ただし、ドコモがNTTの完全子会社になり、上場が廃止されれば、その前提が変わってくる。NTTも上場している一方で、他の企業を傘下に抱えているため、相対的にドコモ1社の減収の影響は小さくなる。さらに、ドコモを完全子会社化すれば、NTT本体が取り込める売り上げや営業利益が、3割強増加することになる。会計用語でいうところの「非支配株主持分」を、NTT本体に取り込めるためだ。結果として、TOBが成立すればその時点でNTTの営業利益は3000億円弱、増加することになる。
この増益分を、値下げの原資にすれば、値下げを即実行することが可能になる。TOBにあたり、銀行団から最大4.2兆円の借入を行っているため、全てを値下げに回すことは難しいかもしれないが、政府の要望にある程度は応えることができるはずだ。総務省の内外価格差調査で高止まりが指摘されていた、大容量プランに限っての値下げであれば余力は十分あるといえる。
記者会見でも、澤田氏は「ドコモは昨年(2019年)6月に、(1GB以下の)ボリュームゾーンで4割に及ぶ値下げを実施している」と、既に一定の値下げは実施済みとの見解を繰り返した。一方で、「その上で私たちはお客さまの要望の1つとして、値下げについて検討していきたい」と語っており、再値下げの可能性を示唆している。結果として値下げ幅が低くなっていたギガホの料金が改定される可能性もありそうだ。
総務省の内外価格差調査は、シェア1位のキャリア同士を比較した指標になる。そのため、ドコモ以外のブランドで値下げしても、結果には反映されない。特に高止まりが指摘されていたのは、前述の通り大容量プランに限定される。内外価格差調査は、シェア1位のキャリア同士を比較した結果のため、政府からの批判をかわすには、ギガホの値下げが必須になる。これも、大容量プランの値下げに踏み切るのではないかと筆者が考える根拠の1つだ。
大容量プランの値下げとは別に、ドコモがサブブランドを作り、KDDIのUQ mobileやソフトバンクのY!mobileに対抗するというシナリオも考えられる。現状、ドコモは「MNPでビハインドがあり、純増そのものが少しマイナスになっている」(ドコモの吉澤和弘社長氏)。その流出先の多くは、大手キャリアのサブブランドだ。澤田氏も「ハンドセット(携帯電話端末)込みの部分で、かなり(他社に)取られている」と危機感をのぞかせている。
澤田氏は、フジテレビの取材にこたえる形で「個人的には、サブどころか、例えば3つ4つ用意したらどうみたいな」とコメントしており、UQ mobileやY!mobileのように、ドコモ直轄のサブブランドが作られる可能性は高い。また、ドコモの完全子会社化は、NTTコミュニケーションズやNTTコムウェアの移管も視野に入れたものだ。澤田氏は「これからの議論」としながらも、両社を「ドコモグループに移管することを考えている」と語っている。
NTTコミュニケーションズにはMVNOの「OCN モバイル ONE」があり、構想通りに統合が進めば、これもサブブランドの1つになる。ISPから派生したMVNOで、MNOとは別会社が運営しているということを考えると、KDDIにおけるBIGLOBEモバイルに近い位置付けになりそうだ。OCN モバイル ONEは料金水準もMNOのサブブランドより安く、MVNOとして運営しているBIGLOBEモバイルやLINEモバイルに近い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.