回転するものは美しい。設定された回転数で正確に回り続けるモーターは、目で確かめられる「精密さ」を持っている。子供のころ、僕は扇風機の透明なファンが回転している様子を、いつまでも飽きずに眺めていたものだった。
PC関連の部材でいえばHDD、光学ドライブ、そして冷却ファンなどが「回転系」の範ちゅうだろう。HDDと光学ドライブはアクセスランプを注視して、「回転」の模様を想像するしかないから、これを愛(め)でる人は「上級者」といえる。
これに対して冷却ファンは、回転がダイレクトに見られるので「初級者」向けだ。そしてその中でもCPUファンは、起こした風の効果(CPUを直接冷やす)がダイレクトに感じられる点で最もエキサイティングな存在だ。「回転系」の入門分野としては好適だろう。
ファンは各国で作られ、値段の幅もかなり広い。その中で、品質ということになると、日本製が圧倒的ということになる。静粛性、耐久性などどれをとっても一流だ。
インテル製CPUのリテールファンは代々、山洋電気、ニデック(日本電産)製が採用されている。これがさらに金額が張るもの、例えば測定器のような精密機器の冷却用などになるとPanaflo(パナソニック)やミネベアが使われている。流体軸受やベアリングの技術はやはり日本が優れており(生産は中国だが)、「ファン業界」ではブランドになっている。
しかしコスト競争の激しいPC分野では、使われている規格品のファンのほとんどが台湾、中国企業のものだ。大量生産でコストダウンすることで競争力をつけた中国企業。これに対して台湾企業はどこか日本に似ている。自国内に大規模な生産拠点を持たないので、値段では中国企業に勝てない。だから、時々ファン関連ではユニークな製品が発売される。ほかにない製品を開発して付加価値をつけるのだ。
ここでも、最もインパクトの強いCPUファンの分野で、いろいろな製品が開発されている。
CPUファンで最もヒットしたのが写真の左下にあるTITAN社のMajesty(マジェスティ)ではないだろうか。台湾PCパーツメーカーの気質がよい方に出た例だ。たしか2000年の初めの発売だったが、とにかくよく売れた。ぼくは自作機を2台持っていたので2個買ったほどだ。PC雑誌の表紙の全面写真に使われたぐらいだから、そのすごさが分かるだろう。
売れた理由は、カッコよかったからだ。もともとCPUクーラーはファンレスで、そのうちに熱を逃しきれなくなって、上に市販のファンをネジ止めしたようないい加減なものが多かった。
それに対してMajestyは専用設計のファンだ。しかもアルミのフィンのなかに潜り込んでいる。これなら効率的に冷えるはずだ、と思わせるデザインだったのだ(実際はそれほど冷えなかったが)。HPのワークステーション用クーラーを模したデザインともいわれたが、とにかく初めて見る円筒形のボディはなかなかクールだった。
やがて、CPUファン愛好家の誰もがMajestyの後継を期待した。が、Majestyは新CPUの登場に応じて、いくつかのマイナーチェンジを重ねるが、初代ほどのインパクトがあるモデルは出なかったのである。代わりにThermaltake(サーマルティク)社から写真右上のSuper Orbが発売された。サーマルティクの名はこの時初めて聞いた。どうやら、Majestyの製造元らしい。
さてそのSuper Orb、ひとことでいえばMajestyの縦を1.5倍長くして中に上下2個のファンを入れたものだった。それでいて値段はMajestyと同じ! これはお得! ということで即買いした。すぐにPCに装着して……。10日が限度だったろうか。僕はSuper Orbを取り外した。
騒音がひどかったのである。それもキーンというジェット機のような音だ。当時の箱も保存してあるので、書いてあるデータを比較してみよう。
まずMajestyは5センチファンが4500rpmで回転し、ノイズレベルは26.4デシベル(dBA)、まずは標準的な数値だ。これに対してSuper Orbは5センチファンが2個、それぞれ5500rpmと5000rpmで回転、ノイズレベルは32デシベルと34デシベルだ。
単純計算でも、単体でMajestyよりうるさいファンが2個付いてるわけだからすさまじい騒音だ。「Majestyは見た目ほど冷えない」と書かれたPC誌の記事を、設計者はよほど気にしていたものとみえる。会社の創業時は、このような力が入り過ぎた製品ができやすい。だからその後ろを付いて歩きながら、そういう製品を拾い集めていくのが楽しい。
PCショップに入り浸り、そんなバカバカしいことを繰り返し、訳の分からない部品が次々と増えていくのがPC自作の面白さといえる。少々のことには目をつぶろう。それが台湾PCパーツメーカーのよさなのだから。
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