エストニアの教育関係者の中で一致した意見といえば、「ルーティンを作る」ということだ。
これは子供だけでなく、親にとっても重要なことだ。通学、下校、というようなリズムがないとどうしても時間の切れ目が曖昧になってしまう。これが集中力を低下させ、結果的に学習にのめり込むことなくだらだらと時間を過ごしてしまい、勉強=早く過ぎてほしい時間となってしまう。
動機付けが必要な時期には特に、起きる時間をきっちりと決め、机に向かう時間、休憩時間、終わりの時間を決める必要がある。
こう考えると、学校のチャイムというのはシンプルかつすごい強制力を持っていたなと感じる。チャイム1つで、何百人という生徒(のほとんど)が教室へ戻るというのは、すごいことだと思う。今はチャイムがないので、親がそれをしなければならない。毎日のルーティンならまだしも、数カ月、数年という単位で計画を立てて実行するというのは負荷が大きすぎる。
そこで使えるのがマネジメントツールだ。
Clanbeatはコロナショック後にユーザー数が4000%を超えるなど、エストニアで最も成長率が高いEduTechと呼ばれている。
もともとは会社の1on1を助けるツールだったが、今では教育の領域で活用されている。社員全員が元教師という、これ以上ない組織が開発しているのも特徴的だ。
ゴールのセッティング、エンゲージメントなどまさに会社向けのツールといった言葉が並ぶが、教師があくまで自律的に動く、多様な生徒のサポートに徹するという意味では、今まさに教育の現場で必要な概念なのかもしれない。
iPhoneが普及したのは「新しい携帯電話です」という文脈に乗ったからだ。「今の携帯も、買い替えかねぇ?」と、今やおばあちゃんでも手元に、アポロ13号を打ち上げられそうな手のひらサイズのコンピュータを置く時代になった。
AmazonのKindleは最初「電子書籍に普通の書籍と同じお金を払うか?」といったことが議論されていたが、今となっては当たり前に払っている。むしろ、エストニアにいると日本の書籍を買うのが難しいので、Kindleがないとやっていけない。個人的には紙の書籍より多少高くても関係ない。
普通、こういった変化はまず既存の習慣に新しい技術が乗っかる(iPhoneパターン)、もしくは新しい技術があり、そこに徐々に人が慣れていく(Kindleパターン)というのが通例だ。だが今回は少し違う。技術ではなく環境の方が極端に変わった。ニーズが変わり、今までITと無縁だった領域が「やるしかない」という状況になり、新しい習慣を生み出さなくてはいけなくなっている。
これは提供者が「やるしかない」というだけではなく、消費者が「それしか選択肢がない」という状況であることに特異性がある。今、教育だけでなくイベントやカンファレンスまでもオンラインに移行し、重要な点としては消費者がそこにお金を払おうとし始めている。
一度変わった習慣、文化をテコに経済は全く新しい日常を作るだろう。筆者の会社は先日、全ての採用プロセスを、オンボーディングを含めて初めてオンラインで実施し、オフィスに1度も来たことがない世代が生まれた。生鮮食品の配達は普及し、家のリフォームが業者に頼めなかったり美容院に行けなかったりする中で、DIYする人たちが増えている。
そんなニューノーマルの片鱗を、エストニアの幼稚園で見たような気がする。
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