5Gが創出する新ビジネス

ローカル5G、フルMVNO、ドコモとの連携――NTTコミュニケーションズの5G戦略を聞く5Gビジネスの神髄に迫る(1/2 ページ)

» 2021年03月29日 06時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 NTTのグループ会社の中で、とりわけ法人向けビジネスに強みを持つNTTコミュニケーションズ。最近ではフルMVNOやローカル5Gなど、無線通信を活用した法人ソリューションの強化も推し進めているが、5G時代における同社の無線を活用したビジネスの取り組み、そして気になるNTTドコモとの連携などについて話を聞いた。

固定で培ったネットワークがローカル5Gでも強みに

 NTTコミュニケーションズもローカル5Gを主体とした、5Gに向けた取り組みを積極的に進めている企業の1つだが、同社は5Gではどのような点にメリットを感じているのだろうか。プラットフォームサービス本部データプラットフォームサービス部 担当部長の安江律文氏は、5Gを活用した取り組みとして「IoTの領域で、LTEではできなかった高速大容量や低遅延のニーズをくみ取れることに期待している」と話す。

 同社が現在手掛けているのはローカル5Gだが、安江氏によると、ローカル5Gにおける強みは「裏側にあるデータの流通を全て扱えること」だという。同社は全国を結ぶ中継系ネットワークを持っており、オープンなインターネットへのアクセスから企業の閉域網まで、幅広いネットワークを長きにわたって法人向けに提供しており、「法人ユースに対応したネットワークのクオリティーや知見は他のSIerより持っている自負がある」(プラットフォームサービス本部データプラットフォームサービス部 担当課長の鵜澤達也氏)とのことだ。

 ただローカル5Gという視点で見た場合、同じグループ会社であるNTT東日本・NTT西日本(NTT東西)もローカル5Gへの参入を表明していることから、事業面での競合が気になる。この点について安江氏は、NTTコミュニケーションズは全国展開する大企業向けのビジネス強い一方、NTT東西は地域会社ということもあり、各地域の中小企業向けのビジネスに強みを持つことから、事業の重複は少ないとしている。

NTTコミュニケーションズ 高精細な映像配信や運転補助、ロボットによる警備など、NTTコミュニケーションズはさまざまな用途でパートナーとローカル5Gの実証実験を行ってきた

 ビジネスソリューション本部ソリューションサービス部 担当課長の前田亮氏によると、ローカル5Gに興味を示し、問い合わせをしてくるのはやはり製造業が多いとのこと。実際2020年3月にはブリヂストンと、2020年5月にはDMG森精機とローカル5Gを活用した実証実験を実施することを発表しているが、他にも2020年11月に、綜合警備保障や京急電鉄とローカル5Gを活用した警備業務の高度化に関する実証実験を実施。スマートシティーの文脈で関心を寄せる顧客も多いという。

NTTコミュニケーションズ ブリヂストンとの実証実験では、工場敷地内で通信品質実験、大容量データ送受信実験などを行い、将来的なセンサー類のワイヤレス化や、高精細カメラによる高スキル者の技能分析などを検討している
NTTコミュニケーションズ DMG森精機とは、AVG(自律走行型ロボット)をローカル5Gで遠隔操作するという実証実験を行っている

ライセンスバンドによる安定性がローカル5Gのメリットに

 ローカル5Gのビジネス活用を本格化していく上で重視しているのは、2020年末から割り当てが開始されたスタンドアロン(SA)運用ができるSub-6の周波数帯、4.7GHz帯だと安江氏は話す。「実証実験ではミリ波を使ったが、いろいろな意味で扱いにくいという感覚を持っている」と安江氏は話す。遮蔽(しゃへい)物が多い工場などの屋内では直進性の強いミリ波が扱いにくいことに加え、ノンスタンドアロン(NSA)運用が求められ機器が高額なことなどをその理由として挙げている。

 同様の理由から、4.7GHz帯を本命視する声はローカル5Gを手掛ける多くの事業者から耳にするため、他社との違いを出しにくくなるようにも見える。だが安江氏はこの点について、同社が重視するのはソリューションに適切な無線通信を用いることであり、「弊社がSub-6でSAだからという点で、差異化ができるとは考えていない」と答えている。

 ではさまざまな無線通信の選択肢がある中、ローカル5Gを選ぶことにどのようなメリットがあるのだろうか。実際顧客から高いニーズがあるのは、意外にも「ライセンスバンドを使っている」ことだと、ビジネスソリューション本部ソリューションサービス部 主査の柿元宏晃氏は話す。

 ローカル5Gで使用する周波数帯はWi-Fiとは異なり、利用する上では免許の取得が必要なので外部環境に回線品質が左右されにくく、無線でも安定した通信ができる。それが高速大容量・低遅延・多数同時接続という5Gの3大特徴に続く、4つ目の特徴として「意外と顧客に刺さる」のだと柿元氏は話している。

 それに加えてローカル5GはSIMによる認証が可能なことから、Wi-Fiより高いセキュリティを確保できる点も、製造業などから期待されている。さらにSIMによる認証とネットワークスライシングを活用してデバイスを区分けし、用途に応じたネットワークを用いるなど、将来の発展性が望めることもローカル5Gが期待される要因となっているようだ。

ローカル5GはあくまでDXのための手段

 そして同社がローカル5Gのビジネス活用を進める上で、重要な存在となるのが「スマートデータプラットフォーム」(SDPF)だ。これは企業のデータ利活用を支えるプラットフォームであり、データの収集から蓄積、分析・活用までワンストップで提供するというものだ。

NTTコミュニケーションズ 企業がデータを利活用するためのサービスをワンストップで提供する「スマートデータプラットフォーム」

 同様のデータプラットフォームは幾つかの企業が手掛けているが、プラットフォームサービス本部データプラットフォームサービス部 担当部長の村本健一氏が同社ならではの強みとして挙げるのが「ネットワークをベースに、トータルでデータの利活用を促進できること」だという。エッジから基幹ネットワーク、クラウドまで包括的に手掛けている同社だからこそ、データ活用に関する全ての部分を同じポリシーで提供、運用できるのが強みになっているのだそうだ。

 そのSDPFにローカル5Gが加わることで、前田氏は工場内でデータ収集する時や、基幹システムにデータを移行する時など、エンドツーエンドでの幅広い提案ができるようになると話す。ただ、同社ではローカル5Gありきで話を進めるわけではなく、企業の課題解決に向けデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるためのユースケースを組み立てる際、必要なパーツとしてローカル5Gの活用を当てはめていくことになるという。

NTTコミュニケーションズ リアルタイムのデータ取得や、収集したデータの蓄積・分析にローカル5Gを活用する

 前田氏は、SDPFやローカル5GはあくまでDXによる課題解決を解決するための手段であり、目的ではないと話す。それゆえ「5Gで何かをやりたい」という発想では5Gをうまく活用できないとのことで、「Wi-Fiでは困るケースが出てきた」「データ収集をしたい」など、ローカル5Gの導入に明確な目的を持っている方が成功事例を作りやすいようだ。

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