大半が7GBで収まるのに、HISモバイルが“20GBプラン”を刷新した理由 知名度獲得への秘策もMVNOに聞く(3/3 ページ)

» 2023年07月18日 10時52分 公開
[石野純也ITmedia]
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コロナの渡航制限が緩和されたことでTrip SIMを導入

―― 話は変わってもう1つのTrip SIMですが、このタイミングで導入したのはコロナ明けを狙って準備していたのでしょうか。

猪腰氏 今回は、ワンストップ・イノベーションにプラットフォームとして入ってもらいましたが、eSIM自体はいろいろな業者と話をしていました。海外のSIMベンダーとも直で話をしています。今回発表に至ったのは、コロナ(による渡航制限など)が終わったからですが、このタイミングで出さないと乗り遅れると思い、突貫で作りました。本当は自分たちで全部作ろうと思っていたものを、方針転換し、スピードを取りました。ただ、今も直接弊社が仕入れたもの(eSIMのプロファイル)を、プラットフォーム側に接続できる仕様になっています。

HISモバイル 120カ国以上で利用できる「Trip SIM」も提供する

―― 料金がさまざまなのも、そういった仕様だからでしょうか。

猪腰氏 いろいろな仕入れ業者をまたがっているためです。同じ欧州の事業者でも、安いところを見つけるといったようなことをしています。何十ものキャリアとやっているような状態で、今も開拓は続けています。

―― HISモバイルで海外というと、「変なSIM」を思い出します。開業当初のHISモバイルは、国内向けMVNOというより、むしろそちらのイメージが強かったですよね。あれを継続する考えはなかったのでしょうか。

猪腰氏 それは考えていませんでした。変なSIMをやめたのは1年ぐらい前ですが、そのときはコロナの出口がまったく見えなかった。決算前でちょうど損切しやすいタイミングだったということもありますが、見込みが分からなかったのが本音です。また、貼るSIMが、eSIMの登場によって優位性が薄れていたこともあります。そうなると、変なSIMにこだわる必要はどこにもない。アプリも全て捨て、できたら考えるということでeSIMに向けて動いていました。

―― やはり海外SIMがあるのは、HISっぽいですね。

猪腰氏 はい。どこに行っても、やはり海外旅行ですよねと言われます。期待されていた雰囲気なのに、ないのはやはり寂しい。本当はローミングできるのが理想ですが、そんな世界がいつ来るのかも分からなかったので、まずは“ありもの”でやることにしました。

海外SIMのターゲットは狭いが頻度が高い

―― 今、日本通信がドコモに申し入れをしている音声接続ができれば、ローミングも不可能ではなくなります。

猪腰氏 できそうな雰囲気にはなっていますね。ただ、ローミング契約を1つ1つ結んでいくと、どうしても「パケ死」のわなが残ってしまいます。これはなかなか回避ができない。説明しようとしても、皆さん耳をふさいで聞いてくれない。勉強してまで使いたくないという方が圧倒的に多いからです。

 ただ、面白いことに、弊社は旅行会社なので海外に行く者も多いのですが、みんなWi-Fiルーターを借りています。現地SIMを買うと言っているのは、海外支店に赴任していて、かつデジタルものに詳しく、さらに手間暇を惜しまない人だけです。肌感覚ですが、2、3%ぐらいでしょうか。自分のスマホでローミングするかというと、経費精算ができないので使わない。企業にはそういう制約もあるため、うちもWi-Fiルーターを買いやすいよう、整備しています。HIS本体の役員に説明するのもめちゃくちゃ大変なので(笑)。

―― となると、なかなかターゲット層は狭そうですね。

猪腰氏 ただし、その2、3%の人は頻度が高い。何度も使ってくれるので、意外と売り上げげは作れます。あとは、フリーランスの方ですね。変なSIMのときにも、いろいろなところで使っていただけました。もしかすると、そういう方は旅行会社には来ないのかもしれない。ただ、買わないけどHISのサイトはのぞいているという方もいて、そういう方とは接点もあるので、他の会社よりやる価値はあると思っています。

―― TripSIMの販売には、国内のHISも活用するのでしょうか。

猪腰氏 売れそうであれば、おそらく売ることになります。今はWi-Fiルーターもやっているので、物理的にどうするかはありますが、チラシをまいてもらうなど、やり方はあると思います。お店に物理SIMをつるして売るとなると難しいですが、今は旅行代理店の働き方も変わり、完全予約制になっています。いきなり来た人に売るというのではなく、コンサルタントのようになっています。ですから、そこで売るとしたら、TripSIMをご案内して、自分たちで買ってもらうという流れになると思います。

―― HISのツアーのパッケージに組み込んで、直前にeSIMプロファイルが送られてきたら面白いなと思いましたが、そういったことはお考えでしょうか。

猪腰氏 そこはWi-Fiルーターのユーザーが多く、カニバって(食い合って)しまいます。どちらかというと、つけるのはWi-Fiルーターで、実際にハワイのツアーなどでは弊社のものがついていたりします。そこに無理に攻め込んでいくようなことはしません。今、展開として考えているのは、海外支店で売ることですね。現地で困っても、eSIMなら遠隔で書き込めるので、海外でも販売ができます。

―― なるほど。Wi-Fiルーターは根強いですね。

猪腰氏 あれのいいところは、無制限で使えることです。各国無制限になるSIMがあるかというと、ない方が多い。現地SIMだと1日何GBという制限があることの方が多いですし、キャリアのローミングは日本分の容量を使い続けてしまいます。海外渡航時は、グループで1台契約するといった形になりますが、ローミングで家族まで自分のスマホにテザリングさせるかというと、それはしません。そういった利用シーンを聞いても、Wi-FiルーターにはWi-Fiルーターの強みがあると思っています。

 コロナ禍があったからだと追いますが、Wi-Fiレンタル率も3割程度だったのが、今は7割、8割以上が借りていきます。通信ができないと出入国をするのも難しいということで、(コロナによって)旅行の形態が変わったんだと思います。5月にコロナが5類になって元に戻るかと思いきや、そうでもない。通信が止まるのは何かと面倒という意識になっているのかもしれません。

―― お話をうかがっていると、オンラインでツアーを予約する際に、オプションでeSIMのボタンを押すと購入できるような体験があってもいいかなと思いました。

猪腰氏 最後にeSIMのボタンを付けて、ポチっと押せば契約できるようなことはできるかもしれないですね。Webとどう絡めていくかですが、一方で、航空券やホテルとは購入するタイミングも違うという問題があります。

―― 確かに、SIMのことを考えるのは直前ですね。

猪腰氏 はい。SIMは間際になるので、どちらかというとオプショナルツアーに近いのかもしれません。置いておいたら買うかというと、予約時にはそこまで考えが至らない人もいるでしょう。今後、実験的に調査をしていきたいと思います。

取材を終えて:他社のオンラインブランドからいかにユーザーを獲得できるか

 290円からという格安料金を打ち出したHISモバイルだが、ユーザーが低容量プランに集中しすぎていたのが課題だった。かかるコストは少なく、帯域も安定する一方で、290円ではなかなか売り上げも上がらない。日本通信が原価ベースで調達してきた音声通話を武器に、20GBプランを強化することで、こうした状態からの脱却を狙う。オンライン専用プラン/ブランドを検討しているユーザーを、いかに引き付けるかが今後の伸びを左右しそうだ。

 海外渡航者数が急増する中、タイムリーにTripSIMを投入できたのは同社ならでは。HISモバイルといえば、やはり旅行のイメージが強く、同社ならではの差別化にもなる。現場では依然としてレンタルWi-Fiルーターのシェアが高いようだが、自らのスマートフォンで直接通信できるメリットが十分伝わっていない可能性もある。こうした知識の周知がしやすい立ち位置のMVNOなだけに、積極的な販売に期待したい。

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