アップルは2024年1月25日、欧州27カ国でAppStoreの運用を3月から変更すると明らかにした。AppStore以外からのアプリ配信を認めるとともに、アプリ開発者は外部決済も選べるようにする。
この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2024年1月27日に配信されたものです。メールマガジン購読(税込み月額550円)の申し込みはこちらから。
一般メディアでは「アップルの囲い込み戦略が上手くいかなくなる」という論調だったりするが、案外、アップルへの影響は少ないのではないかという気がしている。
今回、アップルは配信に関しての手数料を30%(一部は15%)から10%もしくは17%に引き下げている。アプリ配信者とすれば、わざわざ他のアプリ配信プラットフォームを選ぶなんて面倒くさいことをするよりも、すべてアップルにお任せするほうが手っ取り早かったりするはずだ。
実際、他のアプリ配信プラットフォームでアプリを配布するとなると、決済手段を自分で用意したり、返金手続きやサポートなどを、世界中の言語で対応せざるを得なくなってくる。こんな面倒なことをするぐらいなら、いままで通り、手数料が値下げされたAppStoreで充分だという気になってくるはずだ。
そもそも、自分たちでそうしたサポート体制を整えられるゲーム制作会社であれば、今回の話は追い風だろうが、それ以外のアプリ開発者は、アップルの配信プラットフォームで何ら不満を感じていないものなのだ。
確かに、この手数料の引き下げに応じさせたという点において、EUのデジタル市場法(DMA)は成功だったのかも知れない。ただ、それとは引き換えに、ユーザーのセキュリティやプライバシー保護が犠牲になるというのは納得がいかなかったりもする。
今回の動きを受けて、日本の内閣官房デジタル市場競争本部事務局も腕まくりをしていることだろう。
急いで日本でも法整備を進めるつもりだろうが、個人的には欧州での影響を見定めてから日本でどうするかを判断しても遅くはないと思っている。
やはり、新しいアプリ配信プラットフォームが出てくることで、「怪しいアプリ」が流通する可能性は一気に高まる。「無料で最新ヒット曲が聴き放題」とか「無料でマンガ見放題」といった違法コンテンツアプリが若者を中心に広まり、個人情報が抜かれるなんてことは十分に考えられるだろう。
隣接国が日本市場に向けてアプリ配信プラットフォームを提供し、ごっそりと個人情報が抜かれた時には、内閣官房デジタル市場競争本部事務局は責任を取ってくれるのか。そもそも、内閣官房デジタル市場競争本部事務局はそうしたリスクを考えて「サイドローディングに応じよ」と言っているのか。
欧州で3月以降、本当に安全で安心なプラットフォームが維持されていくのか。その推移を見守ってから日本は動き出せばいい。
結局、総務省の割引規制同様に、法律を作ったとしても、あっと言う間に「形骸化」し「失敗」の烙印を押されかねない。欧州が失敗するのを待ってから、「日本ではやらない」という選択をしたほうが、お役所の保身につながるのではないだろうか。
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