不良品は闇に消えゆく牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2010年11月09日 11時00分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]

ファブレスメーカーの不良品対策

 PC周辺機器メーカーというのは総じて「ファブレス」であることが多い。ファブレスとは、自社で工場を持たず、生産を外部の企業に委託していることを指す。消費者から見えるメーカー「A社」の裏に、実際に製品を作っている「B社」や「C社」がいるということだ。

 自社で工場を持たないということは、生産ラインを常に稼働させておかなくてはいけないとか、機材を償却するために一定期間使い続けないといけないとか、従業員の雇用を確保するために何かを作り続けなければいけないといった制約がなく、必要に応じて外注先に生産を振ったり取りやめたりといったことが可能になる。そのため、製品に応じてラインを柔軟に増減させたり、外注先を競争させてコストを削減できる一方、トラブルの発生時に即時対応などの融通がききづらかったり、生産に従事する従業員の一挙手一投足までチェックできないことから目の届かないところでトラブルが発生する可能性に対処しなければならないというデメリットもある。

 こうした状況下において、発注側企業と生産側企業でよくトラブルになるのが、不良品が発生したときの対応だ。生産側は発注側が作成した仕様書に従って製造したと主張するし、発注側は仕様書で指示していないが「当然なされるべき作業が行われていないから」と反論するので、たいてい泥沼の状態に陥る。これが同じ企業の開発部門と生産部門であれば、「大人の対応」が成立するだろうが、発注側と生産側という契約の関係ではそうもいかない。

新品交換=たらい回し

 こうした“ファブレスメーカー”が、自分で不良品の修理を行うことはまずない。不良品が発生した責任は資産受託側にあるから、彼らに不良品を引き取らせて、発注側が支払った代金を返金させればよい、という考えだ。不良品を返品してきたユーザーには「修理していると時間がかかるので、新品との交換で対応させていただきます」と、いかにもユーザー側に立ったような説明をしていたりするが、ファブレスメーカーの「修理」にはこのような事例が“ないとはいえない”。

 ユーザーのブログなどを見ていると、「不良品を修理に出したら新品が返ってきた。ラッキー」と喜んでいるケースがあるが、ファブレスメーカーが修理部門を持っておらず、不良品イコール交換という対応をしているだけの話だ。むしろ、不具合が発生した製品と同じ型番が送られてきているわけで、下手をすると同じ不具合が発生する可能性も考えられる。“新品交換”で時間稼ぎをしている間に、生産側が対策を探っていることもある。不具合が発生する原因が解明されて対策済みであればいいが、ひどい場合になると、同じ不具合が発生する可能性を内在する製品が循環しているだけということもある。

 新品交換の製品で同じトラブルが発生した場合は、このような可能性が疑われるので、同じの機能を持つ別の製品に変えてもらったほうがトラブルの解消につながる。ファブレスメーカーのサポートと直接やりとりしているのではなく、販売店が間に入っているのであれば、販売店主導で別メーカーの製品に交換させることも考えてみるといい。

「仕様書に明文化できない仕様」はトラブルの元凶

 製品が不良品か否かは、動くかどうかではなく「仕様書の内容通りに作られているか」によって決まる。これをチェックする工程は、一般的には発注側に納入するときに行う抜き取り検品だが、PC周辺機器の性質上、すべての機能をチェックするのは工数的に限界があるのと、ファブレスメーカーの中には検品作業が“アバウト”であることもあるので、納品後に不良が発覚した場合も生産側に責任を負わせるケースも少なくない。「検査をうまくごまかして納品書にサインさせれば生産側の勝ち」という、別の業界であるようなルールは通用しない。発注側との関係が悪化して仕事がなくなると困るからだ。

 このような事例でトラブルになりやすいのは、仕様書には書かれておらず、発注側が「これは当然のこと」と考えている“暗黙の仕様”について、認識の相違が発生した場合だ。例えば「ボディの色が試作段階と微妙に異なっている」などの色に関する相違は、仕様書に明文化しにくいため、トラブルになりやすい。ミルキーなホワイトを想定していたら青みがかったホワイトで納品されたというケースがこれに当たる。なお、これは架空の想定であって現実に存在するどこかのメーカーのスマートフォンを指したものでは決してないので注意されたい。

 生産側のメーカーにとっても、製造した数千個、数万個のボディがすべてNGとなると、多大な損害が発生するため、こういうときはこれから先の仕事がなくなるリスクは覚悟しつつ、発注側のファブレスメーカーに対して抗議することになる。

 発注側と生産側がともに想定しなかったトラブルが発生することもある。例えば「ボディの設計が特殊で、手で持ったときや机に置いたときの向きで電波の受信感度が悪くなる」といったケースだ。

 このように「仕様書通りに作ったのに正しく動かなかった」場合、生産側は発注側が用意した図面と仕様書に従って生産しているので、自分たちに責任はないと主張する。逆に発注側からすると、図面と仕様書を渡した段階で問題点に気づいて指摘するのがパートナーとして当然ではないかと反論し、今後の取引を中止することを示唆するような動きに出る。繰り返しになるが、これも架空の想定であって現実に存在するどこかのメーカーのスマートフォンを指したものでは決してないので以下同文だ。

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