スマホのeSIMを“かんたん”にIoT機器へ実装 IIJが新技術「LPA Bridge」を開発

» 2022年11月14日 19時15分 公開
[金子麟太郎,ITmedia]

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は、ウェアラブル機器やIoTデバイスで、コンシューマー向けeSIMを利用可能にする新技術「LPA Bridge」を発表した。

LPA Bridgeの誕生に至った背景

 eSIMとは通信に必要な情報を含むeSIMプロファイルを、インターネット経由でダウンロード(リモートプロビジョニング)し、物理SIMを使わずにモバイル通信サービスを利用可能にするためのもの。eSIMのリモートプロビジョニングには移動体通信事業者の業界団体「GSMA(GSM Association)」により、「コンシューマモデル」と「IoTモデル」の2つの規格が定義されている。

IIJ eSIM eSIMの仕組み。コンシューマモデルと、IoTモデルとで異なる

 1つ目のコンシューマモデルはスマートフォンのように入出力装置(キーボード、カメラなど)が具備された機器での利用を想定したもの。QRコードの読み取りやアクティベーションコードの入力などで、ユーザーが使いたい通信サービスを選択し、eSIMプロファイルをダウンロードすることが可能だ。こちらは既にスマートフォンやノートPCで採用されている。

 「コンシューマー向けeSIMはWi-Fi環境化でeSIMプロファイル(英数字羅列)をQRコードにし、それをスマートフォンのカメラで読み込むという仕組みが一般的。つまりネット環境とカメラが必須となる。補足すると、スマートフォンと連携したコンパニオンデバイス、いわゆるApple Watchなどに内蔵されたUICC(ICカード)向けの実装もあるが、市場に多く出回っているものがスマートフォンで完結するものだ」(IIJ MVNO事業部 ビジネス開発部 シニアエンジニア 三浦重好氏)

 2つ目のIoTモデルは入出力装置のないデバイスでの利用を想定したもの。「Linuxに代表される汎用(はんよう)OSや、汎用通信モジュールを搭載したものが多く、Wi-FiやBluetooth、それにRJ45(LANケーブル)、ローカル通信機能を備えている」(三浦氏)。だが、eSIMプロファイルの提供には通信事業者の支援が必要で、実質的に通信サービスの代理店やMVNOとなり、通信サービスの提供を行う必要があるなど、機器メーカーにとってはハードルが高く、普及が進んでいないのが現状だという。

 IIJ 理事・MVNO事業部 副事業部長 中村真一郎氏は「スマートフォンへのeSIM搭載は積極的に進んでいる一方で、このコンシューマー向けeSIMの利便性をIoTに生かせるサービス、ソリューションがない」と指摘。デバイスメーカー側と、顧客側それぞれが抱えるデメリットを下記のように挙げた。

デバイスメーカー側

  • eSIM IoTモデルの構築が困難
  • 回線契約をデバイスメーカー名義でやらなければならない
  • 顧客管理の仕組みが必要
  • 請求の仕組みの対応

顧客側

  • 決まったプランしか買えない
  • 自由にプランや回線を変更できない
IIJ eSIM IIJ 理事・MVNO事業部 副事業部長 中村真一郎氏

 さらに従来eSIMをIoT機器に搭載するには、機器メーカーが事前に特定の通信サービスを提供する必要があり、開発や運用の大きな負担となっていた。

LPA Bridgeの概要

 こうした背景を踏まえ、IIJが開発したのがLPA Bridge。入出力装置がない、ひいては画面、キーボード、カメラなどが十分ではない下記のデバイスに対し、スマートフォンやPCなどのコンシューマモデルでeSIMのリモートプロビジョニングを可能にする技術だ。

  • 通信対応家電(ウェアラブル機器・ガジェット)
  • 小型のIoT機器
  • 組み込み制御機器
  • LTEルーター

 IIJではこれを実現すべく、GSMAによってコンシューマモデルに向けて標準化されているLPA(Local Profile Assistant:eSIMプロファイルのダウンロード・書き込みを行う機能のこと)を下記2つに分割した。

  • アクティベーションコードの入力などインタフェース部分を担当する機能(LPA App)
  • eSIMとリモートプロビジョニング用サーバ間の通信の中継を行うための機能(LPA Bridge)

 その上で、デバイス内にLPA Bridgeを実装し、デバイスにeSIMを設定するための利用者の機器(スマートフォンやPCなど)内にLPA Appを実装する仕組みだ。

IIJ eSIM LPA Bridgeの仕組み

 IIJはコンシューマー向けeSIMのリモートプロビジョニングフローと、LPA Bridge経由でのフローを次のように説明している。

 コンシューマー向けeSIMのリモートプロビジョニングフローとしては次のようになる。まず設定用機器(スマートフォン)でQRコードをスキャンし、ダウンロードするeUICCプロファイルを認識。スマートフォン内のLPAがサーバからeUICCプロファイルをダウンロード。最後にその情報をeSIMに書き込む。

 LPA Bridge経由では書き込みまでが先とほぼ同じ流れで、その先の手順はダウンロード時に行われるeSIMからリモートプロビジョニング用サーバ間の暗号化通信をLPA BridgeとLPA Appが中継する形となる。

IIJ eSIM LPA BridgeはデバイスとeSIMの橋渡しになるようなイメージだ

 なお、「デバイスに実装されたLPA Bridgeと設定用機器にインストールされたLPA Appは一体となってLPAに相当する機能として振る舞う」(三浦氏)ため、GSMAの規定するコンシューマモデルに基づきeSIMプロファイルをデバイスで利用できるようになる。

 LPA Bridgeに関する補足として三浦氏は「セキュリティーに関する懸念点」を挙げた。「よく車内でeSIMを利用し、窓の外からいじられたら(eSIMを書き換えられたら)どうなるの? という質問を受け付けることがあるが、強固なパスワードでロックし、eSIMを入れるとのメニューを押した場合にのみ、このサービスが動くようにすることも理論的には可能」だという。

IIJ eSIM IIJ MVNO事業部 ビジネス開発部 シニアエンジニア 三浦重好氏

LPA Bridgeで生まれるメリットは?

 LPA Bridgeで、コンシューマー向けeSIMをIoTデバイスに組み込めるようになると、何がどう便利になるのか? 中村氏はこのようにアピールした。

 「デバイスメーカー側は製品の販売のみ行い、その顧客が通信サービスを購入できる。これにより、顧客からの通信料金回収、回線費用を含めてビジネスモデルの立案、顧客管理や利用のサポートといったことを行う必要がなくなり、ハードウェアの製作(ものづくり)に集中できるようになる」

 「料金プランもキャリアの決めたものに準ずる形となり、それを顧客が自由に選べるようになる。実は業界では近い将来、スマートフォンからSIMのトレイがなくなり、eSIMオンリーになると予測されている。IoT機器でもコンシューマー同様に自由度が増す――。そんな世界観を実現したい」

IIJ eSIM PCでeSIMのプロファイルを表示し、それをスマートフォンで読み込む。スマートフォンで回線の開通を行うと……
IIJ eSIM IoTデバイスでも通信できるようになる(技術展示ではeSIMカードを使用)

今後はEdgeTech+ 2022に出展 

 IIJは商用レベルで利用可能なLPA BridgeとLPA Appの開発を完了したと発表したが、「特許は申請中」(三浦氏)だ。IIJは今後、IoT機器メーカーやデバイスメーカーに対し、LPA BridgeとLPA Appのライセンス供給を行う予定。

 LPA Bridgeによりデバイスの販売や流通が容易になり、これらの市場がこれまで以上に活性化し、スマートフォン利用にとどまらない領域での通信需要が拡大するもの――とIIJは考える。既に複数のデバイスメーカーとの間で先行的に商品開発を想定したPoCを開始しているが、PoCに参加してもらうメーカーを募集したいとしている。

 そのためIIJは2022年11月16日から18日までに開催される展示会「EdgeTech+ 2022」に出展し、IIJのブースでLPA Bridgeを展示する予定。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年10月24日 更新
  1. きょう発売の「iPhone Duo」、Apple 表参道でゲットしてきた 早速開封レポート (2026年10月23日)
  2. Apple初の折りたたみ「iPhone Duo」きょう発売 価格、特徴、誰向けか――5分で分かるまとめ (2026年10月23日)
  3. モバイルSuicaの新決済「teppay」を早速試した 店員への伝え方や決済音は? スムーズに決済できる? (2026年10月22日)
  4. 若者の間で流行する「ホビ垢」とは? 実はホビーでもホビットでもない、“○○○する自分”が主役のSNSアカウント (2026年10月23日)
  5. 「iPhone Duo」を試して分かった9つの疑問と本音 36万円超の折りたたみスマホは「買い」か? (2026年10月21日)
  6. 「iPhone Duo」はLINEもポケモンGOも“黒い”余白だらけ? 日本の定番アプリは未対応が多く (2026年10月23日)
  7. iPhone Duoを使って痛感した「Face ID」のありがたさ 充電スタンドに置いたまま通知が見られない不便さに苦しむ (2026年10月24日)
  8. 「Androidのマイナンバーカード」がスタートするもフル機能対応機種が少ない件 ポイントは「StrongBox」という仕組み (2026年10月24日)
  9. JR東日本「分かりにくい」新幹線券売機を改善へ なぜ、スマホではなく「駅での最短1分購入」を実現? (2026年07月04日)
  10. iPhone Duo発売直後に「転売」が横行 メルカリ・Yahoo!フリマ・ラクマで割高に? (2026年10月23日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー