ここからは、5G基地局整備の進め方に大きな違いが見られたドコモ、KDDI、ソフトバンクの動きをデータから見ていこう。
5Gは2019年4月に総務省が各キャリアの整備計画を審査した上で周波数を割り当て、2020年3月ごろに各社ともサービスを開始した。2019年の時点では総務省も各キャリアも、その後に起きるコロナ禍やインターネット需要の急激な増加などは知るよしもない。
この2019年の時点では、5GのSub-6やミリ波は高い周波数帯で広いエリアのカバーには向いていないことも含めて、当面は既存の4Gの延長線上で整備する新周波数帯という位置付けだった。総務省も審査では人口カバー率を重要視せず、地方創生といった観点から全国を500mメッシュで区切った範囲に1局ずつ区切ったエリアに10Gbpsのバックボーン回線を持った親基地局を展開する割合「基盤展開率」を重視して審査を実施している。
結果、2019年時点の5年後の開設計画ではNTTドコモとKDDIが基盤展開率90%以上の満額回答。設備投資ではドコモ、屋外の5G基地局数ではKDDIが最大だ(いずれも総務省に提出した計画値であり、後に各社とも事業説明などでこれ以上の数値へと変更している)。
一方のソフトバンクと楽天モバイルは基盤展開率60%前後だが、人口カバー率にすると90%前後の面積に設置することになる。基盤展開率が少ないことからSub-6帯の割り当ては2枠200MHzではなく1枠100MHz帯になるが、投資効率を考えると後者の方が堅実な選択ともいえる。
各キャリアの5G整備には、キャリア間の競争も絡んでくる。特に、当初の総務省が重要視していないとしても、5G人口カバー率の拡大はキャリアの先進性を示す意味で重要だ。また、将来的に全国4Gエリアを全国5Gエリアに置き換えることを考えると、3Gから4Gへの移行時と同様にプラチナバンドの5G転用は既定路線といえる。
また、通信需要の多い都市部の整備でも、高速な5G Sub-6帯は衛星通信との干渉対策が必要という制限がある。このため、制限の少ない転用5Gも併用すれば早期に穴の少ない5Gエリアを整備しやすくなるというメリットがある。
一方で、転用5Gはエリアを広げやすい反面、周波数幅がSub-6帯だと基本100MHz幅なのに対し、4Gの周波数帯は個別だと40MHz幅など狭く、通信容量や速度の面では不利だ。だが、利用者の少ないエリアではそこまで欠点にならず、人の多いエリアでも今後5G向け周波数帯を含めた複数の周波数帯を束ねれば問題にならない。
そこで、2019年の段階から4G周波数の転用について総務省でも検討が進み、早い段階でKDDIとソフトバンクは5G転用によるエリア拡大を開始している。
筆者がスピードテストなどと並行して調べた限り、KDDIとソフトバンクともに都市部では5G Sub-6とSub-6に近い3.5/3.4GHz帯を組み合わせて密に整備し、住宅地や地方エリアには1.7GHz帯やプラチナバンド700MHz帯でエリアの広さを重視した整備を実施している印象だ。転用5Gが “なんちゃって5G”と言われることもある(※)が、特にKDDIは3Gから4Gへの移行時も率先して実施してきたことで驚く部分はない。
実際の5G転用の効果として、筆者が8月末に実施した山手線+α沿線のライブ動画再生による移動中の接続テストを掲載する。同一のiPhoneを4台同時に用意できていないことと、経路間の5G接続の確認はiPhoneのピクト表示がもとなので、利用するスマートフォンの機種によっては表示や接続の違いにより異なる結果が出ることはご理解いただきたい。
もともとは、5G基地局のエリア端で通信が停止してスマホの通信機能を一度オフにしないと復旧できないパターンのパケ詰まりを検証する目的のテストだった。だが、このパターンの深刻なパケ詰まりは起こらなかった。それよりも、都心沿線の5Gエリアの広さでKDDIとソフトバンクの優位性を示す結果となっている。この2キャリアは通勤の混雑時でも、5Gスマホなら比較的快適に通信できる可能性がある。
次に、各キャリア個別の5G基地局整備方針についても見ていこう。
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