既報の通り、Acerが北京で開催した「source home 2010」では電子書籍端末の「LumiRead」などが披露されているが、同カンファレンスで打ち出されたメッセージは、Acerの新しいホームネットワーク構想である「clear.fi」だ。ここで改めてイベント全体の様子を振り返ろう。
PC市場シェアでついにDellを抜き去り、hpに次ぐ2位へと躍り出たAcerは、今最も勢いのあるPCメーカーの1つと言っていいだろう。米TIME紙恒例の「世界で最も影響力のある100人」の2010年版(The 2010 TIME 100)に並ぶJ.T. Wang会長の名前もこれを裏付けている。Acerのワールドワイド戦略を世界に向けて発信するイベントとして、2009年度は各地域ごとに発表の場を設けるツアー(ニューヨーク、北京、アムステルダム)が実施されたが、今回の「source home 2010」はニューヨークで事前に開催される予定だった発表会が直前でキャンセルされたこともあり、各国のメディアが一堂に会するやや規模の大きいものとなったようだ。
冒頭に登壇したAcerのCEO、Gianfranco Lanci氏は、まず始めにPC市場を取り巻く変化と同社の業績を振り返った。示されたスライドでは、金融危機に端を発したPC需要の停滞を受けて2009年第1四半期は大きく落ち込んでいるが、同年第3四半期からは回復基調に転じ、2010年第1四半期の同社の売上高は49億4800万米ドルと、前年同期比45%の成長を見せている。また、営業利益も前年同期比69%増の1億6100万米ドルと業績は順調に伸び、同氏は「PC市場は完全に健全な状態」へ復帰したと総括した。ちょうど「CeBIT 2010」で発表した市場予測を実際の数字で証明した形だ。
また、これにあわせて、AcerはPC全体の市場シェアでDellを抜き2位に浮上。さらにノートPC市場では19.4%までシェアを伸ばし、わずかながらついにhpを上回った。いよいよ「世界制覇」の文字が現実味を帯びてきたと言えそうだ。
一方Lanci氏は、PC市場の顧客層が子どもや女性、高齢者などを含む一般層へと広く拡大していき、PCのコモディティ化に伴ってPCを購入する際の動機付けも変化していると指摘した。同氏によると、もはや処理性能などの技術的な進歩はメインの訴求点にはなり得ず、その代わりにデザインや質感などが重要視されているという。インタフェースは伝統的なキーボードからマルチタッチへと移行し、若い世代ではタッチデバイスがごく普通になりつつある。より簡単にデータを統合、同期する仕組みが古いPCから新しいPCへ乗り換える動機になり、ユーザーは目的に応じて異なる形態、異なる画面サイズのデバイスを使い分けている。また、PCの利用形態も変化し、従来のようにデジタルコンテンツを受動的、静的に消費するのではなく、デジタルデバイスは常にネットに接続され、ユーザーはいつでもどこでも複数のデバイスを通してコンテンツを扱うようになると説明した。
しかし実際は、ノートPCやNetbook、電子書籍端末、スマートフォンなど、異なるデバイスでは異なる操作性、異なるOSが実装されているのが現状である。そこで同社は、デバイス間の差異を意識することなく、共通のユーザーインタフェースでホームネットワーク上にあるコンテンツを扱うための仕組みを提供していく。それが「clear.fi」だ。clear.fiに対応する各デバイスはDLNAに準拠し、面倒な設定なしに相互接続され、共通のUIであるAcer Media Consoleで操作できるようになる。また、各デバイスに保存されたデジタルコンテンツは、動画、音楽、写真、録画済み番組といったジャンルごとに即座に検索でき、ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作でどこからでも再生、もしくは保存が可能になる。ネットワークストレージやメディアプレーヤーとして投入されているAcer Revoファミリーは、ストレージの拡張を容易に行える構造であり、家庭内コンテンツの増大に簡単に対応できるのも特徴の1つだ。
clear.fiがカバーするのは、PCやNAS、メディアプレーヤーだけではない。今後投入されるスマートフォンやタブレット端末、電子書籍端末までがこの構想に組み入れられており、家庭内のあらゆるデジタルデバイスが相互接続され、統一されたUIで操作できるようになるという。例えば、通常はインターネット上のサービスを利用するスマートフォンが、家庭ではホームネットワークに接続し、いわば“ホームクラウド”のメディアブラウザとして機能する。イベント会場の別室で行われたデモでは、2人の男女がキッチンやリビング、書斎、寝室と、別々に移動しながら、ホームネットワーク上にあるコンテンツを一体型PCで見たり、(メディアプレーヤーを接続した)大画面テレビで再生したり、PCでダウンロードした電子書籍を「LumiRead」で閲覧する様子が実演された。
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