連載
» 2006年12月14日 08時00分 公開

山田祥平の「こんなノートを使ってみたい」:「J」なノートは使いやすさを追求する

軽さと堅牢性、そして打ちやすいキーボードで「地味」ながらも高く評価されているNECの“J”ノート。だが、最新ラインアップにその姿はない。NECは個人向けモバイルノートをどうするつもりなのか。

[山田祥平,ITmedia]

 現時点で、モバイルに特化したノートPCのラインアップがいささか乏しいNECだが、初心者からパワーユーザーまで、さまざまなスキルを持つユーザーに魅力的なノートPCを提供する老舗ベンダーだ。PC-9800シリーズの時代から、常に日本のPC業界をリードしてきた。今回は、NECパーソナルプロダクツをたずね、山下敏嗣氏(PC事業本部商品企画本部コンシューマーPC商品企画部マネージャー)と、島貫正治氏(同主任)に話を聞いてきた。山下氏はA4系ノート、島貫氏はモバイル系ノートの商品企画に携わる立場だ。

PC事業本部商品企画本部コンシューマーPC商品企画部マネージャーの山下敏嗣氏
PC事業本部商品企画本部コンシューマーPC商品企画部主任の島貫正治氏

NECのモバイルノートPCといえば、LaVie J(左)にVersaPro UltraLite(右)となる。とくに「打ちやすいキーボード」「軽量」「堅牢性」がモバイルユーザーから高く評価されている

──Centrinoなど、プラットフォームの画一化で、ノートPCの差別化が難しくなっているようですが。

島貫氏 はい、われわれとしても、インテルにリクエストはするのですが、立場としては他社と一緒です。ですから、プラットフォームで製品を差別化するのは難しいですね。現行のモバイルノートPCであるLavie Jにしても、他社とそんなに違うわけではありません。NEC全体のPC戦略として「使いやすさ」を強調してはいますが、そういった中でできることを一歩一歩進めていきたいと考えています。

 いずれにしても、1人1人がPCを持つ時代は必ずやってきます。国民すべてが持つとは思わないのですが、携帯電話同様に一定の人たちは必ず持つはずです。となれば、今のモバイルで求められている要素は当然として、使いやすさこそが重要になってきます。

 PCは、ユーザーによって求めるものが全然違うんですね。ですから、どういった使いやすさをどう提供するかが課題になります。今の製品ラインアップでモバイル系が寂しいのは、正直なところ、売れないからと思ってくださってかまいません。今のところ、見えているパイがかなり少ないというのが実情です。

山下氏 ただ、自分たちも、今の製品だけで市場のモバイルをフルカバーできているとは思っていないんです。モバイルで思うのは、A4ノートと違ってこの分野のニーズがはっきりと細分化されている点です。液晶パネルのサイズでいうと、A4サイズのノートPCは、12.1インチが13.3インチになり、14.1インチ、15インチ、そしてワイドと、大きいサイズのノートPCにどんどん置き換わっていきました。でも、モバイルノートは、画面サイズの種類だけ、それぞれを必要とするユーザーがいます。Aというユーザーはどうしても10.4インチのディスプレイでなければならないし、Bというユーザーは12.1インチが必須といった具合です。

 モバイルノートって何かを割り切る商品なのですが、ユーザーによって割り切るものが違うんですね。われわれはそこを見切り、それが製品のラインアップに反映されるということです。コンシューマー向けノートPCは、画面が大きいほど売れます。でも、そればかりをやっているわけにはいきません。

──モバイルノートがもっと求められる時代はくるのでしょうか。

山下氏 いま、PCの市場は価格の点で多少クレイジーな世界になっているといえます。ちなみに、ノートPCが65%程度を占有していますよね。理由はたくさんあるのですが、ひとつは価格です。例えば、店頭でA4ノートPCは13万円前後で買えます。一方、デスクトップPCは17インチの液晶ディスプレイがつけば、やっぱり15万円を超えてしまいます。インターネットとメールだけでよければ、価格を考えるとノートPCになるんですよ。あとはスペースの問題が大きいですね。

 量販店で応援接客してみると、トラブルが起こったときに、解決方法を聞くためにPCを知人のところに持って行くことが少なくないようなのです。さらに、部屋の中の移動も意外にあるようです。つまり、外まで持ち出さなくても、ダイニングとリビングなどを往復させて使うし、家族で共有しているような場合は、自分の部屋にPCを持ち運ぶみたいです。積極的理由か消極的理由かは別にしても、家族でPCを共有しているケースはかなり多い状況です。PCの買い増しの理由としては、子供が中学生や高校生になったのを機会にプライバシーを気にするようになって、というのがきっかけになるようです。

島貫氏 いずれにしても、何か1つをやったらモバイルPCの市場がブレイクするというイメージは持っていません。結構、地道な前進を積み重ねているという感じでしょうか。2006年秋のラインアップでLaVie Jなどが落ちてしまったのは残念ですが、商品の企画としてはちゃんとやっていますから、次シーズンの製品にご期待ください。

山下氏 本当にPCを持ち運んで使う“仕事モバイル”の市場は、ネットワークのインフラがキーです。WiMAXなどがちゃんと整備されて使えるようになれば、モバイルPCの価値はグンと上がってくるでしょう。そうはいっても外までPCを持って出ないよ、と言っていた人たちも、PCを外に持ち出すようになるでしょう。ノートPCの開発においてそういう状況になったときの差別化が重要になります。

 また、コンシューマー寄りでいうと、家庭の中で動かすことの意義を認めてもらう必要があります。現在、家庭での主流は15インチノートですが、サイズとしてはちょっと大きいんじゃないでしょうか。子どもに15インチのフルスペックノートが必要か疑問です。家庭内での持ち歩きにフォーカスした商品があれば、それはそれで今後考えられると思うのです。

──NECが考える使いやすさとは、どういうことなのでしょう。

島貫氏 使いやすさというのは、例えば、USBの端子を本体の左右両側に付けるといった、細かい使い勝手をいかに考えるかということの集大成です。キーボードなども同様です。LaVie Jは、全部のキーが正方形なんですね。しかもストロークがしっかりとれています。ノートPCでも、キーを叩く、打つという機会はかなり多いですから、ここをおろそかにするわけにはいきません。

 LaVieシリーズはコンシューマー向けで一般ユーザーをターゲットにしています。ですから、商品の企画としては、ビジネスという目的から多少離れたものもあれば、さらなる小型化もあるだろうと考えています。でも、正直なところ、まだ、ちょっと分からないですね。小さくすればするほど、その下には携帯電話がありますから。そこまで小さくする意味があるのかないのかとかね。

 バイオの“U”(からVGN-UX50以降の一連のシリーズ)などは、キーボードをほとんど使わないことが想定されていますよね。本当にそれでいいのかどうか。どのくらいの頻度でキーボードを使うのかといったことまで視野にいれた企画が必要です。いろいろ考えているのですよ。タブレットのような製品もあるだろうし。ペンやタッチパネルなど、そういうユーザーインタフェースを生かした別の製品というのもあると思っています。

山下氏 PDAの市場は、限られながらも連綿と続いています。さらに、日本には昔から東芝のLibrettoが生んだ系譜がありますよね。でも、あれはやっぱり「高いおもちゃ」だったんじゃないでしょうか。本当にヘビーなユーザーだけに認められました。時代が時代なら別の評価があったかもしれません。それだけにインフラが重要なのです。インフラが整ってPCを外に持ち出すことがユーザーにとって価値のあることになれば、それに応じた製品を用意しなければなりません。バッテリーだってもっと持続しなければ意味がないし、重量も軽くならなければなりません。でも、そういう市場は必ず生まれるはずです。世の中は必ず変わります。そのきっかけとなるのが2008年のWiMAX整備でしょうか。となると、それまでに用途に端末が必要になります。異なるデバイスとのデータシンクロなど、いろいろ解決しなければならないテーマも考えられます。

 ただし、現時点で、普通の人がPCを持ち歩く用事はないんじゃないでしょうか。でも、端末の表現力の問題などで、今、すべて携帯で十分と考えているわけでもなさそうです。現実問題として、今はPCのパフォーマンスがフルに生かされていませんよね。海外ならゲームの市場があるのでそうでもないのですが、日本だと、Celeronを搭載するPCの比率が高かったりなど、いろいろ問題がある市場だととらえています。そこをなんとかするためにも、PCの魅力をさらに訴求していく必要があります。もっとPCならではの魅力をアピールすることが必要なのです。

 ネットとメールだけでは、やっぱりPCの価値は見いだせません。今、“Web2.0”がトレンドですが、Google Earthなど、新世代のアプリケーションがいろいろ出てきています。そういうアプリケーションの変化があれば、PCならではという時代がやってくるでしょう。また、TVがハイビジョン化していくとPCに求められるパワーも大きくなります。HDDの容量も大きくなければなりません。画面の解像度も求められます。そういうところで、PCならではのところを訴求していきたいですね。いまや静止画でも1000万画素ですから、PCにはそれなりのパワーが求めらます。画像を扱う処理が重すぎるという苦情が、われわれにではなくデジカメのメーカーに持ち込まれるといった話も耳にします。こうして、PCを取り巻く環境に変化が起こり、さらに、ここのところちょっと止まって足踏み状態にあったノートPC関連の技術も、変化の兆しが2007年にかけて出てくるでしょう。そこで、またノートPCが進化するのではないでしょうか。

──現行製品の魅力が伝えきれていないようにも感じます。

山下氏 いずれにしても、市場がまだあまり大きくないので、製品はあっても、知られていないところがあるかもしれません。普通のノートPCだと思っていて、初めてLaVie Jをさわって持ち上げてその軽さに驚くようなユーザーもいるようです。まさか、あのボディがそこまで軽いということを、「1キログラム」という数字からは想像できないようなのです。そういうユーザーに、モバイルで割り切る部分を割り切ってもらえるかどうかでしょうね。

 カタログ数値と実際に持ったときの感触が違うものは世の中に多いようです。まやかしではないのですが、実際に持って軽く感じてもらえるようなことが大事です。広告宣伝などでの訴求でも、数字で書けない部分、書いてもよく分からない部分を言葉で表現するなどの取り組みはしていますが、伝えきれていない点は反省の余地がありますね。

─―一家に複数台のアプローチより、一人複数台のアプローチのほうが訴求しやすいのではないでしょうか。

山下氏 売るという点ではそのほうがラクかもしれないですね。でも、それには仕事以外で持ち運んでもらうためのソリューションを提供する必要があります。端末の魅力とあわせて、電車の中でのPC利用など、いろいろなシーンを考えていく必要があるでしょう。

 モバイルは今、数字勝負の市場になっています。でも、数字がどんなに優れたものであっても、実際のところがどうなのかがあまり伝わっていません。今後は、出張以外でノートPCを持ち出す意義を訴求する必要がありますね。コンシューマーに対するモバイルノートPCの利用シーンの提案です。それを啓蒙するには何が有効かをずっと考えています。実は、販売店もラクなのを売る傾向があるので、説明が必要なモバイルノートPCよりも、シンプルなA4ノートPCを売りたがるんですよ。そこから変えていかなければならないですね。

──Windows VistaはモバイルノートPCにどのようなインパクトを与えるでしょう

島貫氏 標準ユーティリティとして提供される「Windowsミーティングスペース」などはモバイルユースで便利かもしれませんね。ビジネス寄りのユーティリティかもしれませんがコンシューマーユーザーに広がる可能性はあると考えます。それに、モビリティセンターなどの管理ツールなど、OSそのものの使いやすさがよくなっています。OS標準で使えるモバイル関連の機能がワンランク上がるということです。NECでいうと、ノートPCにはパワーモードチェンジャーなどを提供してきましたが、それがOSに追いつかれたということです。でも、それを超えるツールがNECで整備されればわれわれの認知度も上がっていくでしょう。

 OSがすべての機能を一通りそろえると、他社製品との差別化をどこにもっていくのかが難しくなるのですが、その一方で、状況を前向きに考えれば、ベースのポテンシャルが上がったということですから、市場のパイが広がる可能性が増えたわけですよ。だとすれば、マイクロソフトが用意していないものを用意すればいいと。

山下氏 マイクロソフトもかなりモバイルを意識しているようなので、Windows Vistaとあわせて認知度が上がっていけばいいなと思います。ワールドワイドでは、B5モバイルノートPCの比率が上がってきているようですし、マイクロソフトはもちろん、海外のPCベンダーもそこの市場が伸びるとみているようです。

 もちろん、製品コストはとても重要です。もし、製品の価格が100万円になってもいいということになれば、あと100グラムはすぐに軽くなるでしょうね。それはすぐにできるけど結局は買ってもらえないのです。だからできません。そのジレンマを見極めていかなければならないわけです。でも、チャレンジしなければいつまでも進化しないでしょうから、そのあたりのバランス感覚を大事にしながら、魅力的な製品を企画していきたいですね。

2007年には「Windows Vista」「Santa Rosa」といったモバイルノートPC関連の新しい技術が実用化される。2008年に立ち上がるWiMAXなど、ノートPCのプラットフォームは新しい時代を迎えようとしている

 結局、Windows Vistaの遅延の影響が、こういうところに歪みとなって出てくるのだなと、話を聞いていて思った。Windows XP搭載のモバイルノートPCは、いまひとつ、モバイルマシンとして使いにくかったが、それは、決してWindows XPのせいではないし、たとえそうだったとしても、運用やベンダー独自のユーティリティなどで、それなりに解決できたことばかりだ。

 カバーを開いて5秒後に使えないノートPCはモバイルマシンとして失格だ。でも、メーカー製のWindows XPノートPCの多くは、カバーを閉じたときのデフォルト設定を休止状態にしていたから、復帰には数十秒を要した。デフォルト設定のままで使う一般的なユーザーは、そんなノートPCを持ち出して、出先で使おうとは思わないだろう。ところがWindows Vistaはデフォルトがスリープスタンバイだから、カバーを開けばすぐに使える。

 結局は、そういう小さな問題なんじゃないか。

 Windows XPでできなかったことがWindows Vistaでできるようになるわけではないけれど、Windows Vistaがモバイルに関してそれなりの未来を提案するのなら、NECがいうように、モバイルの世界はちょっとした変化の兆しを見せ始めているのかもしれない。

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