通信機器などを手掛けるNECも、企業向けのローカル5Gに参入した企業の1社。キャリアに通信機器を提供している同社がなぜ自ら直接ローカル5Gを手掛けるに至ったのか、そしてローカル5Gでどのようなビジネスを推し進めようとしているのか。ネットワークサービスビジネスユニット 新事業推進本部長である新井智也氏に話を聞いた。
NECの通信事業といえば、これまでキャリア向けに通信機器を提供することが主体であり、自ら通信事業を手掛けていたわけではない。それにもかかわらずローカル5Gへの参入を打ち出すこととなったのには、2018年に打ち出した中期経営計画が影響していると新井氏は話す。
NECではこの中期経営計画で、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進めるプラットフォーム整備に力を入れているというが、その計画立案の際、DXが進むことでキャリア以外でもネットワークの重要性が高まると考えていたとのこと。そこで2019年には「NEC Smart Connectivity」というブランドを立ち上げ、キャリア以外の領域にもネットワークのビジネスを拡大するべく模索を続けていたのだそうだ。
一方、ちょうど同じ時期に総務省がローカル5Gの制度化を進めていた。そこで今後10年はネットワークのニーズが多様化してサービス起点のネットワークが求められるようになることから、DXを推進する上でローカル5Gが重要なテクノロジーになると考え、自社でのサービス提供を打ち出すに至ったのだそうだ。
それゆえNECにとって、ローカル5Gは企業のDXを進めるためのプラットフォームを整備する上で欠かすことのできないネットワークの1つとなり、「キャリアの5Gとローカル5Gは補完関係にあると思っている」と新井氏は話す。ローカル5Gは面展開するキャリアの5Gの中に、特殊な用途向けのネットワークとしてローカル5GをオーバーレイしていくというのがNECの考え方のようだ。
ただ一方で、ローカル5Gでも拠点をまたいで利用するソリューションなどではキャリアの5Gネットワークを活用するニーズも出てくる。それゆえ今後、双方の連携に関する議論もキャリアと進めていきたいと新井氏は話している。
NECはネットワークだけでなくAIやIoTなど多くのIT技術、そしてハードウェアを制御するOT(Operational Technology、制御・運用技術)技術を持ち合わせている。それらをパートナー企業のアセットと組み合わせ、デバイスからサービスまで一体で提供する垂直型のソリューションを実現できるのがNECの強みだと新井氏は話す。
中でもローカル5Gが活用できる領域として、新井氏は製造、建設、流通、交通、そして自治体の5つの業種を挙げる。NECには2019年中に数百社からローカル5Gに関する問い合わせが寄せられたそうだが、とりわけ高い関心を寄せていたのがこれら5つの業種だったそうで、人手不足などの課題が顕著な業種が解決策をローカル5Gに求めている様子がうかがえる。
では、ローカル5Gでどのようなユースケースが期待されているのだろうか。新井氏はコロナ禍の影響などもあって、遠隔地からの監視(リモートモニタリング)、ロボットや建設機械などの遠隔操作(リモートコントロール)、そして機器の自動化(オートメーション)の3つが大きなポイントになるとみており、現在進めている実証実験もそれら3つに関するものが多いようだ。
例えば工場のユースケースでは、工場内で荷物の積み下ろしをするAGV(無人搬送車)の制御ソリューションにローカル5Gを活用することで、より広範囲での自動搬送を可能にするなどの高度化を進められるという。AGV制御は生産管理システムをつなげて初めて意味があるものになる。NECは以前よりそうしたシステムを手掛けており、ネットワーク運用とシステム設計を同時にできることを強みとして、パートナーとトータルで価値を生み出す取り組みを進めているとのことだ。
他にもNECでは、大林組や全日空、コニカミノルタなどさまざまな業種の企業とローカル5Gの活用に向けたソリューション開発を進めている。まだ模索の段階が続いているというが、パートナーにローカル5Gを実際に体験してもらい、実証に必要な環境を提供したりする「ローカル5Gラボ」を用意することで、実際のローカル5G環境を活用して実証できる環境はしっかり整えているそうだ。
新井氏はローカル5Gのメリットとして、通信の安定性が高いことを挙げている。同じく場所を限定して利用されることが多いWi-Fiは「干渉が非常に大きい」(同氏)ことから、無線でありながら電波干渉の影響が少なく、安定した通信ができることはローカル5Gの大きな差異化ポイントとなるようだ。
一方で課題となるのは、1つに「デリバリータイム」、要するにローカル5Gの導入を決めてから実際にサービスを提供するまでの時間だと新井氏は指摘する。ローカル5Gを利用するには電波免許の取得やネットワークの構築などが必要で、実際に利用できるまで半年から1年近くの時間がかかることから、「企業の時間間隔と若干ずれがあると考えている。(免許取得など)どうしても短縮できない部分はあるが、いろいろなやり方で工夫していかないといけない」と新井氏は話している。
そしてもう1つは、Wi-Fiなどと比べると設備面でのコストが大きくかかってしまうこと。そこでNECとしてはリカーリング型のソリューションとしてネットワーク運用と一体で提供することにより、導入のハードルを下げる形を考えているという。
もう1つ、同社が低コスト化とデリバリータイムの短縮化に向けて力を入れているのがコアネットワークの仮想化だ。同社ではネットワーク仮想化(NFV)技術の活用で、クラウド上にコアネットワークを構築する取り組みを4G時代から進めており、最近では2020年6月3日に、楽天モバイルの完全仮想化クラウドネイティブネットワークの5Gコアネットワーク開発パートナーとして選ばれるなどの実績を持つ。
そうしたキャリアとの取り組みで培った仮想化技術をローカル5Gにも生かし、パブリッククラウド上に5Gのコアネットワークを構築して、企業ごとのコアネットワークをサービスとして提供するなど、より導入しやすくする仕組みの提供も考えているそうだ。
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