかもしれないが、同規格の初期段階に相当する「LTE(Long Term Evolution)」の商用サービスが2009年12月に始まったことを考慮に入れると、ちょうど世代交代期にさしかかっているともいえる。

 IDC Japanが集計した日本における世代別携帯電話出荷数を見ると、2011年末にLTE通信サービスが始まり、2013年にLTE端末が過半となった。その後、LTE端末の出荷数シェアは横ばいだったが、2015年にLTE-Advancedに完全準拠した通信サービスが始まると再びシェアが拡大。2017年にはほぼ全数がLTE-Advancedを含むLTE端末になった。

 簡単にいうと、新しい通信サービスに対応する端末の普及には2〜3年程度かかるということだ。

2年がかり 2004年から2018年にかけての通信サービスの世代別の携帯電話端末出荷台数シェア。新世代のものが過半になるにはおよそ2〜3年かかっていることが分かる

 先述の通り、日本での商用5G通信サービスは2020年春から夏に始まる。3Gや4Gの例の通りであれば、2022年か2023年ぐらいには5G携帯電話が主流になりそう……と思いきや、IDC Japanは2023年時点においても出荷台数ベースでは4G携帯電話が主流であると予測している。具体的には、2023年時点での5G通信回線の契約数は約3316万回線でモバイル通信全体の13.5%、5G携帯電話の出荷台数は約870万台で全体の28.2%になるとの見立てをしているという。

 要するに5Gは4G(LTE)よりもゆっくり普及すると踏んでいるのだ。

契約数端末数 IDC Japanの予測では、契約数(写真=左)と端末出荷台数(写真=右)の両面で5Gはスロースタートになると見ている

「本気を出す」には時間がかかる

 新しい通信規格の普及には「ネットワーク」「端末」に加えて「サービス」が重要な鍵を握る。

 ネットワーク面では、2020年春から夏に商用サービスが始まる。その後、2021年度末までに全都道府県で5G通信サービスを提供し、2024年4月10日までに5G基盤展開率(※1)を50%超にしなければならないことになっている(参考記事)。

※1 全国を10km四方のメッシュで区切った際のカバー率。1つのメッシュの中で通信可能な場所がわずかでもあれば「カバーできた」とみなされる

 つまり、5Gが全国である程度使えるようになるのは2020年代半ばまで待たなければならない。しかも、あくまでも「ある程度」なので、実際にどこまで実用的なエリア構築がなされるかは不透明だ。

 5G普及の初期段階では、4Gネットワークと連携して動作する「NSA(非スタンドアロン)」形式でネットワークが構築されると思われる。5Gのメリットをより生かすためには、ネットワーク制御を5G単独で行う「SA(スタンドアロン)」形式のネットワークへの移行が必要となるが、それにはコストと時間が必要となる。

 5G用のインフラ投資について、IDG Japanでは商用サービス開始後の2021年から加速し、2023年には全インフラ投資の80%超に達すると予想している。実際に、大手キャリアの動きを見ていると、程度に差はあるものの、サービス開始前に大きな投資して垂直立ち上げする可能性は低い。

 5Gの通信サービスが始まっても、すぐに「本気を出す」ことはできないのだ。

 「超低遅延」「超多接続」といった特徴から、IoT(モノのインターネット)関連の通信や産業用途では他の通信方法から5Gへの置き換えも期待されているが、こういった事情から当面の間はローカル5G(※2)を含む他の通信モードとの併用が前提で普及が進むと思われる。

※2 工場や研究所内など、閉じたエリアで使う“自営網”向け5G。日本では4.5GHz帯と28GHz帯のそれぞれ一部がローカル5G用に確保される見通し

インフラとネットワークの予測 5Gのインフラとネットワークの普及予測。全国的に5Gが使えるようになるのは2020年代半ばを見込んでいる

しかし「待つ」のは良くない

 端末の普及速度がゆっくりとしたものになるという予測も、インフラやネットワークが比較的ゆっくり広まるという見通しに基づくものだ。しかし、5Gの特性を生かしたサービスの開発は、今のうちからパートナーを見つけて、しっかりと進めておくことが重要だとIDC Japanは指摘する。

 とりわけIoTや産業分野においては「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ばれる、AI(人工知能)やIoTを活用した業務変革を進める動きが加速している。そのため、同社はテクノロジーリーダーを目指す企業、あるいは他国との競争にさらされる企業なら「まずは始める姿勢も重要」と指摘している。

 一方、同社は消費者向けサービスについても、5G端末をいち早く導入したユーザーとの対話を通じてサービスの設計を進めることが重要だと語る。

 「5Gがある程度普及してから使い方を考えよう」と悠長に構えていると、利活用において「始めた時点で遅れている」可能性もある。サービス提供者や業務に利活用しようとしている企業や団体は、5Gに向けた行動を起こすべき段階に来ていることは間違いなさそうだ。

時系列 5Gがゆっくり普及見込みであることから、ユースケースの進展もゆっくりに見えるが……
備え重要 5Gの特性を生かしたサービス開発や業務改善は先んじて進めておくべきとIDC Japanは語る
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