とはいえ、GoogleにはGoogleドライブやGoogleフォトといったクラウドサービスがあり、Androidスマホにはこれらのアプリも標準で搭載されている。現状のクイック共有のように、一時的にファイルをクラウドにアップロードするような仕様は、容易に付け加えることができそうだ。実際、Googleフォトでは、ニアバイシェアと並んで「リンクを作成」というメニューが表示され、こちらをタップすると該当する写真をダウンロードできるURLが生成される。クイック共有と銘打つのであれば、ぜひ機能面でも足並みをそろえてほしい。
Googleがニアバイシェアを捨て、サムスン電子のクイック共有に相乗りする背景には、Apple対抗という意味合いがありそうだ。2020年に登場したニアバイシェアだが、残念ながらAirDropほどの知名度にはなっていない。定量的な調査がないため比較が難しいものの、AirDropはiPhoneを初期のころから使っていたベテランから、ティーンエージャーまで誰もが知る機能なのに対し、ニアバイシェアはガジェットに詳しい人なら聞いたことがあるといったレベルだろう。
日本では、Galaxyのクイック共有もメジャーな機能とまではいえないが、サムスン電子は世界シェア1位のスマホメーカーなだけに、世界市場での存在感は大きい。メーカー別での規模は、Appleをも上回る。海外市場では日本のユーザーが想像している以上に、サムスン電子のブランド力は高い。Googleがここに乗っかるのは、合理的な判断といえる。プラットフォームの分断を防ぐこともできる。対するサムスンにとっては、自社のサービスがデファクトスタンダードになるのがメリットだ。
仮にクラウド経由での共有機能までニアバイシェアが引き継げれば、Appleのデバイスにもファイルを簡単に送信できることになり、インパクトは大きい。ただし、この場合でも、AirDropからクイック共有へのファイル送信はできず、AndroidからiPhoneへの一方通行だ。iPhoneに写真や動画を送れても、その逆はできないというわけだ。実際にどこまで起こっているかは定かではないが、iPhoneのシェアが突出して高い日本では、AirDropが使えないことが、仲間外れやいじめのきっかけになることも問題視されている。
これは筆者の予想だが、Googleの次のアクションとして、Appleにクイック共有とAirDropの相互乗り入れを促していく可能性もある。実際、同社はAppleのiMessageが業界標準のRCS(Rich Communication Services)に対応していないことをたびたび批判。これを受けてか、Appleも2024年後半からRCSに対応することを表明した。また、GoogleはAndroidのeSIM転送機能もGMSA標準をサポートしており、iPhoneに独自実装したAppleをけん制している。
AirDropとクイック共有は、どちらもプラットフォーマーやメーカーが独自に開発した機能。Wi-Fiダイレクトのような業界団体が定めた標準規格ではないため、RCSやeSIM転送とはやや性格が異なる。一方で、Googleがニアバイシェアをクイック共有に刷新したあと、Appleからの歩み寄りを引き出す批判的なキャンペーンを展開しても不思議ではない。Googleのクイック共有採用は、巨大プラットフォーマー同士の新たな火種になりそうな気がしている。
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