一方で、UN-LIMIT VIで事実上の値下げになるユーザーも多く、1利用者あたりからの平均収入であるARPUは確実に下がる。新規参入で設備投資が先行しているだけに、楽天モバイルにとっては、もろ刃の剣といえそうだ。三木谷氏は、202O年5月の決算説明会で「700万回線が損益分岐点。それまでは赤字だ」と語っていたが、料金プランの改定で、必要な回線数は大きく上がりそうだ。三木谷氏も「それ(損益分岐点の回線数)は変わる」と認める。
ただし、その「タイミングは変わらない」というのが、三木谷氏の見方だ。理由の1つは、「獲得コストが下がり、解約率も下がると思っている」からだ。また、「楽天モバイルに入っている人は、)楽天のサービスをより使ってくれることが分かった」(同)といい、回線数の増加は、周辺サービスの利用促進にもつながる。三木谷氏は「世界のモバイルの会社は、土管ではもうからないということで、国内他社も含め、周辺部分をやっているが、うちの周辺部分はほぼ完璧」と語る。上位レイヤーのサービスで、収益を稼ぎやすい構造になっているというわけだ。
とはいえ、契約者の多くが低容量にとどまっていると、楽天モバイルのARPUはいつまでたっても上がらない。中でも、データ使用量が1GB以下のユーザーは、増えれば増えるほどコストだけがかさんでしまうことになる。いかにユーザーに使ってもらうかが、4月1日以降の課題だ。
三木谷氏は、主にシニア層を想定しながら、スマートフォンに変え、LINEなどのアプリでコミュニケーションを取るようになると、「ほとんど使わなかった人でも、1GBを超えてくる。使えば使うほど、使い勝手がよくなる」と語っている。そのためには、サブ回線として取りあえず楽天モバイルを契約している層ではなく、メイン回線として実際に使うユーザーを獲得しなければならない。こうしたユーザーは、価格だけでは動かない可能性もある。サポートやプロモーションには、今まで以上に力を入れていく必要がありそうだ。
自社回線のエリア拡大も、急務といえる。圏外をなくし、どこでもつながる安心感をユーザーに提供しなければならないからだ。KDDIに支払うローミング費用も抑えるという観点でも、自社回線エリアの拡大が必要になる。2021年1月時点での人口カバー率は73.5%。3月末までには、これを80%まで広げていき、夏ごろには96%を達成する見込みだ。一方で、三木谷氏が「ホップが96%、ステップが99%、ジャンプは他社にマネできないと思うが、(地理的カバー率で)100%」と語っていたように、人口カバー率96%は、あくまで最初の一歩にすぎない。
実際、大手3社の人口カバー率は、軒並み99%を超えており、この数値に表れないビル内や地下街などまでしっかりエリア化している。人口カバー率は100%に近づけば近づくほど数値を上げるためのハードルが高くなる。現時点でプラチナバンドを持たない楽天モバイルが、どこまでキャッチアップできるのかは未知数だ。ユーザーにとってはうれしい料金値下げだが、収益性を下げつつ、エリア拡大のペースを上げなければならないという点で、新料金プランの導入は、楽天モバイルにとって苦渋の決断だったのかもしれない。
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