2019年から2023年はいくつもの大きな動きが起こる。
2019年、ドコモが値ごろ感のある新プラン「ギガホ」「ギガライト」を発表。楽天モバイルがプレサービスとして「無料サポータープログラム」を開始した。特に大きかったのが、電気通信事業法の改正で分離プランが義務化され、解約金も事実上撤廃になったこと。細かいところではXiaomiが日本に正式に参入したのもこの年だ。
井原氏は、通信と端末が分離されたことで、MNOの代理店でもあるイオンは「キャリアの端末(とイオンモバイルのSIM)を一緒に売れることに期待した」という。一方で、既にMNPの踏み台にされることが非常に多く、割引の2万円上限についても期待したが、いったんは収まったものの「1年後はよりひどく」なってしまった。
石川氏は、「海外と比べて確かに日本は4割高いかもしれないが、海外のネットワーク品質は低い。日本は高いネットワーク品質のまま4割値下げするのか」といった内容の記事をよく書いていたという。「大丈夫かと心配していたら、一部のキャリアは品質まで下がった」と指摘した。
2020年は5Gがスタートし、楽天モバイルがMMOとしてサービスを開始する。KDDIがUQ mobileを統合し、2020年後半は政府の料金の値下げ圧力が高まった。当時の武田総務大臣が、サブブランドが値下げを行っても「羊頭狗肉」と批判したり、メインブランドからサブブランドへの移行がしにくいと指摘したりするなど、ユーザーにとってプラス面もあったが、キャリアにとっては政府からの強い圧力だった。その流れを受ける形でドコモがahamoを12月に発表。ユーザーの注目度も非常に高かった。
長山氏は当時既に独立してOCN モバイル ONEからは離れていたが、「MVNO視点で見たとき、ahamoよりもUQ mobileとY!mobileの値下げが衝撃的だった」と当時の危機感を語った。
「すみ分けができているサブブランドまで値下げする必要はないと私自身、発信していた。ところが、今までMVNOが頑張って作ってきた独自性を縮めるかのごとく、サブブランドの料金が下がってしまった」(長山氏)
UQ mobileとY!mobileが全国のキャリアショップで販売されるようになったことも脅威に感じたという。
2021年には、KDDIとソフトバンクもahamoに歩調を合わせるかのごとく、povoとLINEMOを発表。 MNOが3ブランド体制になった。楽天モバイルは料金を改定し、1GBまで0円の「Rakuten UN-LIMIT VI」でユーザーを呼び込んだ。MNOの料金値下げでMVNOには厳しい状況となり成長にブレーキがかかったが、その一方で接続料の大幅な値下げがあったことで、IIJmioやmineoをはじめMVNOもさらに安価な新プランを発表した。
井原氏によると、この年、イオンモバイルは契約者数が純減したという。ただ、「接続料の改定で純減しながらも利益的には少し上がった。投資もできるようになり、結果的にはすごくよかった」と振り返る。
2022年は楽天モバイルが5月に0円廃止を発表し、大きな波紋を呼んだ。その影響で楽天ユーザーが流出し、MVNOにとって追い風になった部分もあった。7月はKDDIが大規模通信障害を起こし、それに端を発した非常時における事業者間ローミングの議論が進む。サブ回線としてのMVNO利用も注目された。
ただし、西田氏は「サブ回線の導入に至った人は必ずしも多くない」と指摘。また、サブ回線を選ぶ際に、今使っているキャリアとは異なるネットワークを使っているMVNOを選ぶ高い知見が必要なことを問題視する。一般ユーザーは「実際には0円プランを持っているサブブランドを選ぶ人が多かったのでは」と見る一方で、IoT向けでは1つのネットワークがダウンしたら、別のネットワークに切り替える包括型サービスを選ぶ企業が出てきており、「産業活動の面で大きい」と語った。
2023年は、ドコモがNTTレゾナントを吸収合併。OCNモバイル ONEが新規受付を停止した代わりに「irumo」が誕生した。楽天モバイルは、KDDIローミングのエリアでも高速通信が無制限で使える「Rakuten最強プラン」を発表した。MNPワンストップ方式が始まり、12月27日に事業法のガイドラインが改正。端末値引きの上限が最大4万4000円までに緩和される一方、いわゆる「白ロム割」が規制対象に追加された。また、指定対象事業者の見直しも行われ、それまで対象だったIIJとオプテージが規制対象から外れた。
OCNモバイル ONEの新規受付停止について、長山氏は「すごく寂しかった。irumoのスペックを見て、もうOCNの面影はないと感じた」と振り返った。
「中身を見ると、OCN モバイル ONEのことを考えたわけではないのは明らか。あくまでもドコモの本ブランドからUQ mobile、Y!mobileへの流出を止めたいがために、対抗する料金プランを前々から考えていて、そのタイミングがたまたまNTTコミュニケーションズの子会社化と重なったとしか見えない。OCN モバイル ONEから移行するというよりは、ドコモで料金が高かった人がirumoに変えている印象が強い」(長山氏)
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