スマホ特価販売の「闇」 転売対策に右往左往する販売店の声元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(1/2 ページ)

» 2022年05月25日 07時00分 公開
[迎悟ITmedia]

 ここ最近、スマートフォンの特価販売が復活してきました。この連載でも、その模様を数回に分けてお伝えしました。

 特価販売の復活に伴い、春商戦では最新の「iPhone 13シリーズ」を始め、人気モデルが「一括1円」「一括9800円」「実質23円」など、大幅な割引が行われました。店舗によっては、割引の総額が税込みで10万円近くになるモデルもあたようです。立て付けは異なるものの、電気通信事業法の改正前に戻ったかのような価格でスマホを買えた格好です。

 5月に入り、春商戦は実質終わりましたが、店舗によっては「連休特価」「月末特価」といった形で同様の割引販売は続いています。そうでない店舗でも、エントリーモデルやミドルレンジモデルを“活用”した値引き販売が積極的に行われています。

 このような値引き販売によって、携帯電話販売店(キャリアショップや併売店)はもちろん、家電量販店の携帯電話コーナーも活気を取り戻しつつあります。販売店のスタッフも大喜び……と思いきや、新たな悩みを抱えてしまったようです。

 今回の「元ベテラン店員が教える『そこんとこ』」では、特価販売の復活の“裏”で生まれた新たな問題について、販売店スタッフに聞いていきます。

ショップの様子 春商戦が終わった後も続く特価販売。しかし、新たな悩みに直面し続けています(この写真にもそのヒントがあります)

忙しさは戻ったけれど……

 最新のiPhoneが一括1円――数年前なら“当たり前”の光景でしたが、2020年1月までに完全施行された現行の電気通信事業法の規制によって、売り場から特価が“消滅”してしまったことは記憶に新しい所です。

 法改正の結果、携帯電話販売店や家電量販店における携帯電話回線や端末の販売ボリュームは激減。ちょうど新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい始めたこともあり、店舗が閉鎖されたり、そこまで行かなくても1店舗当たりの人員削減を進めたり、売り場面積を縮小したりという動きも多く見られました。筆者がかつて働いていた代理店でも、店舗の統廃合をかなり進めたと聞いています。

 そんな中、昨今の端末販売施策は、販売台数の急増につながっているようです。前回の記事でも触れた通り、端末の販売増加は売り場の活気付けに一役買いました。春商戦が落ち着いた後、複数人の販売店スタッフから話を聞いてみた所、こんな声が寄せられました、

 3月末までと比べると、施策の数は減って割引総額は減りました。それでも、まだまだ現役で使える高性能モデルを安く販売できるので、特に週末は法改正以前のようににぎわうようになりました。

 このコメントだけを聞くと、「ショップにお客さんが戻ったのか。良いことなのかな」という感想を持ちます。実際、程度の差はありますが、話を聞いたスタッフが勤める店舗は「売り上げはおおむね好調」のようです。

 しかし、この好調の裏で、スタッフは新たな不安や不満を抱えることになりました。「買い回り」や「転売前提の端末購入」をする「お客さま」の出現です。このような「お客さま」が、店舗スタッフの新たな“頭痛のタネ”になりつつあります。

 スタッフからはこんな声が挙がっています。

 このような割引施策を長らくやっていなかったこともあってか、契約後にすぐ端末を売ってしまいそうな「お客さま」がまた増え始めました。「どこから来たの?」「わざわざ来たの?」と思わず聞いてしまいそうないきおいで……。

 (割引に厳しい制限のかかった)法改正後はしばらく見かけなかったこともあって、ちょっと面食らっています。まあ、またすぐ慣れてしまうんでしょうけども……。

 「プランの説明とかはいい! 分かっているから早く契約を完了させてくれ!」という感じ慌てた感じで契約を進めようとするお客さまが本当に増えました。プランの内容や端末購入に関する注意事項を“本当に”分かっているなら、それでも大丈夫とは思うのですが、万が一契約に当たってトラブルに遭遇した場合、お客さまの責任とされてしまう可能性が高まるので急ぎの契約はお勧めしていないのですが……。

 契約に当たって、重要事項を確認したという証跡として、お客さま自らに書面への「レ点チェック(注意事項を確認したことを示すチェック入れ)」と「本人署名」をしていただいています。なので、店舗側の抱えるリスクは限定的ではあります。それでも「何だかなぁ……」という気分になってしまいます。

 開店前から長蛇の列を作って、詰め寄るように「一括1円のiPhoneをすぐくれ!」みたいな「お客さま」が有意に増えているんですよね……。

 端的にいうと、普通に買い換えるために相談に来た来店客よりも、値引き施策の入った特価機種を“指名”して買っていく「お客さま」がとにかく増えたということです。店舗スタッフの立場からすると、このような「お客さま」への感情は複雑のようです。

 僕らの立場からすると、普通の一般のお客さまであっても、転売前提で買って行く「お客さま」であっても、販売実績としては同じ“1台”です。販売台数が伸びれば、(キャリアから支払われる手数料に影響する)販売成績にはプラスになります。正直にいうと悔しいのですが、販売台数が振るわなかった時期がそこそこ長かったこともあって、転売目的であっても買ってくださって「助かる」面もあります

 ただ、自分で使うことを目的としない端末販売が目立つようになると、法律かガイドラインによって規制が入るのではないかと危惧しています。総務省の会合の議論を見ていても、何らかの規制を入れたいという意図が見え隠れしていますし……。

 そのことを踏まえると、端末だけを購入しようとする「お客さま」が増えるのは手放しで喜べない状況です。

 現状において一番安く購入できるのは、やっぱり「乗り換え(MNP:携帯電話番号ポータビリティ)」です。昔と比べると「(MNPでない)新規は10万円、MNPなら1円」とかいう極端なものではなく、割引額は少なめかもしれませんが新規や機種変更でも適用できる割引も増えました。「新規や機種変更は少し、MNPではそこそこの割引」といった感じでしょうか。

 でも、昔と比べて現在が違う所は、懐を痛めずに乗り換え用の弾(※2)を用意しやすくなったことです。特にMVNOは弾として使いやすい事業者が多いですから、SNSなどを見てみると「MVNOの音声プランを新規契約→大手キャリアへMNPして端末の割引をゲット→端末を売った後に解約」みたいな遷移をする「お客さま」を見かけることもあります。

 これ、総務省でなくても「競争としておかしい」という声が出てきそうですよね……。

(※2)弾(たま):他キャリアへのMNPを行うことを前提に契約する携帯電話回線を表す隠語。特性上、契約解除料や最低契約期間の設定のないキャリアやプランが好まれる

 キャリアが携帯電話販売店を“評価”する仕組みにはいろいろあります。昨今の法令改正に伴い仕組みの見直しが一部で行われてはいますが、端末の販売台数が有力な指標の1つであることに変わりはありません。売れ方はさておき販売台数が増えるとありがたい――これは多くの販売スタッフの“本音”です。

 ただ、現行の法令における値引きの制限は、同じ端末を使い続けている人の買い換え(機種変更)よりも、利用目的のない契約を使っている人の乗り換え(≒弾を使って端末を安く買って、その後すぐ解約する人)が“優遇”されている状況を是正することが目的の1つ。組み立てが違うとはいえ、最近の割引にも「使わないユーザー」が群がってしまっています。ゆえにこの値引き手法は長く続けられないと思われます。

 とはいえ、端末の値引き販売は、店舗の活気を生んでいることも事実です。これが封じられてしまうと、少し前までの「冬の時代」に逆戻りするでしょう。もっといえば、「販売店」の在り方(売り上げや利益を得るための構造)を抜本的に見直さざるを得なくなります。

 あるスタッフの言葉を借りると「売れるのはうれしいけど、(これで規制強化されてしまう可能性もあるので)うれしくない」というのが、現在の状況のようです。

店舗イメージ 新型コロナウイルス感染症の影響で、来客がほとんどなくなったショップもありました。集客アイテムとしての「値引き」は、今やなくてはならないものになっています(写真はイメージです)
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