料金の安さで支持を集めるMVNOだが、ほとんどの会社がデータ通信の海外ローミングを提供できていないことが弱点の1つだった。渡航時に自身のスマホを使うには、現地のプリペイドSIMを購入したり、空港などで海外用のWi-Fiルーターをレンタルしたりする必要がある。こうした状況の中、J:COM MOBILEを提供するJCOMはトラベル用eSIMサービスを提供するAiralo(エアロ)と提携。同社の回線を利用するユーザーに向け、10%の割引価格でAiraloのサービスを提供している。
Airaloは、シンガポールに拠点を構えるeSIM専業の通信事業者。世界200の国や地域を対象にしたeSIMを提供している。アプリから簡単にサービスを申し込むことができ、使い勝手もシンプルなのが特徴だ。例えば、米国であれば1GB/7日間のデータプランを4.5ドル(約711円、1月8日時点のレートで換算)で提供している。24時間あたり約1000円の料金がかかる大手キャリアの国際ローミングと比べ、割安といえそうだ。
こうした海外用のサービスを自社のユーザーにきちんと提供しているMVNOは、思いのほか少ない。一方で、海外で通信するための手段や、トラベル用eSIMサービスを提供する事業者は他にもある。J:COMは、なぜAiraloとの提携を決めたのか。JCOMでMVNO事業を担当する商品企画本部 モバイル事業部 部長の山部裕司氏と、副部長を務める田中勇基氏に、その理由を聞いた。日本でAiraloのパートナー開拓を行うHead of Partnerships(Japan)の西林祥平氏もインタビューに答えた。
―― まず、AiraloのeSIMをJ:COM MOBILEのユーザーに提供することになった理由を教えてください。
山部氏 MVNOだとデータローミングができないという話は以前からありましたが、コロナ禍で海外渡航が減り、そのままになっていました。とはいえ、MNOが提供している海外ローミングも、決して安くなっているわけではありません。家族で行くと人数分の料金がかかり、結構な金額になってしまいます。1日ざっくり1000円だとしても、人数が多いとそこそこの額になります。ですから、ローミングをするよりも、違う形態がいいということが念頭にありました。
一方で、われわれもeSIMをやり始めていますが、一向にそれをうまく活用できていないということも背景にあります。eSIMに関しては、MNPで割引を得るために使われるケースなど、どちらかといえば、あまりよくない話も増えてきてしまっています。「iPhone Xs」のころから対応しているので、対応機種は既に多くあるにもかかわらず、ほとんどの人が使わずに眠っている。そこに対してもう少しポジティブな使い方はないんだろうかということを考えていました。
そのようなときに、たまたまAiraloとの話がありました。eSIM専用でサービスをしているのは、われわれがあまり想定していなかったことですが、これってeSIMの正しい使い方ですよね。われわれもサービスを使っていましたが、純粋に便利で、価格的にもかなりリーズナブルです。日本は陸続きではなく、海外に行くときには基本的にどこに行くかを意識します。行くところに対しての準備もきちんとするので、どちらかといえば、われわれに合っているのではないか。そんなこともあって、Airaloと話をすることになりました。
―― ローミングができないのは不便というユーザーの声もあったのでしょうか。
山部氏 パラパラと挙がってきていました。これから先、MVNOでもある程度主回線で使われるようにならなければいけない。ローミングできないのは、あまりいいことではありません。だからといって、Wi-Fiルーターを空港で借りてくださいというのも不親切です。レンタルだと時間を取られたり、返したりするのが大変ですからね。
海外ではGoogle マップや翻訳を使いたいのであって、動画のストリーミングをガンガン見たいという方は少ないと思います。Airaloはその辺の容量設計もよく考えられているように感じました。一緒にやらせていただければ、旅行者の方にはプラスになると思います。
―― Airaloはシンガポールに拠点がありますが、日本でパートナーを探していたのでしょうか。
西林氏 ちょうど日本で事業をがんばって進めていこうと力を入れ出していたタイミングだったので、JCOMさんからのご連絡は非常にうれしかったです。山部さんからお話があったように、大体1年ぐらい前にご連絡をいただき、お話をしてきました。もともとそのタイミングだったので「もちろんです」と思っていましたし、お話を進めていく中でもローミング(海外での通信)ではお役に立てると実感することができました。
―― こういった座組は海外でも進めているのでしょうか。
西林氏 はい。基本的には全世界で進めています。似たような事例としては、例えば海外の航空会社や旅行会社との取り組みがあります。
―― 10%割引というのは、JCOMからの送客効果を踏まえて決まった話だったのでしょうか。
山部氏 今回のサービスは、J:COM MOBILEという観点ではなく、J:COM加入者であれば誰でも特典を受けられます。MVNOでローミングが使えないというところからスタートしてはいますが、J:COM MOBILEだけのサービスにしようとはまったく思っていません。J:COM全体であれば顧客ベースとして500万世帯になりますし、そこに住まわれている方の人数ではもっと多い。ぜひその方々には使っていただきたいですね。
Airaloのサービスはそもそもいい値段ですが、そこからさらに一段、何かアプローチできればという思いがありました。ただ、10%割引に関してはAiralo側から先にお話をいただき、「そこまでやっていただけるんですか」という形で話が進んでいきました。
田中氏 Airaloの中にも、さまざまな提供方式があります。卸のような形もありましたし、割引もある。いろいろな形を検討した結果、今の割引に決まりました。
―― Airaloとしても、J:COMの顧客基盤でユーザーを広げられるのはメリットがありそうですね。
西林氏 はい。すごく大きいですね。まさにわれわれが求めていたパートナーでした。知名度の部分は、われわれが感じている課題でした。これまで使っていたユーザーと、これから使うことになるユーザーはだいぶ違うと思っています。これまでは、例えばバックパッカーやデジタルノマドのような方や一部の留学生でした。共通しているのは、比較的テクノロジー的なリテラシーが高いことです。
また、一部の方は英語に関しても怖がらずに使っていただける層でした。一方で、夏ぐらいから、ユーザーが広がっている感触があります。お問い合わせの内容を見ていると、そこがちょっとずつ変わってきている印象があります。
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