コラム
» 2011年01月14日 18時14分 公開

“負の遺産”を断ち切る:「Mac App Store」はソフトウェア産業を21世紀へと誘う (3/5)

[林信行,ITmedia]

アップデートも一元管理

App Storeアイコンにアップデートが可能なソフトウェアの数が表示される

 Mac App Storeは、ソフトウェアのメンテナンスや支払いにも革命をもたらす。これまでにも、Mac OS Xそのものや標準で付属するアプリケーション、さらにiLifeやiWorkくらいまでは、Mac OS Xの「ソフトウェアアップデート」機能を通してスマートに最新バージョンにアップデートができた。

 しかし、他社製ソフトウェアのアップデートは違う。マイクロソフトやアドビのように自社製のアプリケーションのアップデート版をチェック/ダウンロードする専用アプリケーションを用意しているものもあれば、アプリケーションそのものにアップデータ機能を持つものも多い。

Mac App Storeを使うと、アプリケーションのアップデート管理が劇的に楽になる。開発者にとっても、アプリケーションの本質に関係のないアップデート機能を開発する手間を省ける

 このアプリ内蔵型アップデータは質がバラバラで、アップデート版を自動的にダウンロードして、開いていた書類を引き継いだうえで起動し直してくれるものもあれば、ただイメージファイルをダウンロードするところで止まってしまうものもあり、体験がバラバラで、初心者には分かりづらい。こうしたアプリケーションが提供する本質的な機能から外れたところこそ、OSがきれいに解決してくれるべきところだろう。

 Mac App Storeは、まさにそれをやってくれる。iOSのApp Store同様に、Mac App Storeのアイコン上にアップデート可能なアプリケーションの数が数字で表示され、「アップデート」タブからアップデートのボタンを押せば、アップデート版のインストールから古いバージョンの消去まで、一連の流れをきれいかつスマートに処理してくれる。こうしたところからもPCそのものに対する印象が変わってくるはずだ。

支払い、アクティベーションライセンスも統一化

 ちなみにシェアウェアでは、しばらく試用した後、気に入ったらお金を支払うのが常だったが、この支払い方法もこれまでは複雑だった。さらに支払いを行うと送られてくるシリアル番号や、アクティベーションキー、そしてそれらのメールアドレスやIDとのひも付けも非常に複雑だ(この問題はマシンを買い換えて、アプリケーションを再インストールする度に思い起こされる)。また、ユーザーはPaypalやkagi.com、シェアレジといったサービスの概念を理解し、ユーザー登録して支払う必要があった。クレジットカードを持っていないと手続きはさらに大変だった。

 しかし、Mac App Storeでは、iTunesのアカウントを持っていれば、何も特別な手続きをする必要はない。たとえクレジットカードを持っていなくても、セブンイレブンなどに行けばiTunes Gift Cardを購入できる。さらに米国のiTunesではAllowance(おこづかい)機能もある。あらかじめ設定しておけば、親が子供へ、あるいは企業が社員へ毎月10〜50ドルのiTunesクレジットを自動的に発行してくれるのだ。

 iTunesは、もはや世界最大規模のコンテンツ流通プラットフォームだが、その規模を支えているのは、ほかとはケタ違いの使いやすさだ。Mac App Storeは、その購入体験のすばららしさを見事に継承している。

 ちなみにソフトウェア対価に関して、Mac App Storeは、支払い以外の点でもいくつか大きな変化をもたらしている。まず1つは先払いが基本であること。これまでのシェアウェアの中には、たっぷり試用してもらったうえで、気に入ったら支払って全機能を使えるようにする、といった売り方が一般的だった。しかし、Mac App Storeでは今のところ先払いのオプションしか用意されていない。

 iPhone/iPadでは、In-App Purchase(アプリケーション内課金)と言う仕組みがあり、これを使って例えば月額課金に近いこともできたが、Mac App Storeではこうしたしくみを提供する予定は今のところなさそうだ。

 つまり、Mac App Storeは、当面の間は、シェアウェア市場の置き換えを狙ったものではなく、むしろ、これまでパッケージで流通していたソフトウェアを手軽にオンラインで流通しようという目的のほうが大きい。

2台目、3台目のMacでもMac App Storeを起動し、Apple IDでログインすると、購入済みアプリケーションの一覧が現れるので簡単に同じアプリケーションをインストールし直すことができる。これはHDDがクラッシュした場合などにも便利だ

 Mac App Storeが、もう1つ変えようとしているのがソフトウェアライセンスの概念だ。これまでPCでアプリケーションをインストールしようとすると、必ずインストール中に、おそらくほとんどの人が読まずに無視しているライセンスに関する約款が表示されていた。

 実はアプリケーションによってはPC1台でしか利用が許可されておらず、2台目のPC用には買い足さなければいけないルールになっていたり、2台目まではOKだったり、同じ家なら何台でもコピーできたり、同じ人が使うPCであれば何台でもコピーが可能だったりと、利用に関する規約が異なっており、これが複雑さを生んでいた。

 Mac App Storeで流通するアプリケーションは、すべて1つのルールの下で扱われる。アップルの公式FAQに書かれたそのルールとは「Apps from the Mac App Store may be used on any Macs that you own or control for your personal use.」つまり、同じユーザーであればMacが何台あっても自由にインストールできる、というきわめて寛容なライセンスになる。

 これを悪用してアプリケーションIDの共有による不正コピーが行われることを心配するソフト開発者もいるかもしれない。確かにその可能性は否定できないが、IDを共有する人は、自分のクレジットカード情報も明け渡す覚悟が必要になる。同じApple IDで、曲や映画、アプリケーションを買いまくられる危険を冒してまでIDを共有する人は多くはないだろう。

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