2008年のGPU市場で勢いを盛り返したRadeon陣営のバリュークラスといえば「Radeon HD 4550」「Radeon HD 4350」だ。Radeon HD 4000シリーズの中で最も低価格のラインアップで、すでにレビューを掲載したRadeon HD 4600シリーズの下位クラスになる。
プロセスルールは、Radeon HD 4600シリーズと同じ55ナノメートルで、構成トランジスタ数は2億4200万個と、Radeon HD 4650の約半分だ。ダイサイズも約半分の73平方ミリと、コンパクトになっている。
これまでのRadeon HDシリーズと同様、DirectX 10.1とShader Model 4.1をサポートする。コアクロックは600MHzで、Radeon HD 4600シリーズの750MHzより低い。実装する統合型シェーダユニットの数も80基と、Radeon HD 4650の4分の1に過ぎない。サポートするグラフィックスメモリはDDR3で、メモリクロックは800MHz、DDRデータ転送レートで1.6GHz相当になる。メモリバス幅が64ビットとなっているあたり、従来のバリュークラスGPUと共通している。
Radeon HD 4550の仕様で最も注目したいのが、消費電力が非常に低いことだ。従来のバリュークラスGPUシリーズとなるRadeon HD 3650の67ワットや、現役ミドルレンジGPUであるRadeon HD 4650の48ワットと比べると半分以下の20ワットを実現している。GeForceのバリュークラスでも、最も省電力とされているGeForce 8400GSの消費電力が38.7ワットであるため、Radeon HD 4550は半分強の電力しか消費しないことになる。当然、Radeon HD 4550を搭載したグラフィクスカードは外部電源のコネクタを必要としない。
これだけ省電力であるなら発熱も少ないはずで、ファンレスが当たり前かと思いきや、AMDのリファレンスカードには小型のファンが搭載されていた。販売されている製品でもファンを載せているモデルが少なくない。
Radeon HD 4550の実売価格はおおよそ7000円から8000円のあたりに多く分布している。この価格帯には、NVIDIAの現役世代ではGeForce 8500 GTが、AMDではRADEON HD 3650あたりが重なってくる。また、価格帯は少し下がるが、同じ64ビットのメモリバスを採用しているGeForce 8400 GSを加えた、3種類のバリュークラスGPUとパフォーマンスを比較してみた。
Radeon HD 4550のスペックは、Radeon HD 3000シリーズのミドルクラスであるRadeon HD 3650と近い。コアクロックはRadeon HD 3650が速いが、メモリクロックはRadeon HD 4550が上回っている。ただし、メモリバスはRadeon HD 3650が128ビットと広く、このあたりはさすがにミドルクラスのGPUである。
GeForce 8500 GTとGeForce 8400 GSとの比較では、コアクロックもメモリクロックもRadeon HD 4550が速いが、メモリバス幅はGeForce 8500 GTが上回る。
主要なスペック | Radeon HD 4550 | Radeon HD 3650 | GeForce 8500 GT | GeForce 8400 GS |
---|---|---|---|---|
コアクロック | 600MHz | 725MHz | 450MHz | 450MHz |
メモリクロック | 800MHz | 500MHz | 400MHz | 400MHz |
DirectX | 10.1 | 10.1 | 10 | 10 |
対応メモリ | DDR3 | GDDR3/DDR2 | GDDR2 | GDDR2 |
プロセスルール | 55ナノメートル | 55ナノメートル | 80ナノメートル | 80ナノメートル |
シェーダユニット | 80 | 120 | 16 | 16 |
メモリインタフェース | 64ビット | 128ビット | 128ビット | 64ビット |
再生支援機能 | Avivo HD | Avivo HD | PureVideo HD | PureVideo HD |
消費電力 | 20ワット | 67ワット | 41ワット | 38.7ワット |
テスト機材メモリ容量 | 512MB | 256MB | 256MB | 512MB |
性能評価では、いくつかの市販ゲームタイトルを用いたベンチマークテストと3DMark Vantage、3DMark06を試用した。今回取り上げた市販ゲームタイトルは、「Enemy Territory Quake Wars」と「Unreal Tournament3」の2種類だ。バリュークラスということもあって、軽負荷の条件でのみ測定を行っている。
また、RADEON HD 3650は、ASUSの「EAH3650 TOP」を利用したが、この製品はオーバークロック仕様となっており、コアクロックがGPUのデフォルトである725MHzから800MHzに変更されていたため、PowerStrip 3.83を使ってクロックを725MHzに落としている。
ベンチマークテストで使用したシステムは、レビューにおける通常の構成で、CPUは、Core 2 Extreme Q6700、マザーボードはIntel G45チップセット搭載のP5Q-EMを使用、メモリ容量は2Gバイト用意した。グラフィックスドライバは、RADEON HD 4550はCatalyst 8.9ベースの評価用を、RADEON HD 3650はCatalist 8.10を、GeForce 8500 GTとGeForce 8400 GSはForceWare 178.24を、それぞれ適用している。
Unreal Tournament3では、FlyThroughのスコアでは、1024×768ドットの解像度で60FPSオーバーをたたき出しているだけなく、1600×1200ドットに上げても30FPSをキープできている。これはGeForce 8500 GTとGeForce 8400 GSを大きく超える。Shanglilaになると少しスコアが落ちて、30FPSを維持できるのは1280×1024ドットまでとなる。GeForce 8500 GTには1024×768ドットの条件で測定結果が下回っているものの、高解像度ではRadeon HD 4550が勝り、GeForce 8400には大きく差を付けている。ただし、Radeon HD 3650に対しては、まったく及ばないという結果になった。
Enemy Territory Quake Warsのスコアでは、1024×768ドットでやっと30FPSをキープしているレベルだが、Radeon HD 3650とほぼ同スコアであり、GeForce 8500 GTとGeForce 8400 GSには大きく差を付けることができた。
3DMark06および3DMark Vantageでは、すべてのテストにおいて、RADEON HD 3650>RADEON HD 4550>GeForce 8500 GT>GeForce 8400 GSという順位となっている。負荷の重さや解像度などは関係なく、Radeon HD 4550はGeForce 8500GTよりワンランク上のパフォーマンスを実現すると考えていいだろう。
今回の測定結果から分かるように、Radeon HD 4550は、旧式ミドルレンジのRadeon HD 3650のパフォーマンスには及ばない。Radeon HD 3650は、ひと世代前のミドルレンジGPUであることから、かなり価格がこなれてきており、256Mバイトメモリモデルなら6000円台で販売しているケースも少なくない。6000〜7000円という予算で3Dパフォーマンスを重視するのなら、Radeon HD 3650を選ぶのが妥当だろう。GeForce 8500GTは流通量が多く、その実売価格も幅が広いが、ほぼRadeon HD 4550と同じレベルにある。5000円台の製品を選ぶのでないなら、GeForce 8500 GTではなくRadeon HD 4550を選ぶことになる。
また、パフォーマンスよりも省電力を重視するユーザーにはRadeon HD 4550は非常に適した選択になるだろう。消費電力に関しては、RADEON HD 3650の3分の1、GeForce 8500GTの半分であるから、その差はかなり大きい。省電力によって小さいPCケースへ組み込むことも可能になる。発熱にたいする余ったマージンを別なパーツに振り分けてもいい。自作PCの構成を柔軟に考えたいユーザーにもRadeon HD 4550は便利なグラフィックスカードになるだろう。
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