「MVNOへの電話番号割り当て」で何が変わる? 格安SIMの機能拡張につながるが、課題も(1/3 ページ)

» 2023年04月13日 12時42分 公開
[石野純也ITmedia]

 1月20日に、MVNOへの電話番号割り当てを可能にする「電気通信事業法施行規則」などの一部改正が決まった。モバイルの世界では、電話番号は基地局を自ら運用するキャリア(MNO)にしか、割り当てられていなかったが、この条件を緩和。加入者管理機能やIMS(IP Multimedia Subsystemの略で音声通話などを制御する装置)を持つMVNOも、独自の電話番号を持ち、ユーザーに提供することが可能になった。

 この改正を求めていたのが、MVNO各社が加盟する業界団体のMVNO委員会だ。同委員会はテレコムサービス協会内の組織で、2022年12月時点で61社が参加している。IIJやオプテージ、NTTコミュニケーションズなど、シェア上位のMVNOやMVNEが名を連ねる。施行規則の改正が決まったことで、今後、一部のMVNOが具体的な割り当ての検討に入る可能性が高まった。

MVNO 電話番号割り当て MVNOによる多様な付加サービス創出を実現するために、MVNOに電話番号を指定できるよう改正する(以下、総務省の「電気通信事業法施行規則等の一部改正について」から引用)

 一方で、現状でも、MVNOで音声通話やSMSなどのやりとりに電話番号は利用できる。MVNO自身に割り当てられることで、どのような変化があるのか、ユーザーには見えづらいのも事実だ。では、なぜMVNO各社は電話番号の割り当てを必要としていたのか。MVNO委員会に話を聞いた。インタビューには、委員長を務める島上純一氏(IIJ)と副委員長の篠原伸生氏(オプテージ)、主査の佐々木太志氏(IIJ)、副主査の三宅義弘氏(オプテージ)の4人が答えた。

一定の条件を満たしたMVNOには、何万という単体で電話番号が割り当てられる

佐々木太志 MVNO委員会主査のIIJ佐々木太志氏

―― 最初に、電話番号をMVNOに割り当てられるとはどういうことか、基本的なところから教えてください。

佐々木氏 電話番号自体は、利用者の1回線につき1つが割り当てられています。電話番号にはデータ通信専用の020もありますが、今回議論されていたのは、070/080/090の音声通話用の番号です。利用者の回線に対して分かりやすい形で番号識別をするのが趣旨で、それによって電話をかけたり受けたり、SMSを送受信したりといったことができます。そのコントロールをするための番号が、いわゆる電話番号です。

 当然、電話番号そのものは今のMVNOのサービスも提供しています。それを提供しなければ、音声通話やSMSもできません。ただし、その提供形態がMNOとは違いいます。MVNOが何万、何十万という番号の払い出しを受け、それを1つ1つユーザーに提供しているのではなく、SIMカードを作る際に、このSIMにはこの番号でという形でMNOに割り当てられています。より正確に言えば、1個1個の単位で(MNOから)借りているものです。

 これが、(制度改正で)一定の条件を満たしたMVNOには、何万という単体で割り当てが行われるようなります。それをMVNOが利用者に提供できる。今までこれができたのはMNO4社だけでしたが、MVNOもその枠組みに入れようというのが、番号制度の改正です。2月22日に電気通信番号計画の告示がされ、今はレディになっています。

MVNO 電話番号割り当て 電話番号は多数あるが、MVNOへの割り当て対象となっているのは070、080、090で始まる番号

―― MVNO委員会としては、いつ頃から実現に向けて動いていたのでしょうか。

篠原氏 21年6月に総務省に意見を求められ、プレゼンをした記憶がありますが、もう少し前から検討をしていたと思うので1年半から2年弱ぐらい前でしょうか。

佐々木氏 プレゼンの直前に諮問があり、その中にMVNOへの電話番号直接割り当てがありました。その議論をする中でのプレゼンです。実際にはMVNO委員会から最初の花火を打ち上げたというより、まず諮問があり、業界としてどういう検討があるのかを考えました。

―― 総務省として、これを進めていきたい意思があったのでしょうか。

佐々木氏 総務省もいろいろな事業者の話を踏まえたということだと思うので、最初のきっかけがどこかは分からないですね。

三宅氏 21年当時も個社で議論はしていたので、番号指定の動向やIMSを作るのはどうかという流れはありました。

篠原伸生三宅義弘 MVNO委員会副委員長のオプテージ篠原伸生氏(写真=左)、MVNO委員会副主査のオプテージ三宅義弘氏(写真=右)

電話番号が割り当てられることの具体的なメリットは?

―― 一方で、利用者目線だと、電話番号が使えるという点は変わりません。ここに何かユーザーメリットはあるのでしょうか。

佐々木氏 うまく説明するのが難しいのですが、IPアドレスに例えると分かりやすいかもしれません。インターネットの接続を提供する際には、必ずIPアドレスがあります。どこかにはグローバルなIPアドレスがないと通信できないので、必ず利用者はそれを使って通信しています。この割り当ての方法は2通りあります。

 1つが、上位プロバイダーから割り当ててもらう方法で、大抵の法人はどこかのISPと契約してIPアドレスを持っています。そこから、さらに1つだけ個人がIPアドレスをもらう形です。回線を使っている間はそれを使うことができますし、他のプロバイダーに移れば失われます。

 それとは別に、自らのIPアドレス空間をより上位の団体に求めることもできます。日本では、JPNICという組織があり、そこに割り当ててもらうことが可能です。複数のプロバイダーを使うときには、JPNICから直接指定を受け、このプロバイダーとこのプロバイダーのどちらでも使えるにしてくださいという割り当ての仕方になります。電話番号も、これと同じです。

 1つのMVNOが1つのネットワークしか使わないというのであれば、明らかに上下関係が成り立つので、上位のMNOから割り当ててもらってくださいということで完結します。MVNOが電話番号をレンジで持っていることに、あまり意味はありません。一方で、1つのSIM、1つの電話番号に2つのネットワークを使えるようにしようとなると、どちらか一方から電話番号を借りてもうまくいかない。この場合の上位機関に相当するのが総務省で、そこからMVNOが直接指定を受け、1つの電話番号をマルチネットワークで使えるようにできます。

 これが利用者にとってどんなメリットがあるのか。一般紙では、MVNOの通話料の引き下げが期待されるという報道もありましたが、このように、電話番号の割り当ては直接料金に関わる話ではありません。これによって、新しい競争が生まれ、それで料金が下がるという意味合いだと思いますが、より自由度の高いサービスを提供する中に、複数のネットワークが使えるSIMカードや、柔軟な料金はあるかもしれない。ただ、料金はどちらかと言うと間接的な効果です。

MVNO 電話番号割り当て MVNO各社やMVNO委員会からは、電話番号割り当てによって実現可能なサービスイメージを発表していた(総務省の「音声伝送携帯電話番号の指定条件緩和について」から引用)

―― 1つのSIMで2回線を使えるのは、冗長性があっていいですね。ちょうどKDDIとソフトバンクが「副回線サービス」の提供を始めましたが、1枚のSIMでというのはMVNOならではだと思います。

佐々木氏 MNOは冗長性を取るためのソリューションとして、まったく違う電話番号で(2つ目のSIMを)ご提供されているように見えます。これはこれで、1つのアプローチです。1つの電話番号でどちらのネットワークも使えるとなると、その電話番号を提供する仕組みが壊れると使えなくなってしまうリスクがあるからです。ただ、それを言えばMVNOは同じようなことは既にやっています。ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリア回線を提供する会社もありますからね。

 一方で、なるべくそれを1つの電話番号で使いたいというニーズはあります。どこかが壊れてネットワークが圏外になってしまったとき、他のネットワークにスイッチして使いたいことを望まれる方もいます。われわれが電話番号の割り当てを受ける形になれば、MNOの冗長化ソリューションとは違った形のものを提供することが可能になります。

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