だが2006年頃を境に、モバイルコンテンツの進化の方向性が大きく変わってくる。そのきっかけは、PCで人気となっていたSNSがモバイルの世界に入ってきたことで、この頃からディー・エヌ・エーの「モバゲータウン」(現・Mobage)や、PCからモバイル向けへと事業を大きくシフトしたグリーの「GREE」などが若い世代に爆発的人気となったのである。
これを機として携帯電話でも、利用者同士のコミュニケーションを重視したサービスの利用が急拡大。当時楽天が提供していた「前略プロフィール」(ザッパラスへの譲渡後、2016年にサービス終了)などが若い世代から絶大な人気を得ることとなった。
また、「魔法のiらんど」(現在はKADOKAWAが運営)などのUGC(ユーザー生成コンテンツ)系サービスがモバイルで注目されたのもこの頃。それらのサービスから「恋空」「赤い糸」などいわゆる「ケータイ小説」の人気作が生まれ、映像化されるなどして一大ブームをもたらしたが、一方で従来の小説の概念とは大きく異なる内容や表現などを巡り、大論争が巻き起こったこともある。
だが当時、モバイルコンテンツは未成年の利用が多くを占めていたため、モバイル向けのSNSなどで犯罪やトラブルに巻き込まれるケースも起きていた。そこで親世代から、携帯電話でインターネットを使わせること自体が「悪いこと」という認識を持たれるようになり、それが2008年のいわゆる「青少年ネット規制法」(青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律)の制定、そしてフィルタリングの義務化などへとつながることとなる。
この頃はまだモバイルでのインターネットを積極的に利用する層が若い世代に限定され、大人世代からの理解があまり得られていなかった。それに加えて大人の男女が出会う、いわゆる「出会い系サイト」が社会的に良い印象を持たれていなかったことも、厳しい目が注がれる背景にあったといえる。
子どもとインターネットとの関わり方は現在も大きな社会課題ではあるが、現在では老若男女問わずモバイルでのインターネット利用が当たり前になるなど、社会環境は大きく変わっている(「マッチングアプリ」で大人が出会いを求めことが一般的になる時代が来るとは、当時筆者は想像もできなかった)。それゆえ、未成年へのインターネットに関するリテラシー教育も、「禁止」から「付き合い方を考える」方向へとシフトしているようだ。
だがそれ以上に劇的なパラダイムシフトが起きたのが2008年。日本でAppleの「iPhone 3G」が投入され、フィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトが急速に進んだことである。
スマートフォンシフトに伴って大きく変化したのが、1つにプラットフォームの運営主体がAppleやGoogleなど海外の事業者に移ったこと。そしてもう1つは、ユーザーがコンテンツに触れる接点がWebから、「App Store」「Android Market(現Google Play)」などのアプリストアに変わったことである。
このことが、それまで栄華を誇ってきた着うたフルなど、従来型のモバイルコンテンツの多くに対し、市場崩壊ともいうべき大ダメージを与えることとなった。一方で、スマートフォンの登場によって利用が急拡大したサービスもいくつかあり、その1つがリアルタイムなコミュニケーションができるメッセンジャーアプリである。
実際、日本では2011年、NHN Japan(現・LINE)のメッセンジャーアプリ「LINE」がテレビCMをいち早く展開したことや、表現力の高い「スタンプ」の採用などによって人気を獲得。その後「カカオトーク」(カカオジャパン)や「comm」(ディー・エヌ・エー、2015年にサービス終了)などとの競争を勝ち抜いて、国内では事実上、スマートフォンのコミュニケーションの標準としてのポジションを獲得するに至った。
そしてもう1つはゲームだ。アプリによって高い表現力のゲームを提供できるようになり、コンシューマーゲームに匹敵する内容のゲームが増えたたことで市場が急拡大したのである。中でもガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」は社会的現象をもたらす大ヒットを記録した他、SNSビジネスに陰りが出ていたミクシィが、2013年に提供開始した「モンスターストライク」の大ヒットで息を吹き返したことは、多くの人に驚きをもたらした。
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