レノボ・ジャパンは3月24日、同社製品に関するプレス向けテクノロジーブリーフィングを開催した。ThinkPad開発の拠点、大和事業所のエンジニアによる技術セミナーはこれで5回目。昨年の夏から、ThinkPadのデザインや機構設計、キーボード、“拷問部屋ツアー”、熱設計の歴史が取り上げられてきたが、今回のテーマは“究極のThinkPad”こと「ThinkPad X300」に関するものだ。大きく「回路設計」「基板設計」「EMC設計」の3点から、X300を貫く“ThinkPadの哲学”が語られた。
技術セミナーの前半部分を担当したレノボ・ジャパンノートブック開発研究所システム技術基礎設計技術の小川満氏は、「今回、薄さに特化したX300という機種を開発するにあたって、それがどれだけとんがった製品であっても、やはりThinkPadでなければいけない」とその基本コンセプトを語り、X300は回路設計の段階から“ThinkPadらしさ”を追求してきたと説明した。
例えば、ThinkPad X300の回路図面は、「通常のノートPCなら50〜60ページ、多くても70ページほど」(小川氏)の分量に対して、約100ページにもおよぶが、その理由は基本回路の部分をすべてのThinkPadと共通化しているためだという。ThinkVantage機能のフルサポートをはじめ、システム・マネージメント用マイコンや電源管理用のカスタムチップの実装など、“ThinkPadらしい”機能や安全設計を踏襲しつつ、さらにそのうえで、高密度実装や省電力機能といったX300特有の専用回路が存在するというわけだ。
小川氏は、製品間の差異を小さくするこの設計アプローチのメリットとして、「何か(回路上の)問題が発見された際にすべての製品で修正が適用できる」ことと「各製品間でユニークな部分を明確化することにより、そのユニークな部分に開発リソースを集中できる」ことの2点を挙げ、最新のX300も同様に従来のThinkPadの回路設計を受け継ぐものであることを強調した。
ThinkPad X300の特徴である薄型軽量ボディは、システム基板の高密度実装を可能にした2つの技術が核になっている。1つは富士通の「LOOX R」でも使用されているインテルのSFF(Small Form Factor)パッケージを採用したCPU(Core 2 Duo SL7100)とチップセット(Intel GS965 Express)、そしてもう1つが内層基板内での配線を可能にしたHDI基板だ。
CPUのパッケージサイズは、ThinkPad T61で採用される35(幅)×35(奥行き)×2.9(厚さ)ミリの通常パッケージに比べて、SFFパッケージが22(幅)×22(奥行き)×2(厚さ)ミリと非常に小さく、同様にノースブリッジとサウスブリッジも小型化している。
一方、システム基板の表層と2層目(ブラインド・ビア)、2層目と9層目の間(ベリード・ビア)を接続するX300のHDI基板(1+8+1層)は、基板の表裏を貫通するPTH(Plated Through Hole)タイプのビアのみが使用されるThinkPad T61のFR4(10層)基板に比べて高密度の実装が可能なため、面積で約52%、重量で約60%ほど削減され、厚さも1.2ミリから1ミリとさらに薄くなった。また、部品点数も2660点から1820点と大幅に減っている。


CPUとチップセットのサイズ比較(写真=左)。FR4基板(10層)とHDI基板(1+8+1層)のサイズ比較(写真=中央)。X300の基板断面図。基板の2層目と9層目を形成したあとに表と裏をさらに層で挟むHDI基板では、表層と2層目(ブラインド・ビア)、2層目から9層目(ベリード・ビア)を接続できるため、高密度実装が可能だという(写真=右)。この技術は、高密度実装を求められるモバイルノートPCの基板では他社でも使われているが、実はブラインド・ビア技術自体は、1994年発売のThinkPad 755Cですでに採用していたというただし、HDI基板の採用にあたっては、品質・信頼性を確保するためにさまざまな評価も行ったという。例えば、ブラインド・ビア上に部品のリードをはんだ付け(ビア・イン・パッド)することでさらなる高密度実装化が可能だが、現在の技術ではどうしても内部に気泡が入ってしまい、ひび割れなどによる断線によって信頼性は落ちる。そこで実際に基板の屈曲テストなどの基礎実験を行い、その評価を元に配線の引き出し方法やビア・イン・パッドの使用場所を制限するなど、品質を保つためのデザインルールを決定している。
また、基礎実験だけでなく、実際に基板を筐体に組み込んだ状態で負荷をかけ、そのひずみを測定することで、部品の配置やねじ止め位置、接着剤の使用の有無を最適化したり、測定できない信号波形や電源パターンの評価ではシミュレーションを活用しているという。


評価用のBGA実装基板を用意し、基板にさまざまな負荷をかけて破壊に至るプロセスを検証し、基板のデザインルールを決定する(写真=左)。実際に筐体に組み込んだ状態で基板のひずみを測定し、問題があれば部品やねじのレイアウトを調整する(写真=中央)。実測できないものについてはシミュレーションを活用する(写真=右)このほか説明会では、同社ノートブック開発研究所システム技術基礎設計技術担当の小見山博秀氏が、最近の電磁波事情を受けた同社の取り組みを紹介した。EMC対策は、ノートPCが外部の電磁波から受ける影響と、ノートPCの発する電磁波が外部に与える影響の2つに分けられ、それぞれに対して許容値を設定した規格が存在する。しかし同社は、「ノートPCはノートPCなりの、家電では家電なりの使用環境があるはず」という立場から、それらのレギュレーションにとどまらない、レノボ独自の「Lenovo Standards」と「PAL」を設定し、これらを満たす試験も行っている。
例えば、ノートPCの上に置いた携帯電話が受信した際にシステムが誤作動する、イーサネットケーブルを接続した際に静電気でシステムがクラッシュする、などの報告があったため、そういった状況下でも影響を受けにくい構造を採用したり、部品ごとの電磁波対策を施しているという。
小見山氏は、今後もこうした基礎実験と顧客からのフィードバックをさらに積み重ね、ThinkPadであり続けるための新しい挑戦をしていきたいと抱負を語った。
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