2019年4月に5Gサービスが始まった韓国。米Verizonに1日先駆け「世界初のモバイル向けの5Gサービス開始」の栄冠を得るため、通信事業者側の準備もままならぬまま見切り発車したサービスだった。【追記、訂正あり】
その後は順調に加入者数を増やし、6月12日には3社合わせて100万人を突破。8月8日には200万人の大台を超えた。それから約1カ月後の9月9日には300万人を突破しており、ユーザー数は着々と増えている。2019年末には5Gの人口カバー率は93%に達する見込みだ。
【更新:2019年10月4日10時58分 初出時に、5G加入者の数字が8月時点のものだったため、9月時点のデータを追記しました。】
8月時点での5G加入者の内訳はSK Telecomが84万人、KTが63万人、LG U+が54万人。3社のシェア割合は42:31:27で、ここ10年以上変わらなかった3社のシェア、約5:3:2の構図が崩れようとしている。特に万年最下位のLG U+は、LTE導入時にカバレッジエリアを他社に先駆けて広げて消費者からの信頼を獲得、5Gでは地方都市よりもソウル中心に基地局敷設を進めたことで、エリアによってはSK Telecom、KTの上位2社より高速かつ安定した通信環境を提供している。
韓国は3事業者がモバイル、固定ブロードバンド、IPTVサービスを展開しており、映像コンテンツをどの通信回線でもシームレスに視聴できる。SK TelecomとKTは自社開発、LG U+はNAVERと組んで音声AIスピーカーも投入、5Gの開始でスマートライフを家屋内から屋外のモバイル環境下でも提供する予定だ。
また、韓国ではオンラインゲームユーザーも多く、5Gの開始はモバイルゲームの利用をさらに加速するものになるだろう。Samsung、LGという家電でも世界のトップメーカーが存在する国だけに、スマート家電の普及も5Gと共に進みそうだ。
このように、現時点では5Gの商用化で他国を1歩リードしている韓国だが、消費者が実際に5Gを利用できる端末の種類は多くない。5Gローンチ時にはSamsungの「Galaxy S10 5G」とLGの「V50 ThinQ」の2モデルが投入され、8月にはSamsungから「Galaxy Note 10 5G」と「Galaxy Note 10+ 5G」の2機種が追加された。ちなみにGalaxy S10 5Gは2019年8月末時点で韓国のみ販売されている。
SK Telecomは8月26日に5G加入者数が単独で100万人を突破した。SK Telecomによると、4Gを開始したときは100万人突破まで8カ月を要したという。つまり5Gは4Gの倍の速度でユーザー数が増えているのだ。
しかし5G端末を通信事業者は大幅に割引販売しており、料金プランによっては、日本で提供している半額免除プログラムのように、2年後に端末の返却が必要なケースもある。コンテンツやサービスよりも端末の安さに引かれて5G契約している消費者も多いのだ。それほどまでに韓国の通信事業者は「何が何でも」ユーザーの5Gへの移行を促したいのである。
韓国では過度な端末割引が法律により一度は禁止され、それにより一部のユーザーだけが端末を格安で買えるというゆがんだ市場構造が是正された。しかし現在は規制は大幅に緩和され、5G端末が定価の半分以下で販売されることも珍しくない。
【訂正:2019年10月4日10時58分 初出時に、「現在は端末の割引は通信事業者が自由に設定可能」と記述していましたが、完全に自由になったわけではありませんでした。おわびして訂正致します。】
日本では10月から「回線と端末販売の完全分離」「端末割引の制限」が義務付けられるが、消費者が端末を買い換えしにくくなることから、5Gの普及に悪影響を及ぼすとの懸念の声が聞かれる。一方、韓国は過去に一度「うみ」を出し切ったことで、正常化した市場で5G端末を格安販売するという、5Gの普及を加速させる条件が整ったのだ。
今後も通信事業者は5Gのプロモーションを強化して5G加入者増を加速化させていくだろう。しかし現時点では端末が4機種しかなく、選択肢は決して多くはない。これから年末にかけ、SamsungとLGからさらに5Gスマートフォンが投入される予定だという。Samsungはカメラを強化しつつ、価格を抑えたミドルハイレンジ端末「Galaxy A90 5G」を販売するともウワサされている。しかし5Gユーザーを増やすためには、より多くの端末を消費者に提供する必要があるのではないだろうか。
韓国の端末市場はSamsungとLG、そしてAppleの3社で寡占常態が続いており、新規メーカーの参入は容易ではない。Huaweiは低価格端末をMNOとMVNO向けに展開しているものの、SamsungとLGも同クラスの端末を多数出しており苦戦している。価格だけを重視するなら2年前のハイエンド端末の中古品が値ごろ感があり、それを買うという手もある。中国メーカーが得意とする「コスパ」では韓国市場を攻め入ることは難しいのだ。
ならば5G端末ならばどうだろうか? Xiaomiがスイスで販売している「Mi MiX 3 5G」は単体で847フラン、約9万円だ。10万円を超える他社の5Gスマートフォンよりも若干ながら割安で通信事業者から販売されているのである。最新の5Gに対応、スライド式ボディーによりインカメラを隠した全画面ディスプレイを採用、そのインカメラは2400万画素と高画素だ。文句なしにハイスペックな製品ながらも価格は割安だ。
既に多数の4Gスマートフォンが販売されている韓国市場に後から中国メーカーが入っていくのは難しい。しかし5Gなら競合製品が少ないし、性能と価格で競争力があれば韓国の消費者も中国メーカー製品を受け入れるかもしれない。日本の消費者だって今やHuaweiのスマートフォンを「中国製の粗悪品」ではなく「Leicaとコラボした高性能カメラフォン」とポジティブに捉えている。5G開始は中国メーカーにとって韓国市場参入のまたとないチャンスといえるのだ。
Huaweiは既にKT、LG U+と太い関係を持っている。特にLG U+の5GインフラはHuaweiのものも使われている。Huaweiの5Gスマートフォンを韓国市場に出す際の販路やサポート体制は整っているのだ。また、カメラフォンとして先進国でも人気を高めつつあるOPPOの新規参入や、韓国でもPCが人気のLenovoが5Gスマートフォンを投入する可能性もある。
これらの製品が韓国市場に入れば、他国より割高ともいわれている韓国国内のスマートフォン販売価格の引き下げを促すものになるだろう。さらには、韓国市場の動きがグローバル市場に影響を与えれば、年々高騰が続くスマートフォンの販売価格を抑制する効果が生まれるかもしれない。世界の5G市場をけん引する韓国に、中国メーカー参入による端末販売競争が起きれば、面白い結果が引き起こされるかもしれない。
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