世界を変える5G

虎視眈眈と復活を狙うHuaweiスマホ 「Mate 50」シリーズは“力業”で5G対応も山根康宏の中国携帯最新事情(1/2 ページ)

» 2022年11月01日 17時03分 公開
[山根康宏ITmedia]

 2022年9月6日にHuaweiがスマートフォンの新製品「Mate 50」シリーズを発表した。Huaweiのスマートフォンは毎年春にカメラ強化の「Pシリーズ」、毎年秋に最新プロセッサを搭載する「Mateシリーズ」が発表されてきた。しかし米国政府の制裁を受けてプロセッサの生産が事実上できなくなり、自社開発のKirinを搭載したMateシリーズの最後のモデル「Mate 40シリーズ」が発表されたのは約2年前、2020年10月だった。

Mate 40 Pro 最後のKirin搭載Mateシリーズ「Mate 40 Pro」

 Mate 40シリーズから2年でHuaweiを取り巻く環境は大きく変わり、技術の停滞を余儀なくされている。2021年7月に発表した「P50シリーズ」はライカのカメラを搭載するものの、プロセッサはQualcommのSnapdragon 888を採用し、さらにこちらも制裁の影響から通信モデムは4Gのみの対応となった。そして2022年にはライカとの協業が終了。2016年4月の「P9シリーズ」から続いた両者の協業関係は6年で終了となった。

 このため、Mate 50シリーズは「Qualcommプロセッサ採用」「5G非対応、4Gのみ対応」「ライカカメラ非搭載」というモデルとなった。これまでのHuaweiのフラグシップスマートフォンの優位点が失われているように見えるが、Mate 50シリーズは新技術と秘策でスマートフォンの頂点を十分目指すことのできる製品として登場したのだ。

Mate 50 Pro 2年ぶり登場のMate 50シリーズ上位モデル「Mate 50 Pro」

ライカとの協業で得たノウハウを生かした撮影技術を搭載

 一番の注目は、Huaweiが開発したカメラテクノロジー「XMAGE」の採用である。ライカとの協業を通して得られたノウハウを背景に、静止画だけではなく動画でも新しい体験を提供できるという。また、夜景にも強く、Mate 50シリーズのメインカメラは大型でF1.4と明るいRYYBセンサーにより従来比24%多い光を取り込むことができる。XD Fusion Pro 画像エンジンとシームレスに連携して明るさとコントラストを元のままに保ち、鮮明な夜景を撮ることができる。Huaweiのカメラの夜景性能には定評があるが、その性能がさらに高まっているというのだ。

Mate 50 Pro ライカに代わりXMAGEテクノロジーを搭載する

 また、スマートフォンのカメラとして初となる10段階に調整できる可変絞りを採用。ぼかしと被写界深度をF1.4からF4までの間で思うままに調整できる。これでついにデジタルカメラに肉薄する最高の傑作を撮影することが可能になった。

 Huaweiのカメラ技術はDXOMarkのベンチで1年以上前に登場した「P50 Pro」が今でも総合3位のスコアをつけている(1位はHONOR「Magic4 Ultimate」、2位はApple「iPhone 14 Pro」)。Mate 50シリーズの上位モデル、「Mate 50 Pro」はP50 Proが搭載する6400万画素のモノクロカメラこそ非搭載だが、5000万画素メインカメラはより明るく可変絞りとなり、P50 Pro同様に1300万画素超広角、6400万画素光学3.5倍望遠カメラも搭載する。P50 Pro並み、あるいはそれを超えるカメラ性能を有しているといえる。

Mate 50 Pro Mate 50シリーズは10段階の可変絞りを利用できる

 なお、Mate 50シリーズはグローバルでも発売される。中国向けはGoogleサービス(GMS)非対応、Huawei開発の「HarmonyOS 3」を搭載して販売されるが、グローバル向けにはAndroidベース、GMSに同じく非対応の「EMUI 13」を搭載する。Huaweiは自社のアプリストア「AppGallery」対応アプリが毎月増えていることをアピールしているが、現実的にはTwitterやFecebookなどメジャーSNSアプリは対応していない。それでもグローバルに製品を投入する理由は、2台目需要であろうとも、Huaweiのカメラ技術、XMAGEの性能の高さをより多くの消費者に体験してほしいからだろう。

フラグシップモデルをグローバル展開、5Gを力業で対応させる工夫も

 グローバルで販売されれば家電量販店などに製品が並ぶことから、実際に店頭で製品に触れてもらうことができる。生活必需品となったスマートフォンで主要アプリが使えないのは痛手ではあるものの、Mate 50シリーズを購入してもらえなくとも、そのカメラ性能を体験してもらえば、「カメラ性能に優れたHuawei」という印象を残すことができる。いずれ米国の制裁が解除されたとき、再び市場に戻ってくるためにもフラグシップモデルのグローバル展開はビジネスを抜きにしても必要なのだ。

Mate 50 Pro 久々にポルシェデザインとのコラボモデル「Mate 50 RS Porsche Design」も登城

 しかしMate 50シリーズにはもう1つの大きな弱点がある。それは5Gに非対応なことだ。日本ではまだ4Gでも十分と考える消費者も多いかもしれないが、海外では先進国を中心に5Gのエリア拡大が急激に進んでいる。欧州でも、郊外に行くとまだまだ2Gや3Gのみというケースもあるが、都市部は5Gでカバーされており、高速通信を容易に使える地域も多い。また各メーカーのフラグシップモデルが5Gに対応する中、Huawei製品だけが4G対応というのは見劣りがしてしまう。

 この5G非対応問題に対してHuaweiは、中国国内で力づくで5Gへの対応を行っている。通信モジュールなどを開発しているSoyeaLinkから、5Gモデムを内蔵したカバーが販売されるのだ。この5GモデムカバーはP50 Proの発売後、しばらくしてから同端末用が登場し、中国では一定の数が売れているという。SIMスロットはなくeSIMのみの対応。P50 Proに装着すると本体から電源が供給され、HuaweiのIoTアプリ「AI Life」からカバー内の5Gモデムを操作できる。

Mate 50 Pro P50 Proを強引に5G対応にする5Gモデムカバー

 5G通信モデム搭載カバーは下位モデルの「P50」用には販売されなかったが、Mate 50シリーズ用にはMate 50用、Mate 50 Pro用、そしてMate 50 RS Porsche Design用と、全3種向けにそれぞれのカバーが販売される。つまりMate 50シリーズの本体は制裁の関係で5Gモデムを搭載できないが、外付けの5Gモデムカバーをつければ全モデルが不自由なく5Gを使うことができるのである。苦肉の策ではあるもののこれで5Gへしっかり対応できる。グローバル市場への5Gモデムカバーの展開は不明だが、ニーズが高まればいずれ海外へも投入されるかもしれない。

Mate 50 Pro Mate 50シリーズ用にも5Gモデムカバーが登場
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