楽天モバイルは6月より、個人向け料金プランの名称とサービス内容を「Rakuten最強プラン」へと切り替えた。
従来プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」との大きな違いは、パートナー回線と呼ぶKDDIのローミングエリアでの通信量が使い放題になった点だ。これにより、楽天モバイルの自社エリアが届きにくい建物屋内や地域、郊外エリアでも、両社の協議で決まるパートナー回線エリア内なら高速通信は最大5GBまでという制限を気にせずにすむようになった。
また、サービス内容の変更により、楽天モバイルは自社エリアとKDDIのパートナー回線エリアを合わせたエリアマップを公開し、「人口カバー率99.9%の通信エリアにおける高速データ通信を制限なく利用できる」と案内している。
だが、こう説明されると、人によってはRakuten最強プランなら「月額1078〜3278円(税込み、以下同)で、KDDI(auやUQ mobile)と同じ全国エリアと5Gや4Gの高速通信を無制限に使える」と勘違いするかもしれない。
実はKDDIのサイトでも楽天モバイルへのローミング提供内容を公開しており、利用できるのは基本800MHz帯のみと記載している。このため、パートナー回線エリアの対象地域ではauやUQ mobileに近い広めのエリアを利用できるが、通信速度は複数の周波数帯域を用いた5Gや4Gの最大4.9Gbpsといった超高速通信は利用できない。また、KDDIのパートナー回線を利用できるのは両社の協議で決定した郊外や市街地、地下街などで、全ての場所でKDDIのauやUQ mobileと同じエリアを利用できるわけではない。
とはいえ、近年の楽天モバイルはエリアや設備を増強しており、KDDIのパートナー回線も含めると全国でおおむね快適に利用しやすくなったのも確かだ。サービス開始当初の屋外でも接続が不安定だった状況とは全く異なる印象になっている。
そこで、Rakuten最強プランについて都心部・市街地・郊外で速度テストや実際の使い勝手について調べてみた。KDDIのパートナー回線エリアの効果にも注目しつつ紹介していこう。
まず、なぜ楽天モバイルのエリアは自社エリアと、パートナーエリアと呼ぶKDDIのローミングエリアの組み合わせなのかを軽くおさらいしよう。
楽天モバイルは2020年4月(先行サービスは2019年10月)にMNOサービスを開始したが、ゼロから自社エリアを構築すると大手3社(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)並みの広くきめ細かなエリアを実現するには相当な年数と設備投資が必要になる。このため、楽天の自社エリアに加えて、提携したKDDIのエリアにも有償ローミングで接続できる形でサービスを開始した。
その後、楽天モバイルは自社エリアを予定より前倒しで拡大し、2023年5月には全国人口カバー率98.8%を実現している。また、カバー率が70%を超えた地域では原則ローミングを終了し、ローミング費用の削減を進めている。
だが、ここまでエリアを広げてもKDDIとのローミングを完全に終了はできない。まず、人口カバー率98.8%といっても、総務省の「全国を500m四方に区切り、そのうち50%以上をカバーしたエリアを100%と見なす」という基準(メッシュ方式)によるものだ。つまり、人の住んでいる地域の屋外をある程度カバーしているという意味でしかない。
実際のエリア面積はというと、2022年3月末のデータだが総務省の「令和4年度携帯電話及び全国BWAにかかる電波の利用状況調査」で確認できる。大手3社はおおむね日本の国土面積の60%前後をカバーしているが、楽天モバイルは32.47%にすぎない。街中は楽天モバイルにつながるが、車で郊外に出掛けるとKDDIのパートナー回線エリア頼りなのが現状だ。
今後、楽天モバイルがKDDIとのローミングを終了するには、多額の設備投資と数年単位の時間でこの差をある程度埋めなければならない。また、楽天モバイルは2023年秋頃に都市部の建物屋内や郊外のエリア化に適したプラチナバンド700MHz帯が割り当てられる可能性が高いが、それにも費用と時間がかかる。
楽天モバイルが出資し期待を寄せる衛星通信の「ASTスペースモバイル」もあるが、こちらは実験段階でサービス提供時期が明確ではない。郊外の開けた場所など衛星を見通せる場所で限られた速度の通信をスマホに提供するもので、山岳地帯や離島、災害時での利用が想定されている。一般の利用者の満足度を高めるには、大手3社のエリアと同等程度までは、高速かつつながりやすい地上のエリア整備が必要になる。
そこで、Rakuten最強プラン発表の少し前となる2023年4月に、楽天モバイルとKDDIは新ローミング協定を結んでいる。これはローミング期間を2026年9月まで延長し、従来必要に応じてローミングエリアを利用している全国各地のエリアに加えて、東京都23区・名古屋市・大阪市を含む都市部の一部繁華街を含むエリアでもローミングを提供するというものだ。
楽天モバイルは人口居住地を中心とした自社エリアの拡大とともに地域ごとのローミング終了を進めることで、KDDIへのローミング費用を大幅に抑えることに成功した。だが、今後の都市部屋内や、広い郊外の自社エリア化には多額の設備投資と時間が必要だ。このため、ローミング費用をある程度抑えつつも、KDDIのローミングもうまく活用して効率的にエリア整備を進めたいという判断を行ったといえる。
また、楽天グループにとっては楽天モバイルがエリア整備などにこれまで費やした1兆円ほどの設備投資額が重い負担となっており、当面は設備投資を大幅に抑えてでも楽天モバイルの黒字化を優先したいという背景もある。
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