PandoraはGP2Xの“魂の後継機”と言われるように、Pandoraユーザー、特に開発者はGP2Xユーザと重複する。そのため、GP2X上のソフトウェアは高い確率でPandoraにポーティングされることが期待され、実際続々と増えている。
ここではPandora上で動作するソフトウェアを紹介していこう。
GP32を一躍人気機種にしたのはエミュレーターの存在が大きい。エミュレーターが利用できれば、その上で動作するソフトウェア資産をそっくり受け継げるため、(動作検証は大変であるものの)そのプラットフォームで利用できるソフトウェアを一気に増やすことができる。
また、GP2XとPandoraは同じARM系のCPUコアを使用していること、クロスプラットフォーム対応のSDLライブラリが用意されていること、さらにエミュレータ自身もマルチプラットフォームを意識したものが増えているということもあって、比較的移植は容易といえる。また、ハードウェアをソフトウェアで実現するという、ある意味「力業」でもあり、Pandoraの性能誇示という意味もあって、Pandoraリリース前からエミュレーターの移植が相次いだ。
CPU性能の高さに加えて、マルチプラットフォームのライブラリ、X Windowが利用でき、キーボードも搭載されていることから、今後はGP2Xに移植されなかったエミュレーターも増えていくだろう。なお、GP2Xとの互換レイヤーとして動作するGINGEを利用すれば、GP2Xのソフトウェアも動作させることができる(ただし、画面もGP2X互換の320×240ドット表示だ)。
なお、エミュレーター本体は、配布元とのライセンス条項に基づき、基本的にフリーで利用可能だが、動作に必要なBIOSや、エミュレーター上で動かすROMイメージは個別の使用許諾に依存するので注意してほしい。
ゲームはやはり人気のあるジャンルだ。今はまだ移植物が多いものの、Pandora所有者が増えてくればオリジナルも期待できるだろう。
日本語入力が未実装であるため、テキスト系のアプリケーションの状況は厳しい。その一方でWebブラウザやメディアプレーヤーは開発も盛んだ。
TIはマーケティング戦略として、オープンソースプロジェクトで「OMAP3530」の採用実績を作りたいと考えていた。そこで電子パーツ販売を行うDigi-Keyと企画・制作したのがシングルボードコンピューター「BeagleBoard」である。Pandoraはその技術供与を受けることになった。
TIがPandoraに目をつけた本当の理由は定かではないが、筆者がCraigに聞いた限りでは、GP2Xでエミュレーターをはじめとする数多くのアプリケーションが有志の手によって作られていたことが理由の1つだったようだ。
これで自分たち自身で開発ができる。おざなりの設計に失望することも、商業上の理由が足かせになることもない! Craigたちに射した希望の光はまぶしいものだった。
基板設計はカナダのMichael Weston、ケースデザインはGP2X F100のデジタルパッド改造で知られるDaveCが担当した。Linuxのディストリビューションの1つであるAngstromをDJWillisが移植し、メガドライブのエミュレーター「PicoDrive」の作者として知られるNotazがドライバを書いた。みなGP32Xのコミュニティでよく知られるメンバーばかりだ。
そしてついに、GP2Xキラーの名前も決定した。「Pandora」――この名前は、GP32XやGP2Xのように英字と数字の型番のようなものを避け、“多くの言語で意味の通じる言葉”として選ばれたものだ。
2008年3月、最初のサンプル基板が公開された。Michael Westonが設計した8層基板の上面には、キーマット用の接点が並び、底面には2基のSDメモリーカードスロットが異様な存在感を示していた。そして2008年4月にはディスプレイへの出力、MplayerやFinal Burn Alphaが実現されている。開発は順調に進んだ。
約半年後の2008年10月1日(日本時間9月30日)、ついにPandoraの予約販売が3000台限定で始まる。予約はあっという間に3000台に達し、Craigたちは期間を延長して予約台数を4000台まで増やすことに決めた。すべてがうまく行っているかに見えた。
そう、当初Pandoraの発送は2008年11月の開始を予定していた。「クリスマスのころにはきっと自分の手元にも届いているだろう」――運良くファーストバッチの4000台に滑り込むことができた予約者たちは、誰もがそう思っていたはずだ。もちろん、Craigたちもそう信じていた。
しかしご存じのとおり、実際に製品が発送されるまでには、ここからさらに2年を待たねばならない。つまづきの始まりは“リーマンショック”だった。(つづく)
次回はOpenPandoraの開発環境について紹介していこう。
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