──各社、最近では堅牢性の確保に注力しているようです。
荻野氏 堅牢性に関しては、東芝として最低限のラインがあって、それを超えなければ製品を出せません。ハードウェアでどこまで堅牢にするかを考えたときに、RX1では工夫できる余地が限られているので、開発陣はかなり苦労したようです。堅牢性を確保しつつ軽くするのは難しかったということです。開発過程では、毎週開かれる会議で進捗状況を報告するのですが、(重さの)「目標値に届いていないまでも近づいたことを評価してほしい」と開発側が訴えているのに、チーフから怒鳴られるという状況が続きました。
製品には営業軸と開発軸、そして生産調達軸という3方向のベクトルが働きます。それらがイノベーションにつながる要素を出しあい、それを、足し算ではなくかけ算するというポリシーで製品作りをしています。RX1では、各部署とも自分たちの作業の進め方に沿った意見を出せたと思います。製造工程で品質を上げようとしたら、製造部門だけでできることと開発部門にも要求しなければならないようなこともあるじゃないですか。
──製品化にあたって迷ったところはありますか。
荻野氏 RX1のモデル構成はかなり迷いました。無線LANの有無や搭載するHDDのバリエーションです。Bluetooth搭載モデルを用意しなかったことで、RX1を評価していただいた関係者からずいぶん文句を言われました。そこで、後追いの形ですがWeb販売モデルでBluetoothを搭載したところ、すぐに完売してしまいました。
機器構成は販売する地域によって異なります。エリアごとにマーケティングが異なりますから、RX1も日本だけのことを考えたベースではありません。ですから、機器構成においてはいろいろな組み合わせができる拡張性を持たせています。それだけに、(構成の組み合わせを)できるだけ分かりやすくしたいけれど、多様なニーズに応えるにはどのようなラインアップがいいのか、かなり迷いました。正直いうとHDDを1.8インチにするかどうかについてもかなり迷いましたね。
──最終的には、RX1でどのようなユーザー層を狙うことになりましたか。
基本的にはビジネスユーザーです。ですから、仕事の生産性を落とさないことが必須です。ビジネス市場で重要なPCは、人といっしょに動いて、絶えず使えるものでなければなりません。また、いつでもどこでも使えるものでありながら、ごく普通のPCと同じ使い方ができなければなりません。
RX1はどうしても華奢に見えるのですが、東芝のノートPCがクリアすべき品質は当然確保しました。それを分かってもらいたいために広告展開ではけっこう派手なタレントアピールを企画しました。東芝にはQosmioというコンシューマーPCがありますが、ターゲットや使いかたはQosmioとRX1で全然違います。ただ、ノートPCの多様化も進んでいますから、ひとつのPCで済ませるわけにはいきません。やはり適した商品を用意する必要があります。RX1は、その多様なラインアップの1つであるということです。
─―出荷後の市場は、RX1をどのように受け止めているでしょうか。
荻野氏 モバイルノートの価値にそれなりの対価を払ってくれるユーザーから評価されているようです。8月からSSD搭載モデルが発売になりましたが、供給が追いつかない状態です。なんともバランスが悪い状況ですね。とはいえ、最初の立ち上がりは予想どおりですから、ここでもたついているわけにはいきません。いずれにしても期待どおりの反応をユーザーから得ていると思っています。
実は、発売にあたって、あるフィールドでモニターを募ったんです。期間限定の貸し出しモニターなんですが、そこでもプラスの評価を多くいただきました。
──東芝のPC作りにおける“思想”とは。
荻野氏 誰が製造しても品質を一定化できて、きちんとした製品をユーザーに提供できるようにする。これが東芝のPC作りにおける“思想”です。RX1では「最薄」「最軽量」など数々の“世界一”を実現するためにたくさんの工夫を施していますが、そこには凝ったギミックなどはありません。だから、安定して高品質の製品を供給できるのです。
──東芝のモバイルノートは、今後どのように進化していくでしょう。
荻野氏 東芝の考える“Ture Mobile”にはベースとなるコンセプトがあります。短期的には今のA4ノートでモビリティを究めていくことになるでしょうね。極端に小さいとかタブレットPCとかの分野も、まだ(発展する余地が)あるだろうとは思いますが、モバイルノートとは違う角度で考える必要があるでしょう。さらに、モバイルノートの製品で培った東芝の差異化技術は、それがこなれた段階でコモディティモデルにも反映していくことができます。そういう意味では横方向(モバイルノートから汎用ノートやAV特化型ノート)への展開もありえます。それぞれのラインのユーザーに適した形で進化できるはずです。もしかしたら“QosmioのRX1版”というのも可能かもしれない。これもまた、市場にインパクトを与えそうじゃないですか。
いずれにしても、進化していくところはまだまだたくさんあります。決してRX1が終点ではありません。だから、本来のPCはそうあるべきだと考えながら、東芝はノートPCにこれからも取り組んでいくのです。
「ダイナブック」とは、アラン・ケイが1970年代に、論文「ダイナミックパーソナルメディア」の中で提唱した理想的なパーソナルコンピュータの名前だ。その名前を冠した東芝のノートPCの歴史は、アラン・ケイが掲げた理想への道程を歩み続けてきたといってもいい。RX1も、その過程にすぎず決して終わりではない。東芝がそう主張するように、今後も絶え間なく進化し続けることを信じたい。
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