コラム
» 2011年01月14日 18時14分 公開

“負の遺産”を断ち切る:「Mac App Store」はソフトウェア産業を21世紀へと誘う (4/5)

[林信行,ITmedia]

20世紀コンピューティングの「負の遺産」を断ち切る

 ここでMac App Storeだけでなく、iOSのApp Storeの革新性について改めて強調しておきたい。

 これまでのPCが果たして本当に便利だったのかというと、筆者は疑問を感じている。PCの世界では、黎明(れいめい)期からソフトウェアの違法コピーが横行しており、その対策としてコピー保護機能も1980年前半から出始めていた。

 ソフトウェア機能の本質とは一切無関係のコピー保護機能のために値段が高くなるアプリケーションもあれば、コピー保護機能のバグのためにクラッシュしやすくなってしまうアプリケーション、動作が遅くなってしまうアプリケーション、起動の度に面倒な操作が伴うアプリケーションも少なくなかった。

 この不正コピー技術とコピー保護技術のイタチごっこが、PCの使い勝手の本質からかけ離れた20世紀のPC進化の暗黒面の1つなら、もう1つの暗黒面はウイルスの問題だ。インターネットからダウンロードされるソフトやファイルには常にウイルス、ワーム、トロイの木馬といったシステムに害をなすプログラムが潜む危険性を伴っていた。

 このウイルスと戦うために作られたウイルス駆除ソフトは一見、便利ですばらしく思えるが、こちらもPCの本来の活用とはスジが違うテクノロジーである。このウイルス駆除ソフトのために、起動の度に長時間待たされたり、ただメールを1通チェックしたいだけなのに、やたらとしつこくウイルス駆除ソフトのライセンス更新を迫られるのは、やはりPCの進化の本筋からは外れている(とはいえ、Windowsはウイルスが多いプラットフォームなので、これがなくてはやっていけないのだが)。

 これに対してMacは、そもそもプラットフォームとしてこうしたマルウェアが少なかったが、これに加え、アプリケーションが審査を経て提供されるMac App Storeの登場によって、そうしたマルウェアを配布するのがより難しくなった。

 Mac App Storeは、これまで誰もが本質的解決に迫らなかった20世紀のコンピューティングにおける“負の遺産”を、根本から解決する初めての本格的なOSレベルのサービスといえる。

「Android Market」がダメなところ

 App Storeが、21世紀らしいコンピューティングのかなめ、という話をしたところで、ちょっと脱線させて欲しい。

 ここからは少しだけスマートフォンの話になるが、筆者が最近すごく残念に感じているのがAndroidのアプリケーション市場であるAndroid Marketだ。審査不要の簡単な登録がウリにはなっているが、それによって実際にマルウェアなどが登録される事件が起きており、20世紀の負の遺産をそのまま継承してしまっている。

 おまけに、審査なしのオープンな市場ということで、多くの開発者が1番期待を寄せているアプリケーション登録数の増加だが、Android用アプリケーションの数は、iPhoneのアプリケーションが30万本ほどだった2010年9月時点で3分の1弱の9万本程度。

 こう書くと、iPhoneのほうが立ち上がりが早かったから当たり前、という人も出てくるだろう。しかし、どれくらい早かったか見てみるとそれほど大差はない。iPhoneの誕生は2007年だが、アプリケーションの開発キット(SDK)が配布され始めたのは2008年3月のことで、Androidの2007年11月よりも遅い。

 また、App Storeがオープンしたのは2008年7月のiPhone OS 2.0リリース/iPhone 3G発売と同時のタイミングだが、Android Marketがオープンしたのは、米国で最初のAndroid端末、「G1」が出荷された2008年10月のタイミングで、こちらも3カ月ほどしか差がない。それでいて、その2年後でも(差が縮まったとはいえ)3倍近い差があるのだ。

 だが、Android Marketの問題はこれに止まらない。iPhoneアプリケーション開発者の中には、iPhoneはアプリケーションが多すぎて自分のソフトを見つけてもらえないと不満をいう人がいる。だからiPhoneではなく、Android向けの開発をすると語る開発者もいる。しかし、実際にAndroid Marketを使ってみると、アプリケーション量は3分の1と少ないはずなのに、App Storeよりもはるかにアプリケーションを見つけにくい印象がある。

 筆者が仕事でAndroidのデモをするために、面白いアプリケーションを紹介しようと探そうにも、そもそも見つからない。

 また、これはスティーブ・ジョブズ氏が懸念していたことの1つでもあると思うが、いろいろなキーワードでアプリケーションを検索すると、その中に1個や2個はグラビア系アプリケーションなどの“お色気”系コンテンツが出てくる。そんなAndroid端末を安心して子供に使わせることができるだろうか。

 もっとも、アプリケーションが見つけにくくても、せめていいアプリケーションを取り上げて紹介してくれるブログなどがたくさんあれば状況は改善するが、そうしたものもiPhoneに比べて圧倒的に少ない。これは端末の利用者が少ないから、ということもあるが、インセンティブの問題もあるだろう。

 iPhoneの有料アプリケーションは、ブログで紹介し、そのリンクをたどって購入されれば、LinkShareのアフィリエイト収入がもらえる(登録が必要)。このアフィリエイトがブロガーにとってはアプリケーションを紹介するインセンティブになるし、読者にとっては紹介記事を書いてくれたブロガーへの投げ銭代わりになる。さらに、そうした健全な関係によってアプリケーションが売れることが、開発者にとってもよいアプリケーションを作ろうというモチベーションにつながる。ところがAndroid Marketには、残念ながらそうした仕組みがない。

 Googleは有能な会社だ。ITリテラシーが高く、検索能力も高いギーク向けのすばらしい製品はたくさん出している。しかし、コンシューマー向けに使い勝手の練られた製品を作るのは下手だと思わせる、まさに好例がこのAndroid Marketであり、Androidの将来に対しての大きな不安要素となっている。もっとも、最近少しだけ風向きが変わるニュースがあった。どうやらGoogleに代わってAmazonがAndroid向けの有望なアプリケーション市場を立ち上げてくれそうだ。ということで、Androidの市場に関しては、こちらに期待を寄せている。

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