「MVNOへの電話番号割り当て」で何が変わる? 格安SIMの機能拡張につながるが、課題も(3/3 ページ)

» 2023年04月13日 12時42分 公開
[石野純也ITmedia]
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MVNOが変革する中で「5G SA」が大きなウエートを占める

―― お話をうかがっていると、ここ5年ぐらいで、MVNOの在り方が大きく変わりそうな印象も受けました。

佐々木氏 その中でも、5G SAが大きなウエートを占めていくと思います。MNOと協議をしている中で、5G SAのつなぎ方には、4類型5方式が出てきています。データの話だけを見ても、今のL2接続はなくなってしまいます。今はまだLTEやNSAの5Gも残っていますが、そのうちLTEも停波する日が来ます。今のMVNOで主流の形態は、データがレイヤー2接続で、音声は卸で受けるというものですが、その定義が5G SAにはありません。

 そうなると、1つあるのがレイヤー2接続を諦め、レイヤー3で卸を受けるという形態です。ただ、今のレイヤー3はあまりにも柔軟性がないので、MVNO委員会では1社も検討していません。また、KDDIが発表した「GSMA Open Gateway」のようなAPIに対応する方向もあります。

 今は交換機を持ってデータ通信のプランを作っていますが、そういうものをAPI経由にして、P-GW(Packet Data Network Gatewayの略称で、パケット交換機のこと)の代わりにUPF(User Plane Functionの略称で、5Gコアにおいてユーザーデータの送受信を行う機能)を作り、今のレイヤー2接続の受け皿になる事業形態を開発しなければいけないのかもしれません。

 もしくは、ある程度音声も自前でやるところまで見据えていかなければならないのかもしれない。自らIMSを持つことを視野に入れ、自らのIMSとUPFで、さらに場合によってはMEC(Multi-access Edge Computingの略称で、端末に近い位置に設置するサーバ)サーバなどをデザインしていく重厚長大なMVNO(とライトなMVNO)が分離していく可能性もあります。

 こうした20年代後半にかけての“MVNO激変期”をなるべくスムーズにしつつ、多様な事業に発展させていけるよう、MVNO委員会としても政策提言は出し続けていかなければいけないと考えています。

島上純一 MVNO委員会委員長のIIJ島上純一氏

島上氏 もともと、3Gの流れの中で今のMVNOは出来上がっています。電波の希少性から、少数のMNOしか商売ができなかったところに、どう競争を入れていくか。その観点で、MNOの持っている設備を徐々に開放させていくのが、MVNOの原動力になっていました。それが、5G SAの段階でガラッと変わるところに来ています。

 設備を開放するという観点では、電話番号も1つのファクターです。IIJも、フルMVNOという形でHSSを持ち、SIMを発行してきましたが、電話番号は借りているものでした。(電話番号の割り当ては)その流れの中での正常な進化という言い方もできますし、一方で5G SAによって設備構成がガラッと変わる中でどう仕組みを作るかというときにも、当然電話番号の話が出てきます。

 今は、そういったいろいろなことがちょうど重なっているタイミングです。これが必然なのか偶然なのかは分かりませんが、MVNOというより、モバイル全体の仕組みをどう作るのか。(複数のMNOで設備を共有する)インフラシェアリングもそうですが、フルVMNOはインフラシェアリングそのものでもあります。インフラレイヤーがあり、(サービスレイヤーの事業者は)それを使うVMNOという形でも全然おかしくない。われわれはMVNOという立場で提言していますが、将来のモバイル業界全体をどうしていくのかという話なのだと思います。

取材を終えて:MVNOの枠組みを大きく変える可能性

 電話番号の割り当てとだけ聞くと、地味な話にも聞こえてしまうかもしれないが、実際には、今のMVNOの枠組みを大きく変えうる可能性を秘めていることが分かった。インタビューで語られたように、直接、間接問わなければ、MVNOが実現できるサービスは大きく広がる。5G SAでMNO各社が設備構成を大きく見直すことでとの合わせ技で、MVNOの存在自体が大きく変わることになりそうだ。

 一方で、やはりそのぶんだけMVNOが負担しなければならないコストは大きくなる。技術的な課題をクリアできる会社も、限られてくるかもしれない。佐々木氏が述べていたように、今後、MVNO間の差はさらに広がっていく可能性もある。電話番号の割り当てができるようになった2023年は、その転換点になる1年といえそうだ。

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