KDDIの衛星通信サービス「au Starlink Direct」が大幅な品質向上を実現した。7月17日に同社が開催した体験会で明らかになったのは、SMS送受信時間が従来の2分以内から30秒以内へと4倍高速化したことだ。2025年4月10日のサービス開始から約3カ月で、累計接続者数は100万人を突破した。
au Starlink Directは、スマートフォンが圏外エリアでも衛星と直接通信できるサービスだ。山間部や海上など携帯電話の電波が届かない場所でSMSの送受信を可能にしている。対応機種は当初50機種でスタートしたが、5月には63機種・800万台以上に拡大。現在はiPhone 14シリーズ以降、Google Pixel 9シリーズ、Galaxy S24シリーズなど幅広い5G/4G LTE端末が対応している。
今回の品質向上を実現したのは、6月末に実施された衛星からの電波発射の追加だ。
au Starlink Directは高度600kmを周回する直接通信専用衛星から電波を発射している。KDDI技術企画部 通信プラットフォームグループリーダーの志田裕紀氏によると、今回の品質向上の鍵は軌道傾斜角43度の衛星軌道からの電波発射開始だ。
軌道傾斜角とは、衛星の軌道面が赤道面に対して傾いている角度を指す。従来は赤道から53度傾いた軌道のみで運用していたが、既に周回していた43度軌道の衛星約300基が日本向けに電波を発射開始した。全体で約600基体制となり、日本上空の衛星密度が大幅に向上した。
今後は単純なメッセージ送信だけでなく、地図アプリなどのデータ通信サービスへの対応も検討している。KDDIは「2025年夏」の提供開始を予告しているが、具体的な時期は明らかにしていない。志田氏も「夏中には、間もなく」と述べるにとどめた。音声通話については「さらなる接続率の改善が必要」として、将来的な課題として位置付けた。
筆者は7月17日、茨城県高萩市の大和の森 高萩スカウトフィールドで開催された体験会に参加した。会場はauの電波が完全に圏外となる山間部のキャンプ場だ。
ステージのような開けた場所でiPhone 16 ProとGalaxy S25 Ultraを使って体験した。すでに圏外表示になっていた端末は、すぐに画面上部のピクトが「衛星」マークに切り替わった。キャリア表示も「Starlink-au」に変わる。この状態では通話やデータ通信はできないが、SMSとiMessage(iOSのみ)、RCS(Androidのみ)が使える。
実際にSMSを送信してみると、タップしてから10秒もたたずに「ポコン」という送信完了音が鳴った。同じ場所にいた相手からの返信も30秒以内には画面に表示された。KDDIは送受信それぞれが「最大30秒以内」としているが、体感的にはそれよりもかなり速い。
AIチャット機能との連携も用意されている。iPhone向けには「シンプルAIチャット」というサービスがある。「#3333」宛にSMSで質問を送ると、AIが回答を返してくれる仕組みだ。
試しに「テントのたたみ方」と送信してみたところ、20秒ほどで簡潔な手順が返ってきた。山でキャンプ道具の使い方に困ったときなど、実用的な場面で役立ちそうだ。
AndroidのRCSでは、GoogleのGemini AIとチャットできる。「高萩市の山林の面積は?」という質問を投げかけると、統計データをもとに推論した詳細な回答が返ってきた。より高度な質問にも対応できる印象だ。
スマートフォンを空に向ける必要もなく、日傘で隠しても衛星を捕捉できた。「空がみえれば、どこでもつながる」というキャッチフレーズの通り、樹木の隙間から空が見える程度の環境でも問題なく通信できる。
志田氏のプレゼンテーションでは、衛星追加による接続率向上を示すデモ動画が公開された。従来は約50秒の圏外が2回発生していたが、衛星追加後は約25秒の圏外が1回のみに改善したという。
実際の体験でも、衛星に接続されている時間の方が長く、圏外表示になることは少なかった。衛星の密度向上による効果を実感できた。
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