eSIM対応端末の増加に伴い、国内外の事業者が海外渡航時用のサービスに参入している。NTT西日本の子会社であるNTTメディアサプライも、そんな会社の1つだ。同社は、4月に海外旅行用eSIMサービスの「Lesimo(ルシモ)」をスタート。キャンペーン期間を経て、8月には料金の値下げも行った。9月にはANA傘下のLCC(ロー・コスト・キャリア)であるPeachと提携し、同社のサイトからの申し込みが可能になった。10月にはANAマイレージクラブと提携し、ANAカードでの購入で100円ごとに1マイルが付与されるサービスを導入している。
NTTメディアサプライは、集合住宅向けのブロードバンドサービス「DoCANVAS」や、クラウドSIMを活用した法人向けサービスの「DoRACOON」を提供している事業者。同社にとって、個人向けのeSIMサービスは畑違いのようにも見える。NTTグループにはご存じのようにドコモもあり、国際ローミングサービスを提供しているが、海外向けeSIMはこことも競合する恐れがある。では、なぜNTTメディアサプライはあえて海外向けeSIMサービスの提供に踏み切ったのか。
同社でプロジェクトリーダーとしてサービスの検討から立ち上げ、運用までを担当したイノベーション開発部 課長の茅原郷毅氏と、Lesimoの責任者を務めるイノベーション開発部 部長の新宅亮子氏に、その経緯や狙いをうかがった。
―― なぜLesimoを始めようと思ったのでしょうか。その経緯を教えてください。
新宅氏 当社は法人向けのMVNOの事業も手掛けています。持っているアセットをうまく活用し、次なるサービスを生み育てていく中、「eSIMは次に来るのではないか」というところから検討が始まりました。私が着任したのは昨年(22年)7月で、ようやく1年たったところですが、検討自体は着任の半年ぐらい前から始まっていました。着任時は、ちょうど開発に着手しようとしていたところです。このプロジェクトについては、リーダーの茅原が立ち上げ、今も精力的に注力しています。
茅原氏 クラウドSIMという通信のアセットをどう活用するかが、着想のきっかけです。SIMの調達やクラウドSIMの発展など、さまざまな要素が考えられましたが、SIMがどう変わるかに着目しました。世界的に見ると、eSIM対応端末がどんどん出ている状況です。そこに手を出すことで、B2Bから(事業の)裾野を広げられるのではないかということで、eSIMに着目しました。
―― 一方で、御社の主要な事業はほとんどがB2Bです。なぜコンシューマー向けにしようと考えたのでしょうか。
茅原氏 (eSIMの)B2Bだと、保守運用をどこまでできるのかが課題としてありました。また、ユーザーのボリュームゾーンや端末の増加率はやはりスマホが多い。そのトレンド中では、コンシューマー向けに事業のポジションを取った方がいいのではないかと考えました。これは挑戦でしたが、初のB2Cとして事業を展開する方向にかじを切りました。
―― 初めてということで、かなり大変なことも多かったのではないでしょうか。
新宅氏 これは語ると、どんどん出てきます(笑)。NTT西日本グループの中にはB2Cで成功しているNTTソルマーレのコミックサービスがありますが、(NTTメディアサプライとして)これまでやったことがないB2Cの事業を本当にやれるのかという考えはありました。ただ、スマホの普及率が上がり、eSIM対応率も26年にはほぼ100%になるという予測がある中、次のチャレンジとしてやってみようということでかじを切ることにしています。
(サービス開始当初の)4月、5月は、トライアルという形で、思い切って無料のお試しをやることにしました。あのときは大きなプロモーションをしていたわけではないのですが、驚いたことにあるYouTuberの方が「NTTグループからeSIMサービスが出た」と配信してくださり、その反響でドンと会員登録があり、実際に契約もしていただけました。初のB2Cサービスとしてどんなトラブルが出てくるのか、本当に皆さんが使ってくれるのかという心配はありましたが、関心の高さに手応えを感じた2カ月でした。とはいえ、思って以上に、設定やアクティベートにつまずかれる方が多かったですね。
茅原氏 認知度のところで、ユーザーに届ける難しさはありました。実装面では他キャリアから回線を調達しているため、ノンQRでアクティベートするといったスマートな機能が実現できていません。利用者の方に、そのハードルをどう乗り越えてもらうかが、今直面している課題です。
―― 実は、自分も5月に申し込んで、アクティベートに失敗してしまいました。特に手順を間違えたわけではないのですが……。ただ、そのときはサポートに連絡したら、比較的スムーズに再発行をしてもらえました。こういった部分は重視しているのでしょうか。
新宅氏 当初は、デジタルネイティブが増えてくるのでWebだけで完結できるように寄せていこうという議論がありました。ただ、直前に「本当にそれでいいのか」と進言する者がいたので、熟考を重ねてサポートセンターを作ることにして、トライアルに間に合わせました。NTTブランドであることの強みとして、安心感や信頼性があります。
実際にやってみて思いましたが、本当にサポートセンターは開けておいてよかった。トライアル中は、例外的にオペレーターからフォローの電話をすることもありました。基本的にはメールのやりとりですが、お客さまがどんなところでつまずき、どんなお困りごとがあるのかをしっかり伺う上で、サポートセンターは欠かせなかったと思います。
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