書道の一筆に通じる迷いなく引かれた線――ソニー「VAIO Z」:矢野渉の「金属魂」的、ノートPC試用記(1/2 ページ)

» 2010年04月01日 16時00分 公開
[矢野渉(文と撮影),ITmedia]

再び「ある日突然、完成形で」現れた“Z”

 僕が細々と書きつづっている「金屬魂」という連載の記念すべき第一回目は、2003年発売の「VAIO NOTE Z」というPCを取り上げている。僕はその製品の完成度の高さを賞賛し、短命に終わったことを惜しみ、そして同じコンセプトの製品が復活することをいつまでも待っている、と書いた。

 実は僕がこの文章を書いた前年の2008年、VAIOノートのZシリーズは既に復活し、発売されている。「VAIO type Z」というハイエンドのモバイルPCだ。値段は高いが、それに見合うだけのスペックとデザインが施されている。しかし僕はこの機種に、「Zの復活」とはいい切れない部分を感じていたのである。

 エポックメーク的な製品は皆そうなのだが、初代のZは「ある日突然、完成形で」現れた。実際に使ってみて、この部分をもっと改良してほしいという部分がまったくないのだ。いや、あったとしてもそれがむしろ魅力に見えるという、不思議な存在だったのである。それぐらい突き抜けていた。VAIO type Zはそれに比べてかなり優等生的だ。破綻がなく、質感は最高なのだが、なぜか面白みに欠ける。よくできたモバイル「ビジネス」ノートPC、というイメージが常について回るのだ。

 ところが2010年初頭発表の「VAIO Z」シリ−ズは、どうやら別物らしいという胸騒ぎがした。仕事柄、新しい機種は発表前にスタジオ撮影をする。実際に触り、スペックを知り、ついには製品を分解した写真を撮影し(これはソニー社内で行った)、予感は確信に変わった。Zは復活したのだ。

見た目は旧VAIO type Zの流れをくむが、新型VAIO Zはすべての面で突き抜けている。久々に作り手の顔が見える製品だと思う

 試用したVAIO Zは、フルHD液晶、Core i7-M620(2.66GHz/最大3.33GHz)、8Gバイトのメインメモリ、256GバイトのクアッドSSD、Blu-ray Discドライブ搭載のVAIOオーナーメードモデルだった。直販で32万円ぐらいの構成だ。

 本体デザインで目をひくのが、キーボードのサイドを構成するラインだ。僕はこのラインをどれほど待ち望んだことだろう。一体成型だからできる、まったく継ぎ目の無いライン。これは書道の一筆に通じるところがある。なんの逡巡(しゅんじゅん)もなく引かれた線は見ていて気持ちがいいし、その意図がはっきりと読み取れる。初代VAIO NOTE Zは、サイドラインのデザインが全体の存在感を象徴的に表していたのだが、VAIO Zシリーズもついにその高みまで到達したようだ。

VAIO Zシリーズ(上)とVAIO NOTE Z(下)のサイドライン。継ぎ目のないデザインが肝だ

 おそらくその美しいラインを守るために設けられたのが、キーボード面の一枚板とは別体になったパームレストである。アルミ削り出し素材の、一段盛り上がったそれは、キーボード面に手のひらが直接触れるのを拒否しているかのように見える。

 ノートPCを使い込むと一番汚れてくる部分はパームレストだ。塗装がはげたり、人によっては一体何を分泌しているのか、その部分が変色してきたりする。こうなるとそのPCの存在をめでることができなくなってしまうのだ。VAIO Zシリーズではそれを避けるために耐性の強いアルミ素材を使い、しかもパームレスト部を樹脂製の別パーツにすることによって、ヘアライン加工が美しいキーボード面の一枚板を守っているのである。

 この製品を眺めていて不思議に思うのは、「産みの苦しみ」のようなものがまったく感じられないことだ。実際は相当な苦労を重ねて開発されたことを知っているが、完成した製品に、激しいディスカッションを繰り返し、落とし所を探して、などという気配は微塵(みじん)もない。デザイナーも技術者も、かなり楽しんでいる感じを受ける。「Zを作ろう」という部分だけでチームがうまくまとまったのではないかと思う。たぶんその環境が出来上がった時点で、「ある日突然、完成形で」VAIO Zシリーズが生まれることは必然だったのだ。


Sony Style(ソニースタイル)
Sony Style(ソニースタイル)
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