ドコモショップでの“あなただけの特別価格”がオンラインショップと同額? NTT株主の疑問から考える

» 2023年06月22日 21時30分 公開
[石井徹ITmedia]

 NTTは6月22日に開催した第38回定時株主総会の中で、興味深い質問があった。ドコモから送られてきたダイレクトメールに記載されていた「“あなた限定の割引価格”が、ドコモオンラインショップの販売価格と同じ価格だった」というものだ。

 以下に株主の質問と、NTTドコモ栗山浩樹副社長による回答を抜粋して掲載する。

――(NTT株主) 3Gケータイからの移行を促すダイレクトメールが送られてくる。中身を見ると、「本DM限定で大特価を用意しました」といった記載がある。裏面には「上記の一括販売価格は裏面で、ドコモショップ限定になる」という記載がある。このDMの端末をオンラインショップで確認すると、DMの特別価格と同じ価格が記載されている。オンラインショップで広く売っているものをこのようなDMで、いかにもあなただけの価格ですよと記載することに、コンプライアンス上の問題はないか。見解をお伺いしたい。

(以下書略)

ドコモ 栗山浩樹副社長 3Gケータイから新しいサービスへのマイグレーション(移行)についての質問と承知しました。

 まず、ドコモがお客さまにご案内、ご提示するさまざまなパンフレットは社内できちっとした審査を行い、関係する諸法令にのっとった審査を行っています。それについてはご信頼いただけましたらと思います。

(以下省略)

NTTの第38回定時株主総会 NTTの第38回定時株主総会の会場の様子(NTT提供)

 この株主の発言内容によると、ドコモから送られてきたダイレクトメールには「本DM限定で大特価を用意しました」などと記載されており、裏面には「上記の一括販売価格はドコモショップ限定となります」という記載があったという。

 このダイレクトメールは3Gの長期契約者に対して、4Gや5Gへの契約変更を促すために、ドコモショップを運営する販売代理店が店舗独自の郵送で送っている、具体的な機種名と割引後の販売価格が記載されていたと推測できる。その割引後の販売価格がドコモオンラインショップでの販売されていた価格と同じだったことから、この株主は疑問を抱いたのだろう。

 この質問のおおもとの疑問といえる、なぜ「あなた限定のキャンペーン価格」がオンラインショップと同じ価格となるのかについて、筆者の見解を述べておこう。ドコモショップ限定の割引後の価格が、ドコモオンラインショップの販売価格と同じだったという現象は実際に発生しうる。そして、恐らくコンプライアンス上の問題とはなり得ない。

 この株主の疑問に答えるには、携帯電話販売の枠組みについて理解する必要がある。

ドコモショップの価格とオンラインショップの価格は本来同一ではない

 ここで、キャリアショップとドコモオンラインショップの位置付けについて確認しておこう。ドコモオンラインショップは、ドコモの直営だ。一方で全国に存在するドコモショップは、全て販売代理店が運営を担当している。

 スマートフォンなどの端末を販売する際には、キャリア(ここではドコモ)が端末をキャリアショップ運営会社(販売代理店)に卸販売している。販売代理店は多くの場合、卸価格に自社の利益を上乗せした価格で販売価格を設定を行っている。筆者が観察した限りでは、多くのドコモショップはドコモオンラインショップよりもやや高い価格で値付けをしていることが多いようだ。

 ドコモ広報は「端末の価格は販売代理店で設定しているものであり、ドコモは関与していない」とコメントしている。

 また、クーポンについては、ダイレクトメールに特定のユーザーを対象としたドコモが発行する割引クーポンを記載して送付することがあり、販売代理店がその割引金額を考慮した金額を「価格」として掲載するケースが存在するという。

ドコモのダイレクトメール ドコモは販促にダイレクトメールを活用している。この画像は2021年にITmedia Mobileの記者宛に届いた「エコノミーMVNO」を案内するダイレクトメール

→関連記事:ドコモから「エコノミーMVNO」へのお誘いが来た件

 これを踏まえると、株主の質問にある「ダイレクトメールの値引き価格がドコモオンラインショップの価格と同じだった」という状況の背景が推測できる。

 ダイレクトメールに記載されている“あなただけの特別価格”とは、ドコモショップすなわち販売代理店が独自に設定した価格を記載したもので、その価格は恐らく同店の販売価格にクーポンを適用した割引価格だったのだろう。それが、オンラインショップでの販売価格と一致したというわけだ。

ドコモショップの価格がオンラインショップよりも高くなりがちな理由

 そもそも、なぜオンラインショップで販売される価格よりも、ドコモショップで販売される価格の方が高いのかという疑問を抱く人もいるだろう。これについては2つの側面から考察できる。

ドコモ ドコモオンラインショップでは割引施策を含めて安価に販売されることが多い

 1つは、販売にかかるコスト構造の違いだ。ドコモオンラインショップは費用を抑えているため低価格に設定されているという点だ。代理店を通さず、人手での対応も省略できることから、低価格な値付けを行っていることが多い。これに対して、ドコモショップ(販売代理店)にはショップスタッフによる手厚いサポートが提供される。その分、販売価格を上乗せしているという説明だ。

 もう1つの側面として、スマートフォンなどの端末を販売する際には、キャリア(ここではドコモ)が端末をキャリアショップ運営会社(販売代理店)に卸販売し、販売代理店は多くの場合、卸価格に自社の利益を上乗せして価格を設定している。

 携帯電話業界特有の慣行として、卸価格が最終販売価格に近い価格に設定されやすいという事情がある。かつては「キャリアが販売代理店に端末を供給する際の卸価格は、販売代理店が最終消費者に販売する際の価格と同じ価格にする」という慣行が存在した。

 一般的には、卸価格は消費者への販売価格よりも安く設定される。販売店は運営コストを上乗せして、価格設定を行う。

 こうした販売環境が成り立つのは、販売代理店には端末本体の売り上げの他に、携帯キャリアが支払う成果報酬型の収入があるからだ。これは、携帯電話の新規契約やオプションサービスの契約など、販売目標の達成状況に応じて携帯電話キャリアから支払われる報酬だ。

 卸価格の慣行については、2021年6月に公正取引委員会が改善を要請している。同年10月にドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は改善を実施したと発表している。このときのドコモの発表では、以下の2点が強調されている。

  • 毎月の割引施策の通知時、端末販売価格を自由に設定できる旨を周知する
  • 販売代理店への卸価格がオンライン直販価格を下回るように価格設定をする

 これは「販売代理店がスマホやケータイを販売する際は、自由に価格設定を行える」という前提を改めて確認したものといえるだろう。

→関連記事:キャリア3社が公取委からの要請に対応 端末購入プログラムや販売代理店の取引などで

3Gからの契約変更なら総務省の“2万円規制”は対象外

 なお、販売価格を巡る規制では、総務省がガイドラインで定める「通信サービスとセット販売する端末の割引」も存在するが、これは3Gからの契約変更では問題とならない。

 これは、特定の通信契約を行うことを条件に過度な値引きを行うことを規制するもので、2019年10月以降は2万2000円までの割引が許容されている。また、3Gサービスからの移行を促すための例外規定もあり、通信方式の変更により端末が使用できなくなるユーザーに対して、端末の代金を「0円未満とならない範囲」で値引きすることが許容されている。

→関連記事:端末単体購入時の価格を分かりやすく表示すべき――総務省が「2万円超の値引き」対策の方向性を示す

オンラインショップ価格が実質的な“標準価格”に?

 このケースでは、3Gからの契約切り替えに対して支払われる販売奨励金を踏まえて値引きを適用した結果、店舗としての利益や販売に関わる人件費などを含めてオンラインショップと競争できる水準に値下げできた、と理解するのが適切ではないだろうか。

 販売代理店は端末の自由に価格を設定できるため、店舗側の裁量で販売価格を高くすることも安くすることもできる。ただし、実際に販売する上では卸価格や店舗運営費用、販売目標などの要素が影響する。ドコモオンラインショップという明確な価格指標があるため、極端に懸け離れた価格設定を行うのも難しいだろう。

 そのため、販売店は独自の販売価格を設定しつつ、クーポンを適用したら値引き後の価格になるという価格設定を行ったのではないだろうか。

 ただし、この株主の質問の背景には、株主が指摘したような“コンプライアンス上の問題”ではなく、別の課題があるのではないか。オンラインショップで表示されている価格が、実質的な“標準価格”として受容されているという課題だ。

 消費者にとってもドコモオンラインショップでの価格は参照しやすく、比較の基準としてよく使われることは想像に難くない。ITmedia Mobileのようなメディアでも、新製品発表時に「ドコモオンラインショップの価格」を記載して紹介することが通例となっている。コスト構造が違う販売代理店の価格設定に間接的な制約を与えてしまい、“販売代理店による自由な価格設定”を実質的に妨げる要因となっていないだろうか。

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