「解約金1000円まで」「機種代金の割引2万円まで」 本当に“乗り換え”は盛んになるのか?元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(2/2 ページ)

» 2019年07月25日 07時00分 公開
[迎悟ITmedia]
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端末代金の割引制限は賛否両論

 一方、今回の総務省令案では端末代金の割引額の上限を2万円とすることも話題です。こちらの規制は、「端末代金の値引き等の上限は、通信・端末の各市場の競争が有効に機能するよう、当面は厳しいものとすべき」との考え方のもと行われるようです。

端末割引 端末代金の割引は2万円が上限。競争を促進するためにあえて厳しくしているという

 ただ、先述の通り、携帯電話料金や端末代金の割引の手厚さには、MNPによる乗り換えを促進する効果があります。このことを踏まえて、「端末代金の割引が最大で2万円だと販売はどうなるか?」と店舗スタッフに尋ねた所、まずこんな答えが返ってきました。

 解除料が下がった上で、魅力的な料金プランやサービスが受けられるなら、端末が安くならなくても乗り換える人はいる。

 どちらかというとポジティブな意見です。

 一方で、こんな声も聞かれました。

 お店に買いに来る人は、端末の買い替えがきっかけ。(割引が制限されて)端末を売りづらくなると、それが販売数の低下につながり、ゆくゆくは自分たちの仕事がなくなりそうで歓迎はできない。

 こちらはネガティブな意見です。

 現時点での販売の仕組みも、ユーザーの買い替え動機も、“機種”がフックとなっていることが多いです。それゆえに、端末代金に対するキャンペーンや割引が抑制されることで、契約の流動性がむしろ少なくなるのでは、と危惧しているのです。

機種フック 現状の携帯電話の販売では機種をフックにした訴求が多い。ユーザーも機種をフックに買い換えを検討しているので、端末代金の割引が制限されることで販売に悪影響が出るリスクは否定できない(写真はイメージです)

「乗り換えの障壁」は他にもある

 契約解除料を下げて端末代金の割引を抑制することで、高止まりしているとの指摘が多い通信料(携帯電話料金)が安くなり、競争が生まれる――新しい電気通信事業法と、それに伴う新しい省令を通して、このようなシナリオを描いているようです。

 しかし、MNPを含む携帯電話キャリアの乗り換えには、契約解除料以外にも障壁があります。

 現在のMNOの携帯電話料金を見ると、「家族複数人で同一の会社を利用すると割引」「指定のインターネット回線を契約すると割引」といったように、自分以外の携帯電話回線や、固定ブロードバンド回線とのひも付きを前提とする訴求が増えています。たとえ純粋に通信料が下がったとしても、それに付随する他のサービスの縛りがあれば、気軽に乗り換えることは難しくなります

 筆者が販売スタッフに話しを聞きに行った際に、ユーザーがスタッフにこのように言いました。

 端末はそろそろ買い換え時なんですよ。けれど、家の(固定)インターネットを(携帯電話回線と)同じ会社に変えたばかりで、家族の携帯電話回線もこれをきっかけに会社をそろえたので、(自分だけ別の会社に乗り換えるのは)難しいです。

 簡単にまとめると、家族と固定ブロードバンドの縛りがあるがゆえに乗り換え勧誘を断ったのです。

 筆者自身も、NTTドコモの新料金「ギガホ」「ギガライト」やauの新料金「au新ピタットプラン」が出た時点で、ソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+」を含むMNO3社のプランを見積もったことがありますが……。

  • 自分だけ乗り換えるとかえって料金は高くなる
  • 家族丸ごと乗り換えればわずかではあるが料金は安くなる
  • しかし、固定ブロードバンド回線の解除料と工事費の残債が残るので結局割高になる

 このようなことから、安易な乗り換えはできないと判断しました。

 販売スタッフからも、このようにして「囲い込まれたユーザー」を引き込むハードルの高さを嘆く声は大きく、契約解除料の上限が1000円になったとしても、セットになった他の契約が足かせとなり、総務省が狙うような“流動性”は生まれないと予想しています。

 料金以外に目を移すと、「通信エリア」や「つながりやすさ」への不満から他社への乗り換えを検討するユーザーも少なくありません。筆者も店員として、MNP制度が始まった際に「A社を使っているけどつながらず、一緒にいた友人が使うB社はつながったので買い換えに来た」というユーザーを多く目にしてきました。

 しかし現在は、「この会社だけ極端につながりづらい」といった場面に出くわすことはあまりありません。乗り換え(スイッチング)コストを下げて、他のサービスの縛りも緩くしたとしても、端末も安くならないのであれば、ドラスティックな料金改革が起きない限り「今のままで十分」と買い替えを行うユーザーは減ってしまうのではないでしょうか。

ライター:迎悟

キャリアショップも家電量販店も併売店も経験した元ケータイショップ店員。携帯電話が好き過ぎた結果、10年近く売り続けていましたが、今はライター業とWeb製作をやっています。

連載:元ベテラン店員が教える「そこんとこ」


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