―― 先ほど、獲得を続けるケースもありうるというお話がありましたが、どういった形で可能なのかを詳しく教えてください。
鳥越氏 まかせるMVNOとは別に、「かんたんMVNO」という仕組みを作っています。今MVNOをやっていない会社の中には、MVNOになりたいが事業者登録や煩わしい業務管理はしたくないというところもたくさんあります。でも、自分たちのブランドはつけたいというときに、「powered by」でやるモデルです。実態としては、うちが企画設計やSIMの展開まで全てやりますが、獲得する会社は「○○モバイル」という冠をつけた事業ができます。近々3社でスタートします。どのぐらい数字が積み上がるかはまだ分かりませんが、気軽にMVNOになりたい方も始めています。
事業譲渡したあともユーザーは増やしたいという方は、この仕組みを使い、かんたんMVNOに切り替えることで、あたかも事業を継続しているかのように装うことができます。うまくいかないのでやめたいが、本質的にはユーザーを増やしたいという場合にも、かんたんMVNOは使えると思います。
―― ちなみに、譲渡されるMVNOは、基本的にMVNEから回線を調達していると思います。ここを統合すれば、よりコストが下げられそうですが、MVNEの変更はありえるのでしょうか。
鳥越氏 たまたま上流のMVNEが一緒の場合はパイプを統合することはありますが、違う場合は契約を残しながらやっていきます。メジャーなMVNEの5社とはすでにお付き合いもあります。
これとは少し関係ない話かもしれませんが、将来的には、うち(スマモバ)もL2接続にしていきたいと思っています。弊社は2019年にアプリックスに合流していますが、その技術的基盤があるのが合流した意味だと思っています。2015年にスマモバをスタートしたときと比べると、ザックリ言って運営コストも3分の1ぐらいになっています。L2接続に行くのはハードルが高いという誤解もありますが、意外とライトに行けるようになっています。
L2接続になれば、ユーザー分析やポリシー設計も自前ででき、サービスの自由度が上がります。結果としてユーザーに還元ができるので、解約率の抑止や新規獲得の訴求につながる。原価が下がり、利益が増えればそのぶんを投資に回せます。
―― まかせるMVNOは、年間何社ぐらいという目標でやっていくのでしょうか。
鳥越氏 スピード感を持ってやっていきますが、それでも1社あたり半年はかかるので、1年で2、3社が限界です。年間3、4社の事業譲渡が成立すれば御の字でしょう。
―― これまで、あまり聞いたことがなかったビジネスですが、MVNOの状況を踏まえると、ユーザー保護の観点でも譲渡の仕組みは必要だと思っていました。こうしたことをやり始めたのは、いつごろだったのでしょうか。
鳥越氏 事業譲渡を受け始めたのは、2017年ぐらいです。ただ、実際に声をかけようと思ったのは、ahamoなどが始まり、MVNOがはしごを外されたときですね。これはやった方がいいと思いました。
サブブランドの台頭や、ahamoをはじめとしたオンライン専用ブランドの登場を機に、MVNOの経営環境は一段と厳しくなっている。大手MVNOは、基本使用料や接続料が下がったことを生かし、これまでより安価な料金プランを投入することでキャリアとは差別化を図れている一方で、ユーザー数の少ない“零細MVNO”はその手も取りづらい。鳥越氏が語っていたように、管理コストやサポートコストに規模の経済が働かないからだ。MVNOの統廃合は、今後さらに進んでいく可能性もある。スマートモバイルコミュニケーションズは、ここに商機を見いだしたというわけだ。
まかせるMVNOは、同社が利益を上げられるのはもちろん、ユーザー保護にもつながるため、歓迎できる動きといえる。その反面、ユーザー保護の観点では、本来、総務省がMVNOを促進するのと同時にまかせるMVNOに近い仕組みを検討しておくべきだったようにも思える。スマートモバイルコミュニケーションズだけでは引き受けられる会社の数は限られているうえに、事業譲渡が成立しないケースもあるからだ。いずれにせよ、今後、淘汰されるMVNOはさらに増える恐れがある。そのときの先行事例としても、まかせるMVNOの動向には注目しておきたい。
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