話題のサービス、「Mac App Store」がスタートした。iPhone/iPad向けのApp Storeと比べて、はるかに高額なソフトが多い中、オープン初日だけで100万ダウンロードを達成するなど、滑り出しはいい。
ツイッターなどでの評判は賛否両論があるが、筆者の見立てでは、時間が経てば経つほど価値が増大し、しばらくすると「Mac App Store」抜きではMacを語れなくなるほどの重要なサービスになるのではないかと想像している。それどころか、今後ほかのOSにも模倣されかねない、PCの未来を決定的に変えてしまうサービスではないかとさえ思っている。その理由を以下で説明しよう。
Mac App Storeはご存じの通り、Macのアプリケーションを発見、購入、ダウンロードするサービスで、新型MacBook Airが登場した「Back to the Mac」というイベントで発表された。
最近のアップルは、Macが与えている印象よりも、スティーブ・ジョブズCEOが「ポストPC機器」と呼ぶ、iPhoneやiPad(そしてiPod)、Apple TVといったデバイス群のメーカーとして認知されるようになった。「Back to the Mac」というイベント名には、これらポストPC機器での成功体験で学んだことを、今度はMacに還元する、という意味が込められていた。これは今後、長期に渡ってMac開発の方向性となるはずだが、アップルは同イベントで、その第1弾となる4つの発表を行っている。
まず1つめが、フラッシュメモリ採用により起動やスリープからの復帰が劇的に速くなったMacBook Air――どこか、これまでのPCから一皮むけた印象を感じさせる新時代のMacのハードウェアだ。2つめは、iOSのアプリケーション同様に、全画面表示での写真の閲覧や編集に力を入れた新しいiLife。3つめは、その全画面操作やアプリケーションを起動するホーム画面(Launch Pad機能)など、iPadの親しみやすさや操作のしやすさを、うまく取り入れた2011年夏リリース予定の新OS「Mac OS X Lion」だ。
そして4つめが、そのMac OS X Lionの重要機能でもあるMac App Storeとなる。もっとも、Mac App Storeの成功はアップルの努力だけで成り立つわけではなく、開発者側の協力も必要だ。そこでアップルは、おそらくMac OS X Lionのリリースまでに問題を洗い出しておき、成熟した市場ができあがるようにと期待を込めて先行スタートする決断をしたのだろう。
例えば、さっそく一部の開発者が、アップルの指示に従わずにやや手抜きな方法でMac App Storeでの配布を行ったところ、それらのアプリケーションを無料で入手する方法が発見されてしまった。これらのアプリケーション開発者はMac OS X Lionまでには、きちんとアップルに推奨されている方法にアプリケーションを作り直すだろう。また、アップルの側も何らかの対策を講じるかもしれない。
これはフィル・シラー副社長らアップルの重役が常々口にすることだが、アップルは本体(ハード)、OS、アプリケーション、さらにはそのサービスまですべてを統合的に提供する業界で唯一の希少なメーカーだ。
しかし、そのアップルが作り出すMacの生態系の中でも、これまで1番コントロールが利いておらず、統制が取れていなかったのがアプリケーションの流通であり、今回のMac App Storeはその部分を根本から変えるものになるはずだ。
App Storeはソフトウェアの利用者が簡単にレビューを書き込めるのもいいところかもしれない。辛らつなレビューを書く人もいるが、今後の改訂に役立つヒントも多い。昔のApp Storeは、非生産的で意味のない中傷のようなレビューで場が荒れることもあったが、最近はそれが少ない。アップルがきちんと対策を講じたからだ。
1つは機能的アプローチで、第3者にレビューそのものを評価できるようにさせた(「このレビューは参考になりました」の評価と「このレビューへの懸念事項をコメントする」の2つの機能を用意)。
もう1つはデザイン的アプローチだ。「ブロークンウィンドウ理論」というのがあるが、それに通じるものがある。例えば、場が荒れた雰囲気になると、後から書く人も悪い雰囲気に引きずられて悪いコメントを書きやすくなる。そこでアップルは、レビュー表示を最新バージョンのレビューと、それ以前のバージョンのレビューとで分けるようにデザインを変えた。場が荒れてきたと感じた開発者が、とりあえず最も深刻な問題を解決したうえでアプリケーションのアップデートを行えば、荒れたレビュー項目は「全てのバージョン」ボタンをクリックしない限り表示されなくなり、再びフレッシュな状態からレビューが書き込まれるのだ。
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