「MVNOへの電話番号割り当て」で何が変わる? 格安SIMの機能拡張につながるが、課題も(2/3 ページ)

» 2023年04月13日 12時42分 公開
[石野純也ITmedia]

データ通信の国際ローミングも実現可能になるのか

―― データ通信まで含めた国際ローミングが実現できる可能性はありますか。

佐々木氏 これも直接関係があるというわけではありません。ただ、日本はそもそも、音声通話がライトMVNOにしかできませんでした。ライトMVNOは主体的に海外事業者と契約ができず、モバイルネットワーク上では、ホストMNOの先に交換機を持っている事業者にすぎなかった。これだと海外の事業者と直接ローミング協定を結べません。フルMVNOに関しては独自に協定を結べるため、データ通信のフルMVNOは、他国の事業者のローミングを提供することはできました。今後、電話番号の解禁とともに音声のフルMVNOが登場することが期待されますが、これでこれまでデータのフルMVNOが行ってきたように、他国の事業者とローミング“アウト”の契約を結ぶことができます。

 これまでも、まったくできなかったわけではありませんが、魅力的なプランの提供が難しかった。個人にはリスクが高く、消費者トラブルになりかねない金額になっていたので、各MVNOの判断で是々非々の対応になっていました。ライトMVNOしかなく、場合によってはMNOからの卸の形でなっていたからです(※相互接続ではなく、卸の場合、MVNOが料金を柔軟に設定することができず、料金は高額になる)。そのMNOを超えて直接ローミング協定を結べるよう移行ができます。

 一方で、ローミングイン(ローミングを受け入れること)の契約は依然としてできません。海外のSIMをお持ちの方に、日本の基地局を使わせることはフルMVNOでも不可能です。

―― 佐々木さんがお勤めのIIJは、フルMVNOとして運用しているIMSI(加入者識別番号)を海外のソフトウェアSIM事業者に貸し、訪日外国人向けのサービスを間接的に提供していたと思います。こういったことも、音声通話込みでできるようになるという理解でよろしいでしょうか。

佐々木氏 技術的に言えばできます。ただし、ここに関してはホストMNOとの契約や法令があります。日本には不正利用防止法があり、音声に対しての法令が非常に厳しい。今だと日本の電話番号、特に音声を扱う電話番号はほぼ日本の通信事業者です。海外の事業者に対して不正利用防止法をどうしていけばいいのかというのは、いち事業者のビジネスを超える世界の話です。コンプライアンスを守れるのかという、別の観点も考えなければいけない。これをやるには、まだまだ越えなければハードルがたくさんあります。

―― ニーズはあるのでしょうか。

佐々木氏 使いたいという声は非常に多いですね。短期で海外から来られる方が、(音声通話を契約して)比較的すぐに解約したいというニーズもあります。不正利用との兼ね合いはありますが、一方で、短期で日本に来る方に厳格な本人確認をどこまでするのかという話もあります。これは複合的に考えなければいけない。電話番号の割り当てを受けたとしても、直接解決できる話ではありません。

「緊急通報」と「全国での使用」が必須、音声のフルMVNOにもなる必要がある

―― 制度として決まりましたが、割り当てにはどのような条件があるのでしょうか。

佐々木氏 割り当ての条件はいくつかあります。1つは緊急通報を実現しないといけないいうこと。もう1つは全国で使えるようにしなさいということです。それ以外の付加的な固有条件として、IMSIの割り当てを受けなさいというものもあります。もう1つが、音声のIMSを持ちなさいという条件です。実態としてはIMSに(フルMVNOとして必要な)HSS(Home Subscriber Serverの略で日本語だと加入者管理装置)を含めて持つ形になるので、令上は、音声のフルMVNOになりなさいということです。

MVNO 電話番号割り当て 電話番号割り当ては、緊急通報やMNP可能であることなどが条件となる(以下、総務省の「電気通信事業法施行規則等の一部改正について」から引用)

―― ただ、IIJがデータ通信のフルMVNOになった際にも、数十億円単位の投資が必要になりました。金銭的なハードルは高いのではないでしょうか。

佐々木氏 その通りです。各社のビジネスは、リスクのあるものになっていくと思います。ライトMVNOは比較的リスクが小さくできる事業形態なのに対し、そこを超えて自由度がほしいとなると、トレードオフが評価される形になります。ここから先は、各社がもうかる、もうからないの判断をするところです。

MVNO 電話番号割り当て IIJのように、フルMVNOとして加入者管理装置を持つことも条件となる

―― 実際、いくらぐらいかかりそうなのか、試算はありますか。

佐々木氏 いろいろな形態が考えられます。MVNO委員会のプレゼンでも説明しましたが、2025年のPSTN(Public Switched Telephone Networkの略で、公衆交換電話網)マイグレーションがあるので、一定程度レガシーの設備に対する投資はオミット(省く)が大前提です。そこから先は、設備をオンプレミスとして持つところもありますし、クラウド事業者に頼って設備を運用するというところもあります。また、1社で丸抱えするのではなく、複数社で設備をシェアできれば、参入社も増えて頭割りができます。今だとAWSがクラウドコアをやっていたり、同じようなことをマイクロソフトのAzureでもやっていたりします。

 ただ、アメリカではクラウド的なソリューションがありますが、日本はまだまだ後進国ですし、音声にはローカルなレギュレーションもあります。例えば、TTC(情報通信技術委員会)の協定があり、そこが音声を含めた事業者間の標準を決めています。(モバイル通信の標準を定める)3GPPに加え、そういった細かなところまで守らなければなりません。MNOに提供する事業者があれば、TTC標準は守るはずなので、MVNOにも提供できるようになる夢が広がります。

 場合によっては、ホストオペレーターとしてではなく、クラウドオペレーターとしてドコモや楽天がパートナーになるかもしれない。組み方の夢は描けますが、一方で、卑下するわけではありませんが、日本のMVNOはそこまで大きくはない。優先順位もあるので、どこまでが夢か、どこまでが実現可能かはいろいろと検討していくことが必要です。

篠原氏 環境自体は整ってきていますが、やはりコストはかかります。IMSの交換設備だけでなく、MNOに支払う網改造料もかかってくる。そこはまさに、協議をしていく中で見えてくる部分があります。どのぐらいコストがかかるのかで、マルチキャリアサービスなどの広がりが変わります。需要はもう少し見たうえで考えなければいけないですね。

三宅氏 5G SAの協議も並行して進んでいますし、2025年のPSTNマイグレーションもタイミングが重なります。ちょうど音声のレガシーが変わっていくタイミングなので、各社、その数年で効率的に切り替えて対応するのかどうかの検討をしています。

―― そうなると、どのぐらいの会社が参入するのでしょうか。

佐々木氏 MVNO委員会の立場では言えませんが、何十社ということにはならないと思います。MVNOの届け出がある事業者は千数百といった数ですが、その桁数よりはだいぶ小さくなるはずです。

―― 既にやりたいと手を挙げているところはありますか。

佐々木氏 手を挙げられた方もいますし、水面下で検討している会社もあると思います。そこはMVNOによってさまざまです。本当にやるとなると、技術的な高いハードルを超えなければいけない。投資額も巨額になりますから、それをどう回収するかのビジネスモデルも必要になります。手を挙げるだけなら気軽にできるかもしれませんが、本当にやろうとするとハードルは高いと思います。

―― 現在、音声は全てMNOの卸ですが、やるとなったら他に電話を提供している通信事業者と、それぞれ相互接続をしていくのでしょうか。

佐々木氏 固定各社との接続に関しては協定を結ばなければなりませんが、25年以降、NTT東西はIPの世界のIX(Inter Exchangeの略で、相互接続を提供する事業者のこと)に相当する大きなスイッチを提供することになります。そこから先はNTT東西が運ぶのではなく、スイッチにつながっている高いレイヤーのP2P接続は各社で設定してください、となります。プラスして、MNO4社との間では、もう少し高いレイヤーでの接続になります。

 協定に関して、今は別途ビルアンドキープ方式(事業者間でアクセスチャージの清算を行わない方式)の議論がスタートしています。もしそれが今後普及していけば、一定程度、事務的な清算業務は低減します。

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