練習なく突入した未来──電子国家エストニア、コロナ禍で生まれつつある“ニューノーマル”tsumug edge(3/4 ページ)

» 2020年08月26日 06時00分 公開
[tsumug edge]

練習なく突入した未来

 エストニアの教育はPISAで欧州1位を獲得するなど注目されているが、一方で政府が教育の予算を削ってビール減税に踏み切るという事件があり、「教育のお葬式」というデモが行われるなど、決して安定した状態ではない。

 そんな中で注目されていたのが、eKool(エーコール=e school)やStuudiumと呼ばれるオンライン学習サービスだ。文字通り、100%の学校で導入されており、教師や親の連絡ツールとしても定着している。

 だが、どちらも今回のコロナショックを受けてユーザーの数が急増。初日にログインができないなどトラブルがあり、教員、親、子供をひやひやさせている。また、ログインできるのが親だけ、というケースも多かったらしく、子供が安全にログインできるよう啓発する必要もあるとのことだった。さらに、学校でPC環境があっても家庭にあるとは限らず、今回のリモート学習にはハードウェアの問題もあった。

 PC環境については、電子国家といえども全世帯にPCが普及しているわけではない。そこで立ち上がったのが「全ての子供にPCを!(Igale koolilapsele arvuti!)」プロジェクトだ。一般人はもちろん、エストニア内のスタートアップが使わなくなったPCを寄付している。うちの会社のメールでも本件が回ってきたが、後になってこのプロジェクトの存在を知った。このおかげで、タリン市内の子供にはPCが行きわたった。第2の都市であるタルトゥでの全普及が次の課題だ。

 教育のコンテンツとして、教科書だけに頼ることができなくなっている中、エストニアの教育研究省が率いるEducation Nationは教育系スタートアップとともに、北欧のオンライン学習サービスで無償提供されているものをピックアップして教員や親をサポートし始めた。

 常に更新されているのでこれだけでも面白い記事が書けそうだが、その中でも特に子供と親の反響の高いサービスを紹介しよう。

99math.comは算数の教材としてだけでなく、オンライン教育の場ではよく話に出てくるサービス。こちらは算数を使って友達と競争する「マルチプレイヤー算数ゲーム」

 動画の中の生徒の様子を見て「算数で、こんなにスポーツのように盛り上がることってあるんだ!」と感じた。実際に友人と一緒にやってみたが、大人でも十分楽しいし、数学的反射神経を鍛えるのには役に立つと思う。対象は1年生から8年生(日本でいう小学1年生から中学2年生)まで。

 結果がリアルタイムで見えるので、まさに100m走を見ているような気になる。スポーツと違うところはこの戦いはリモートでも参加可能で、熱狂するということだ。

 他にもサービスはたくさんある。では、これで万全かというとそうではない。そもそも全体のカリキュラムをどう進めるのか? どうやってやったかどうかを確認するのか? 親の負担が増えるのではないか?  教師はどういう役割を担うべきなのか?  コンピュータがない家庭はどうしたらいいのか?  とにかく課題は山積みである。

 「エストニアでは、必要なものはそろっているとは思います。でも問題は練習することなくこんな状況に突入してしまったことです」ある教員はそう語った。

最初の週にフォーカスしてやったことは1つだけ。それは子供の動機付け

 夏休みの宿題の日記を、どれだけの人が毎日つけただろうか。僕は例にもれず、8月31日に全ての宿題をやる派だった。子供は、監視をしなくては宿題をやらない。見ていなければルールを守らない。そしてリモートでは見ることができない。

 だからといって、リモート学習をやめることができないのが今の状況だ。その中でも方法を考えなくてはいけない。あるイノヴェ財団(エストニア教育研究省が2003年に設立した教育促進を目的とした財団)カリキュラムアドバイザーのエイナル氏はこう述べた。

 「今の状況は全ての人にとって新しいものです。エストニアは幸運なことに、教師たちが自律的に物事を決められる状況にある。だから今まで通りのことに固執することなく、柔軟性を持たなければなりません。時間割も宿題の提出日も、課題の内容だって子供それぞれでもいいのです。そして得られた知見を共有しながら何よりも落ち着いて、お互いのことを思いやっていかなくてはいけません」

tsumug.edge Education Nation Webinerでのスライド

 僕は宿題の締め切りは守るもの、それはみんな共通、と考えていたが、それだって動かすことはできるわけだ。そもそも守らせようと思っても強制力を働かせづらい。子供の「学びたい」という意欲は学習の促進剤ではなく、前提にあるものである。

 「最初の週にフォーカスしてやったことは1つだけ。それは子供の動機付けです」

 同じくイノヴェ財団の担当者は、リモート学習導入初週をこう振り返る。特に子供を持つ家庭の親自身が、初めてリモートワークをしなければならない、というケースも多い。そんな彼らにいくつものツールを導入させても混乱を招くだけだ。

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