いまとなっては、「NetbookとNettopのCPU」として急激に搭載デバイスの台数を伸ばしているAtomだが、その出発点は、携帯してどこでもインターネットにアクセスできる小型デバイスに搭載することを目指していた。2008年の春に正式発表されるまで、IDFなどで繰り返し紹介されていたコンセプトもそうであったし、正式に発表されるまで、多くのユーザーから注目を集めていたのは開発コード名「Shilverthorne」であったはずだ。Internarional CES 2008やCeBIT 2008で多数のMID(Mobile Internet Device)のサンプルが展示されていたが、Atomが正式発表されたIDF 2008 上海あたりから一転して、開発コード名「Diamondville」のAtomを搭載したNetbookが脚光を浴びることになった。
このように、コンシューマーユーザーからみたAtomは、PCに搭載されるCPUとして考えることになる。そのため、コンシューマーPCユーザーが注目するインテルのメッセージも、主にウルトラモビリティ事業部から発信されるものが多かった。その一方で、インテルは、組み込み機器用のCPUとしてもAtomのビジネスを進めている。このビジネスを推進しているインテルのデジタルエンタープライズ事業本部 副社長兼エンベデッド&コミュニケーションズ事業部長のダグラス・デービス氏が、日本でAtomによるエンベデッドコンピューティングの将来について説明を行った。
Atomを搭載する機器としては先ほど紹介したような、Netbook、Nettop、そしてMIDが市場に登場しているが、ダグラス氏は、エンベデッドコンピューティングでも多種多様なインターネット接続機器の需要が増えており、そのようなデバイスにAtomは搭載されることになると説明している。
また、ダグラス氏はコンシューマー向け製品と異なる組み込み機器特有の特徴として、幅広い拡張性と長期間にわたるサポート、充実した開発環境の支援体制、目的に合わせたソリューションを構築できる柔軟性を挙げており、このような条件を満たすインターネット接続が可能な組み込み機器が現在検討中、もしくは開発中で、すでに800種類もの機器にAtomの搭載が検討されているという。
エンベデッドコンピューティングにおける今後の展開についてダグラス氏は、組み込み機器のユーザーもシステムの省電力化と低コスト化、さらにはSoCによる機能の統合化を求めており、そのような需要に対してAtomを搭載したデバイスを供給していくという見通しを述べた。これまで、インテルが開発してきたCPUはサーバやクライアント向けのノートPC、デスクトップPCに搭載するモデルが中心であったが、これまでインテルが入り込むことができなかったエンベデッドコンピューティング業界でもAtomやEP80579でビジネスを展開していくのがダグラス氏をはじめとするエンベデッド&コミュニケーションズ事業部の考えだ。

これまでインテルが投入してきたCPUはPCやサーバ向けであったが、Atomの登場でインテルはエンベデッド業界にも進出できるようになった(写真=左)。Atomを搭載する予定のデバイスには、これまでx86系CPUが採用されていなかったカテゴリーも含まれているという(写真=右)ダグラス氏は、そのような組み込み機器向けに特化したAtom採用プラットフォームとして2009年第1四半期に投入される予定の「Embedded Menlow XL」について、ダグラス氏は、BGAパッケージのピン間隔が現在の「Embedded Menlow」の0.6ミリが1.0ミリに増やされることを明らかにし、この理由として、ピン間隔を増やすことで、高温高湿、振動といった過酷な環境条件でも安定した動作を保証するとともに、生産コストの抑制を実現すると説明している。
インテルがAtomを紹介するとき、必ず取り上げるのがARMとの比較だ。携帯電話をはじめとするエンベデッドコンピューティングの世界でARMは幅広く普及している。ARMを搭載しているインターネットアクセスデバイスをパフォーマンスとコンテンツ表示の互換性で優れているAtomでリプレースしていくというのが、これまでインテルがアピールしていたメッセージだったが、ダグラス氏の考えは、どうも違うようだ。
まず、ARMを挑発するようにもとれるAtomに関するメッセージはウルトラモビリティ事業部が発信しており、携帯電話などに搭載されるARMとAtomの性能やWebページの互換性を比較した内容についてエンベデッド&コミュニケーションズ事業部はコメントする立場ではないと、ダグラス氏は断った上で、ARMを搭載するローエンドローコストの製品とは異なり、Atomを搭載したエンベデッド機器はより性能を求められるレンジを想定していると説明した。
インテルでは、携帯電話やMIDに搭載するAtomはウルトラモビリティ事業部が管轄し、デジタルフォトフレームやIPコンテンツプレーヤーといった家電用途のデバイスに搭載されるAtomはデジタルホーム事業部が管轄するとしている。
トップからローエンドまでの対応をうたったインテルのCPU戦略で、低消費電力低価格の分野を幅広くカバーする、ある意味フレキシブルなAtomだが、そのAtomのビジネスを展開するインテルの組織は、あまりフレキシブルではないようだ。

2009年の第1四半期に登場する予定の「Embedded Menlow XL」ではピン間隔を従来の0.6ミリから1ミリに拡張して、より過酷な環境での動作を実現する(写真=左)。デジタルエンタープライズが考えるプラットフォーム展開において、AtomはウェアラブルPC、医療用携帯端末、POS、自動販売機、商用ゲーム機などが紹介されている
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