災害や通信障害でメイン回線が使えなくなってしまった場合のバックアップサービスが、ついに登場する。KDDIとソフトバンクは、2月2日に他社ネットワークを予備回線として利用するサービスを発表。3月下旬以降、正式にこれを導入する。KDDIはソフトバンクの、ソフトバンクはKDDIの回線を使って、お互いに冗長化を図れるようになる見込みだ。料金などの詳細は未定となり、サービス開始前に改めてアナウンスされる。
この枠組みには、ドコモも参加することになるようだ。2月9日に開催されたNTTの決算説明会で、代表取締役社長の島田明氏がKDDIやソフトバンクと同時期に提供を開始することを明かした。一方で、楽天モバイルやMVNOは、相互バックアップの枠外のまま。こうしたキャリアのユーザーをどう救済していくかは、確定していない。ここでは、サービス導入の経緯を改めて振り返るとともに、断片的に見えてきたサービスの中身や今後の課題を取り上げていきたい。
7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、総務省では、事業者間ローミングの仕組みを整備する動きが本格化した。2022年12月には、呼び返し(コールバック)可能なフルローミングを前提に、具体的な運用方法やネットワークの改修方法を検討する作業班が設置された。一方で、以前本連載でも取り上げたように、フルローミングは実現に時間がかかるだけでなく、非常時の代替手段としては欠点もある。コアネットワーク側に障害が起こると、通常の形ではローミングもできなくなるのはその1つだ。
これに対し、総務省の報告書でも、事業者間ローミング以外の道を検討することもうたわれていた。中でも有力視されていたのが、デュアルSIMの仕組みを活用した予備回線サービスだ。普段利用しているのとは別のキャリアに切り替え、通信を継続するというのがこの方式の特徴。既存の仕組みを生かした手段なだけに、ローミング以上に話はシンプルといえる。現時点でも、ユーザー自身が2回線以上契約すれば、同様のことはできる。
実現に向けて動いたのは、KDDIとソフトバンクだった。同社の代表取締役社長、高橋誠氏は、その経緯を次のように話す。
「7月に障害を起こしてしまい、その際にローミングなどのアイデアが出た。その中で、MVNOのような形で(予備回線を)提供するのはありなのではというお話をソフトバンクの宮川(潤一 代表取締役社長兼CEO)さんがしていた。半期決算の前に直接お会いして、デュアルSIMのような形でやるのが簡単というお話をした」
「担当ベースでお声がけはしたが、一定の時間がかかったのでトップレベルでお願いをしに行った。ソフトバンクの宮川さんには、『ぜひともやりましょう』と即応していただけた。そこから検討や進捗(しんちょく)が早く進み、年度内に実現する合意に至った」
宮川氏も、「『デュアルSIMでやったらどうかと話をしていたが、本気でやる気があるのか』と高橋さんから問いかけられた。『ぜひ』と答え、急ピッチで現場同士をすぐに合わせて(サービスの)立て付けを開始した。サービス1つを作るのには相当時間がかかるものだが、両社本気と思えるスピード感でできた」と口をそろえる。トップ会談で実現が決まり、そこから急ピッチでサービスの中身を詰め、発表に至ったのが大きな流れだ。
ここには、ドコモも加わる見通しだ。高橋氏は「最初にお声がけしたのがドコモとソフトバンク。いち早く合意したのはソフトバンクだが、できるだけそこ(ドコモ)とも協議は進める」と語る。これを受け、NTTの代表取締役社長、島田明氏も「話し合いはしている」としながら、「(KDDIやソフトバンクから)そんなに遅れることなく、同じようなタイミングで展開できると思っている」と話す。現時点では、KDDIとソフトバンクが合意に至ったが、ここにドコモが加われば、ユーザーは予備回線のキャリアも選択ができるようになる。
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