なぜ今、ドコモが固定電話サービスを始めるのか? 「homeでんわ」の狙いを聞く(1/2 ページ)

» 2022年03月28日 11時46分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 NTTドコモが2022年3月29日の提供開始する「homeでんわ」。LTEの通信を利用して「03」などの市外局番から始まる固定電話番号からの受発信ができるサービスで、発表直後より注目を集めているが、その狙いはどこにあるのか。なぜhome 5Gと同じタイミングで提供しなかったのか、固定電話サービスを提供するNTT東西とはどう調整を図ったのか……など、気になる点をNTTドコモの関係者に話を聞いてみた。

homeでんわ LTE回線で固定電話番号による発着信が利用できる「homeでんわ」。シャープ製の専用デバイス「HP01」を固定電話に接続すれば利用できる

「home 5G」でニーズを確認した上での提供

 ドコモの光ブロードバンド事業推進部 サービス企画担当部長である滝澤暢氏によると、homeでんわの企画自体は、固定ブロードバンドの代替サービスとして提供している、5G対応ホームWi-Fiルーター「home 5G」の企画段階から、その必要性を感じていたという。

homeでんわ 2021年8月に提供を開始した「home 5G」。その企画段階から「homeでんわ」の検討は進められていたという

 ドコモでは固定ブロードバンドの「ドコモ光」も手掛けており、そちらでは固定ブロードバンド通信と固定電話をセットに提供していたことから、「home 5Gを提供する以上、電話サービスを埋めていく必要があった」と話す。であればhome 5Gの提供開始と同時にhomeでんわの提供を開始してもよさそうなものだが、時間を空けての提供となった理由として滝澤氏は「利用者の声を聞きたかった」と答えている。

 ドコモとしてはhome 5Gの提供前からhomeでんわの提供に向けた準備を進めていたが、実際にニーズがあるかどうかを見極めたかったというのが本音であるようだ。そこには携帯電話が広く普及したことで、固定電話の利用が減少傾向にあることも影響しているだろう。

 だがhome 5Gの提供開始後、固定電話もセットで使いたいという声は予想以上に多かったとのこと。ドコモのスマートフォン利用者がhome 5Gを利用し、セット契約でお得に利用できることを知ったことから、固定電話番号を持ちたい人に受け入れてもらえると判断。具体的なサービス提供へと至ったようだ。

 ちなみに滝澤氏は、一般論と断りながらも「一時期ほどではないが、個人の携帯電話番号ではなく家族共通の固定電話番号を教えたいというニーズや、法人やSOHOなどのニーズもある」と話している。個人だけでなく固定電話番号が欲しい企業などのニーズを獲得する狙いも、homeでんわ提供の背景にはあるようだ。

調整役はNTT、グループ一体で競合への流出を抑える

 だがドコモがhomeでんわを提供するに至ったのにはもう1つ、「home 5Gを選ぼうとしたとき、固定電話サービスがないので(契約を)止めた」ということがないようにするためだと滝澤氏は話している。競合他社が以前から、ホームWi-Fiルーターと固定電話が利用できるサービスをセットで提供しているだけに、他社と同じ土俵に立つにはhomeでんわが必要だったのは確かだろう。

 実際、homeでんわはLTEの通信を用いて固定電話番号が利用できる仕組みで、他社サービスと技術的に大きな違いがあるわけではないという。固定・携帯へ発信するときの料金や、緊急番号への発信が070/080/090番号での発信となる点なども他社と大きく変わらず、そうした点からもhome5Gが、あくまでサービスの穴を埋める狙いが強いものであることが分かる。

 そこで気になるのはNTT東西といかに調整を図ったかである。NTTグループで固定回線によるサービスを提供してきたのはNTT東西であり、NTTドコモがhomeでんわを提供するとNTT東西とグループ内で競合してしまうため、サービス提供には何らかの調整が求められるはずだ。

 だがドコモの光ブロードバンド事業推進部 事業企画担当課長の斎藤嘉平氏によると、NTT東西との調整は「していない」とのこと。ただ双方の親会社となるNTTには事前に連絡をしているそうで、実質的にNTTが調整役となってサービス提供に至った様子がうかがえる。

 home 5Gを提供して手軽にブロードバンド回線を引きたいニーズが多いことが判明したことから、NTTグループとしてはhomeでんわもいち早く提供してサービスの穴を埋め、ドコモだけでなくNTT東西からの流出も止めたかったようだ。実際、斎藤氏は「NTT東西から他社に流出している部分を、NTTグループ、ドコモとして取っていく」のがhomeでんわの狙いだと話している。

 ただ、料金プランを見ると、他社と全く同じというわけではなく、月額1078円(税込み、以下同)の「homeでんわ ライト」に加え、550円の無料通話分と「通話中着信」「転送でんわ」などの付加機能が追加料金不要で利用できる月額2178円の「homeでんわ ベーシック」が用意されている。なぜ複数プランを提供するに至ったのかというと、他社への対抗というよりもNTT東西の「光コラボレーションモデル」の事業者が提供する「ひかり電話」を意識してのことのようだ。

 光コラボレーションモデルとは、NTT東西が「フレッツ光」として提供している光回線を、他の事業者が借りて固定ブロードバンドサービスを提供する仕組み。そこで提供される固定電話サービスがひかり電話であり、その内容は基本的にフレッツ光のものと共通している。

 そしてひかり電話のサービス内容を見ると、homeでんわ ライトはひかり電話の「基本プラン」(月額550円)、homeでんわ ベーシックは「ひかり電話A」(月額1650円)の内容に近いことが分かる。加えて「home 5G」や「5Gギガホ プレミア」などドコモの回線契約者がファミリー割引グループ内にいた場合に適用される「homeでんわセット割」によって、homeでんわ ライトの月額料金は550円、homeでんわ ベーシックは月額1650円と、料金面でも近しい内容となる。

homeでんわ homeでんわの料金プラン(NTTドコモプレスリリースより)
homeでんわ NTT東日本の「フレッツ光」の「ひかり電話」の料金プラン(フレッツ光Webサイトより)
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