多くのケータイショップで、花形として目立つ位置に据えられるiPhone。実際に利用ユーザーも多いことから、「iPhoneは売れて当然」と感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし、販売店の内側にいるとまるで世界が変わります。iPhoneは「売らないとヤバい」代物なのです。
にわかには信じ難い話かもしれませんが、筆者も長らく携帯電話の販売に関わってきた中で、iPhoneの販売台数を必死に追いかけたことが何度もあります。
今回は、ケータイショップに課せられたiPhoneの「販売ノルマ」の実態をお話しします。
冒頭にも書いたように、国内市場でiPhoneはスマートフォンの代名詞的な存在であることは間違いないでしょう。実際に出荷台数や販売台数のシェアを見ても、iPhoneは国内の約半数を占めています。
実際、発表されたばかりの新モデルを予約なしで購入するのは困難。販売店サイドとしても、在庫を入庫すればセールストークをせずとも売れていくほど販売は簡単です。
しかし、それも新モデルの発売直後だけの話。
在庫が潤沢になり、入手が容易になってくると必然的にiPhoneの売れ行きは下がり、販売には相応の努力が必要になります。さらに新モデルの発表や発売が近づくと、買い控えでより販売が難しくなります。
ただ売れないだけならいいのですが、ケータイショップの中でもiPhoneを取り扱う店舗には、iPhoneの販売ノルマが課されているのです(少なくとも筆者が働いていた頃は)。
筆者が知る限り、販売店は数カ月ごとに訪れる締め日までに一定台数のiPhoneを販売できないと、それ以降はiPhoneを取り扱えなくなってしまいます。
このノルマが、少し前に話題になったAppleとキャリアの間に結ばれていたものが理由なのか、キャリアと代理店の間で独自に設けられたものなのかは定かではありません。ただ、販売現場がiPhoneの販売台数を追いかけなければならない状況にあったというのは事実です。
過半数の人がiPhoneを選ぶ中で、iPhoneを取り扱えないとなれば、その販売店は死を待つのみ。つまり、お店を守るためにはiPhoneを売らなくてはいけないのです。
以前ならば「他社からの乗り換え」(MNP)でiPhoneが安価に購入できるキャンペーンが多数実施され、さらに月額料金も一定期間大幅に安くなることもあり、新型モデルの発売前であっても、ノルマの達成は容易でした。
しかし、今の市場は
といった状況で、以前に比べノルマ達成のハードルが高く、販売店はこれに苦しめられています。
また、販売ノルマとは別に、ケータイショップにはiPhoneの取り扱いに際していくつかのルールが設けられています。
その中でも目立って販売店を苦労させているのが展示方法です。
iPhoneを取り扱うに当たり、iPhoneは「他メーカーの製品と並べてはいけない」という決まりがあります。例えば、最新のiPhoneとAndroidスマートフォンを横に並べ、性能や機能を比べるといった展示はNGです。
より細かにいえば、掲示できるポスターや展示の装飾、プライスカードまでも専用のものを使うようにいわれています。これらの決まりを守れないと、販売ノルマとは別に、その店舗での取り扱いを停止されてしまうのです。
ただ、こういった決めごとは携帯電話業界に限った話ではなく、衣料品のブランドものなどに存在しているため、ブランドの価値を高めるために必要だということは理解できます。しかし、売り場がそれほど広くないケータイショップでiPhoneのためだけの展示スペースを確保するのは難しく、現場担当者の悩みの種になっています。
それほどiPhoneの取り扱いが難しいのであれば、いっそ止めたらいいのではないかという意見もあります。実際、そのような判断をしたのか、あるいはノルマ未達だったのかは分かりませんが、大手3キャリアを扱っていたケータイショップがサブブランド専門店に業態転換する例も出てきています。
それでも、やはりiPhoneの新モデル発売の際の勢いというのはすさまじく、この果実をあえて食べないという選択が難しいのもうなずけます(経営者ではないので想像ですが)。
毎月のノルマ達成は大変だけれど、新モデル発売時の「祭り」にも乗りたい──。「スマホ依存症」などとはいったものですが、ケータイショップはある意味「iPhone依存症」に陥っているのかもしれません。
キャリアショップも家電量販店も併売店も経験した元ケータイショップ店員。携帯電話が好き過ぎた結果、10年近く売り続けていましたが、今はライター業とWeb製作をやっています。
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